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夢小説設定
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「・・・んー?」
目を覚まして起き上がると、目の前に広がるのは青々とした広大な草原と、曇りのない空だった。
ピーヒョロロと鳴くのはトンビだろう。自分の真上を旋回していた。
そして、どこか遠くでは鳴り止まない鐘の音が響いている。教会でもあるのだろうか。
草原の丘の上には世界樹のような大木が植わっていた。そこまで歩いて、丘を見下ろすと集落が見えた。
集落の北側に教会があって、そこから鐘がなっていることがわかった。
ユリウス様を庇って私は死んだと思ったのだが・・・ここは死後の世界だったりするのだろうか。
それにしてはあまりにも草の匂いや澄んだ空気等がやけに現実世界に近い。
ここはどこだろうか。そう思って見渡していると、こちらの方にやってくる一人の女性の影が見えた。
ピンクの髪に少し幼さが残る女性のエルフ・・・『憎悪』のファナに雰囲気がどこか似ていた。
彼女は私を見つけるなり笑顔を浮かべながらこちらに走ってくる。
「リン様!もうこんな所にいたんですね。探しましたよ。皆教会であなたをお待ちです。早く行きましょう!」
この女性は何を言っているんだ・・・?と首を傾げていると、なんと自分の中から、エルフの耳を持った別の自分が出てきて、彼女に話しかける。
「見つかってしまったわね、ファナ。もう私の教えなどいらないと思うのだけど」
「とんでもないですわ!あなたの慈悲と博愛の教えこそエルフの精神に相応しいと皆が申してますもの。光の精霊があなたに従うということはあなたこそが神の代弁者なのですから」
そう言って二人は談笑をしながら丘を下って教会へと向かっていった。
気が動転していたが、おそらくこの世界は、前世のエルフだった頃の記憶の世界で、私のことは誰も見えてないようだ。
自分も彼女たちを追って丘をおりて集落へ向かうと、そこにはマナに愛されたエルフの子供達が火や風の魔法を使って遊んでいた。
前世の私は周りに好かれてたらしく、道行く人々に話しかけられたり果物を貰ったりと教会への道のりは途方もないものだった。
中でもパトリという少年は、前世の私のことをよほど信頼していたらしく忠犬のようにリンの隣をぴったりとくっついて歩く。
・・・彼は、どこかで会ったことがあるような感覚を感じた。私が知っている者はリヒト以外いないのだが・・・。
「リン様、リン様にとって『愛』とはどのようなものですか?」
「ふふ、パトリ。さては少し背伸びをしていますね?」
「そ、そんな。リヒトさんとテティアさんを見てちょっと思っただけです・・・」
顔を真っ赤にして口をとがらせるパトリを息子のように思っているのか、リンはパトリを慈愛の笑みを携えて見ていた。
彼女こそが、おそらく慈悲と博愛の精神を持った『伝説の聖女』だったのだ――――――自分とはまるで違う。
「いいですか、パトリ」と聖女 リンはパトリと同じ視線に腰を落とす。
そのアイスブルーの宝石のような彼女の瞳にパトリはさらに顔を赤くして視線をそらした。そうか、幼いながらもこの子は聖女 リンのことが好きだったのだ。
「愛とは、寛容であり愛は親切です。また人を妬みません。
愛は自慢せず、高慢になりません。
礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばずに真理を喜びます。
すべてを我慢し、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。愛は決して絶えることはありません。」
だから、と聖女 リンは続けた。パトリの頭を優しく撫でる温かな手にパトリはうっとりと彼女を見つめる。
「エルフと人間は互いに理解し合い、近づくべきなのですよ」
穏やかに笑う聖女 リンを最後に、視界がめくるめく姿を変えて、ついには人間がエルフを殲滅したあの日になった。
真っ赤に染めあがる空と、そこから発動される光魔法とエルフの魔力を奪う魔導具。
エルフは抵抗することも許されず、次々と人間の魔法によって無抵抗に殺されていった。
鳴り止まない悲鳴と混乱の最中、聖女 リンがエルフのリーダーであるリヒトのもとへ行き、自らの姿を変えた。
それは、誰もが息をのむほど美しく神々しい羽を雄大に動かし空へと羽ばたく。
彼女は、人間達に鉄槌を施し、エルフの転生に何か呪文を唱え、初代魔法帝に神の加護を与える。
この混沌の中、神の代弁者のように、一筋の光として光の杖を振り羽ばたく姿は誰もが『伝説の聖女』様と言うに相応しかった。
「残念。この姿はエルフのリンでもなくて、転生前の本当のリンの姿なの―――あなたは光の剣に刺されて死んだわ。
器が回復するまでしばらく私の中で眠っていてね―――――」
ずっと傍観者であったはずなのに、自分に向かって、その聖女様は微笑んだ。
光の杖を天に振りかざし、目が開けられないほどの光を放つ。自分どころか世界をその神々しい光で包み込んだ瞬間、自分の意識は途絶えてしまった。