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夕刻――――
「・・・・え、もう日が暮れてるんだけど・・・」
起きた時には外は夕焼けが見えていた。どうやら私は誰にも起こされることなくずっと眠っていたらしい。
やけに肌寒いなと思って自分の体を見ると、肌着を纏わずシーツと毛布にくるまっていたのだった。昨夜の情事を思い出して私はだんだん顔に熱が集まってくるのを感じた。
「え、え、え――――――」ウィリアムさんの計らいだったのか、ただの偶然だったのか今の今まで誰も私を起こしてくれなかったことを心の中で感謝した。
そしてシーツにくるまって、ぐるぐるとこれからどうするか頭の中で考える。
「・・・・・・・・とりあえず、服を着て、飲み物でも飲んで、落ち着こう私」
毛布にくるまりながら、ベッドから出てクローゼットに向かう。
ドレッサーの鏡から自分の体が見えて、腕も胸もお腹も・・・体のほとんどに愛し合った赤い跡が残っているのが見えて声にならない声をあげてしまった。
『金色の夜明け』のローブを羽織って、紅茶を淹れて悶々と昨日のことを思い出す。おそらく、ウィリアムさんの自我が保たれる最後の日だったのだ。
ぽっかりと自分の胸の中が空虚になっていることに気付いた。彼を失った私は、これからどうやって生きていくのだろう。
どうやって、この失われた『金色の夜明け』を率いていくのだろう――――だんだんと、このアジトに輝く豪華絢爛な装飾や家具は、ウィリアムさんの残した最大の皮肉に見えてきた。
ぼうっと窓から外を見つめていたが、部屋の外から聞こえる慌ただしく廊下を走る音を不思議に思い、外に出た。
すると団員たちは私を見つけるなり、すがったような声で「リン様!!!!」と泣きつく。
「えっと、どうかしましたか・・・?」と聞くと、「『黒の暴牛』の団長がお見えなのですが、ヴァンジャンス団長が見つからず・・・!何か事情を知っていますか?」と聞かれた。
そんなのむしろ私が知りたいなあと思いながら、ヤミさんが来ているということでとりあえず「私が行きますので、連れていってください」と答える。
客室に通されると、そこには苛立っているヤミさんが『金色の夜明け』の団員たちに怒鳴りつけていた。
「オイテメコラ、謝罪するとか言っといてどんだけ待たせてくれてんだ、あの金ピカヘンテコ仮面団長はよ・・・!
うちのアッシーくんが不在だからここまで来るのも大変だったんですけど~
そもそも試験でとはいえテメーんとこの副団長がうちの団員に意識不明の重症追わしてくれたんだ・・・
本来ならそっちが詫び入れにくるべきなんじゃねーのか・・・?
なめてんのか?金色の夜明け・・・!」
彼の話を聞いてると正論過ぎてぐうの音も出ない。
私がその場に出てくると、ヤミさんはマナの重圧を少し和らげて、「おう」と声をかけてきた。
「ごめんなさい。ごもっともすぎて反論の余地がありませんわ、ヤミさん」
「だろ?てめえこんなところで油売ってないで早くうち戻れ」
「ふふ、残念ながら神の啓示です」
金色の夜明けに「下がっていいわ」と言うと、団員たちは一礼して足早に去っていた。
「なんかおまえキャラちがくね?下民の高飛車貴族気取りはいい気がしねえぞ」
「ほんっとうにヤミさんって直球というかデリカシーがないというかたまにイラっとします」
「お、本性だしたな」
さっきのマナの重圧はどこへやら、ニカッと笑ったヤミさんに何にも言えなくなるあたり私はヤミさんに弱い。
私は向かいの椅子に座り、外の様子を見つめながらつぶやいた。以前ランギルスに突然仕掛けられた汚いいびりを思い出す。
「私にとって、『金色の夜明け』は『黒の暴牛』と違って戦場なんですよ。気を張ってないと潰される」
「ほお、おまえも大変なんだなー」
「他人事ですね」「他人だからな」
そらそうか、と反論の余地もなく煙草を吹かすヤミさんを見つめた。
なんでこの人は異邦人なのに自然体で、妬みから誹謗中傷なんて日常茶飯事なのにめちゃくちゃ元気なんだろうなあ。
ずっと見つめていると、「なんだオレに惚れたか?」とか冗談めかして言ってきたので脛を蹴り飛ばした。
低いうなり声をあげて彼は私を睨みつける。脛が相当痛かったらしく涙目になっていた。
「まじでオマエ本当に聖女なの?平等に愛を施すのが聖女様ってもんじゃねえの?いってえ」
「とても愛のある施しをしていると思うんですけど――――?」
なんて冗談を言って笑っていると、私たちの前にマルクスの映像魔法が映った。
『各魔法騎士団長および聖女に緊急通達!!クローバー城にて魔法帝が白夜の魔眼頭首とおぼしき人物と交戦中――――!
各団員は団長の指示に従い警護を―――――』
ヤミさんと私の目が合う。嫌な予感しかしなかった。
クローバー城の方を見ると光魔法が幾度もはじいているところが見える。
おそらくあそこでユリウス様とリヒトが戦っているのだろう――――
「ヤミさん・・・!先に行きます・・・!」
遠くでヤミさんが私を止める声が聞こえたが、大人しく話を聞いてる場合ではない。
いちいち箒なんて乗ってられない。とにかく早く行って二人を止めないと――――光の精霊を竜に変化させて、私は光魔法と時間魔法がばちばちと衝突している戦場に突撃した。
――――
リヒトが封印魔法を解除し、“光魔法 審判の矢”を発動した。王国全土を覆うほどの無数の光の矢は、今にも一斉に降り注ごうとしていた。
自分も光防御魔法で対抗しようとするが発動が追い付かず王貴界のみしか範囲が届かない。もうおしまいだ――――そう思った瞬間、ユリウス様の“時間反転魔法 クロノアナスタシス”が発動した。
リヒトがその瞬間を逃さず、ユリウス様に光の剣を向ける。ユリウス様はそれに気づいてるはずなのに、国民を護るために魔法を発動し続けることを選んだ。
防御魔法が間に合わない―――――そう思った瞬間、私はリヒトの光の剣に向かってユリウス様の前に立ちはだかった。
すぐに自分の腹部から激しい痛みと、口から夥しい血が溢れてきた。膝に力が入らず倒れ込む。視界がかすんで前が見えない。
どくどくと全身が脈打っているのがわかる。頑張って血液を全身に回そうとしているのだろうか。もう視界は真っ暗で何も見えない。
リヒトの悲痛な叫び声も聞こえなくなった。ああ、死に際って寒いんだな。
自分が目を開けているのか閉じているのかもわからない。人の体は心臓は止まって体が動かなくても数分間、意識はあるらしい。
ユリウス様を守るために動いた体はまるで、自分じゃないような本能が動いた気がしたが、まあ結果的にウィリアムさんの体で殺されたなら私は幸せなのだろう。
彼はもうリヒトに完全に取り込まれてしまったのだろうか。
全ての戦いが終わって、ウィリアムさんに人格が戻ってくれたら、せめて、私の『黒の暴牛』のローブとか遺品を墓に埋めてほしかったのだけれど・・・。
ああ・・・とてつもなく眠い。そろそろ私は現世とお別れらしい。私の奥底に眠っていた本体のリンが「お疲れ様」と言った気がした。
――――
リンがリヒトの光の剣によって刺されたその直後、隙ができた魔法帝ユリウスまでその犠牲となった。
リヒトの前にはリンとユリウスの亡骸が転がり、血色のなくなったリンを抱きしめ、「なんで、どうして」とぶつぶつ呟き混乱していた。
「『伝説の聖女』―――リン様―――あなたは冥府の番人―――死んでしまっては『影の王宮』は開かれません。
ああ、どうしよう―――どうしてあのようなものを庇ったのですか―――」
リヒトから流れる涙は止まらない。ユリウスを剣で貫いた時も涙が流れたが、リンに至ってはおそらくウィリアムとリヒトの二人の感情が共鳴しているのだろう。
「でもやらなければ、これはやり遂げなければ――――」
動かないユリウスから魔石を奪い取る。復活の礎に全ての魔石を埋め、エルフの仲間を転生させるのだ。
リンの亡骸を横抱きにした自分の姿と、エルフが殲滅された最期の自分がみた人間の王女を横抱きにするリヒトの姿が重なった。
ああ、あの時リン様は天使の姿に変わり、リヒトさんとともに転生魔法をかけてくれたのだろうか。
真実はわからないが、あの魔神の骨が残る場所に向かおうとすると、殺気立って睨みつける『黒の暴牛』の男が自分の前に立ちはだかった。