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Side William...
私は明日、最後の時を迎えるだろう。物心がついたころから体をともにした友の念願の夢を叶えるために、国に対して最大の裏切りを侵すのだ。
執務室に控えめなノック音が響く。こんな夜更けに誰が私のもとへ訪ねてくるのだろうと扉を開けると、今私が一番会いたくない女性が立っていた。
「リン・・・ロイヤルナイツの仕事は疲れただろう。治療は今終わったのかい?」
そう問いかけたのだが、私の言葉も上の空なのか、彼女の表情は無に等しく、頬には一筋の涙の跡があった。
ぽすんと、音を立てて私の胸の中に飛び込んでくる。どうしたことかと彼女の肩をそっと掴むと、何も言わずに彼女は静かに泣いていることに気付いた。
「もう行ってしまったのかと・・・思いました。世界樹魔法のマナをかすかに感じて・・・ウィリアムさんに会えてよかった」
間に合ったのですね、と力なく笑って涙をぬぐう彼女を抱きしめる。だから、会いたくなかった・・・。彼女がいると決断が鈍ってしまうことはわかっていたから。
プラチナブロンドの柔らかい髪からふわりと優しいベルガモットの香りが私の鼻をかすめる。腫れ物を扱うように優しく、壊れないように撫でる私の手は震えていた。
その震える手をリンの右頬にあてて、しっかりと目を合わせる。彼女の揺れる深海の海の宝石のような瞳は、ずっと見ていたくなるくらい美しく儚かった。
「――――リン」
ここで愛を伝えても、もう二度と会えないだろう彼女にとっては残酷な言葉になってしまうかもしれないし、謝罪を伝えても彼女は狼狽えてしまうだろう。
続く言葉が見つからず、彼女の名前が静かに沈黙に溶けていく。その右頬に当てた手を彼女の手が上から重なって、戦慄く唇からかすれた声で言った。
「ずっと愛してました―――ウィリアムさん」
その言葉に、息が詰まって涙がこみあげてくる。
彼女はすべて感づいていたのだ、もう私と会えるのは最後だと、そしてこの言葉を伝えられるのもこれが最後だと。
夜が明ける前まで、もう一人の彼も、私が私でいることを許してくれるだろうか。
リンの頬に当てた手を顎に沿わせて、掬った。
「たとえ私がいなくなっても、ずっと君の中で生き続けるよ。――――愛している、リン」
本当なら、誰にも彼女を渡したくないし彼女を幸せにしてあげたかった。
愛おしい宝物を触れるかのような、けれども熱が纏った触れるキスを彼女に落とした。
優しく包み込むような口付けを何度も触れては離れて、見つめ合い、また触れ合う。
彼女が目をつむるたびに、両頬に涙がつたって、自分の胸も苦しくなり、触れていた唇も次第に荒々しさが増した。
呼吸もままならず、深く情熱的に彼女の口の中を求めて、彼女から甘い吐息が漏れる。
「ふっ・・・・ぁ・・・ウィリアムさ・・・・」
蕩けて熟れた桃のような蒸気した頬に私が理性を失っていくには十分だった。横抱きにして私の部屋の隣においた彼女の部屋に移動して真っ新な寝室に寝かせる。
金色の仮面は寝室の脇に置いて、甘く荒々しいキスを止めることはなかった。静かな夜更けに響く自分たちの吐息に熱が帯びてくる。
譫言のように彼女の名前を呼ぶ私の声と、それに答える彼女の涙ぐんだ彼女の声、服のすれ合う音とベッドのきしむ音だけが耳に残った。
これが――――大切な彼女と過ごす最初で最後の夜だった。