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強魔地帯 ユルティム火山。
温泉・・・というにはあまりに野性味あふれたこの火山道に、紅蓮の獅子王団とともに合宿としてここに強制的に連れてこられた私たちは唖然とする。
「地中深くに強大なマナを帯びた火山帯があり溶岩が常に噴出している。普段は人間が近づけるような場所ではない・・・
だがなんと山頂には滋養強壮に良い素晴らしい温泉があるのだ―――!どうだ!?ワクワクしてきただろう!?さあ!!山頂まで行くぞ!!!」
この吹き上がる業火の中登頂しろというのか、下手すれば死人が出るぞ・・・とげっそりと顔色を変える。
そして全然ワクワクしねえ―――と、全団員が心の中を一致させた瞬間だった。
しかし帰してはくれないだろうしなあと思っていると、ヤミさんとシャーロットがマナスキンを纏い山頂へと真っ先に向かっていった。
「(バックレたところでアネゴレオンに追われるだろうし・・・しゃーねーな)」
「(なぜメレオ様は私まで・・・仕方ない酔いも覚めてきたところだ。
こんな山超えられぬのは女の名折れ―――一瞬で登頂してやろう)」
「二人とも置いてかないで~」
自分は攻撃魔法が使えないので落ちてくる岩やマグマを裂いたり壊したりすることはできない。
マナを与える代わりに守ってもらおうと思い二人の後ろについていくことにした。
「うおおおお!さすが団長たちと聖女様!あのマグマをものともしないぞ!」
「いや・・・それよりなぜこの場所であれだけの動きができるんだ!?」
「(アネゴレオンめ・・・さてはおれ達紅蓮の奴らの手本として連れてこられたな・・・
特にシャーロットはこの場所と属性の相性が悪い分手本として最適
リンはいわずもがなマナが尽き果てた奴らの回復役
新人1位の金色のクール君は同世代の若手を鼓舞するため・・・
なんやかんやで抜け目ねーよなあの暴君ねーちゃん。・・・いや、天然か?よくわかんねー)」
「リン!私と勝負だ!」とシャーロットが私に威勢のいい声で言ってきた。
「だから私攻撃魔法が使えないんだって」と冷静に返答しながらシャーロットの背後に隠れる。
そんなこんな言いながら、ヤミさんを置いて行っていたらしく、あっという間にユルティム火山の山頂にたどり着いてしまったのだった。
湧き出る温泉に、ソルがシャーロットの肌を男どもに見せられないと岩魔法で男女の露天風呂に分けてくれた。
さっそく女性陣で温泉に入り、メレオレオナ様がノエルちゃんにノエルちゃんのお母様のことについて語っていた。
その一方で、シャーロットはなぜかのぼせており、(ヤミさんの裸を想像したのだろうと私は思った)ソルが慌てて冷やしている。
ぼうっとその様子を見ながら、こんな穏やかな時間がいつまでも続いてくれたらいいのにと願った。
「ところで・・・リン、お前はロイヤルナイツに入る気はないのか」
団長クラスは特に選抜試験を受けなくても入団できると聞いた。そしてメレオレオナ様はロイヤルナイツの団長を兼任されるらしい。
「『金色の夜明け』に優秀な回復魔導士がいます。彼女がロイヤルナイツで活躍してくれるでしょう・・・
私は、本部に残って調べたいことがあるので遠慮します。申し訳ございません」
「ほう・・・?現場至上主義のお前がそういうのは珍しい」
貴女様と行動してたらそりゃ誰だって現場主義になるでしょうよと思いつつ、「この力はどちらかというと魔宮よりも王都向きですので」というと納得してくれた。
そろそろのぼせてしまうので上がろうとすると、「昔からオマエは働きすぎだ。無理はするな」とぽんぽんとメレオレオナ様に肩を叩かれた。
今まで彼女に「オマエのやり方はぬるい」としか言われてこなかったので、急にメレオレオナ様に気を使われると頭の理解が及ばず反応が遅れてしまった。
「お気遣いありがとうございます」というと、「ふんっ」と笑って彼女はゆっくりと湯につかっていた。9割方スパルタな人だけれど、なんだかんだ、いい上司だ。
温泉合宿から帰路の途中、アスタ君やノエルちゃん、ヤミさんが喋っているのを後ろで見守っているとヤミさんが「何後ろで見てんだ気持ちわりい」と言って輪の中にいれてくれた。
「『金色の夜明け』に行くからってなにも関係変わるわけがねえだろ。遠慮すんな」
「そうですよ!リンさん!正直『黒の暴牛』から離れてほしくねーけど・・・」
「リンさん、海底神殿の時に、私にここが居場所だって気づかせてくれたように、リンさんにとってもここが居場所ですよ」
アスタ君とノエルちゃんが気落ちしている私を励ましてくれた。さすがヤミさんの団員達だ。
とても温かくて、心地よくて、離れたくないと子供のようにわがままを言いたくなってしまいそうになる。
「ふふ、ありがとう。みんな。これから荷造り始めちゃうけれど、心の居場所はいつだって『黒の暴牛』よ」
「んなの、あたりまえだ」
わしゃわしゃとヤミさんが珍しく私の頭を乱雑に撫でてきた。たった2個歳が上なだけなのに大人だなあと思わせてくれる。
ウィリアムさんのいる『金色の夜明け』が嫌いだとかいうわけではない。
これからリヒトが計画している『金色の夜明け』を中心としたテロを知っている私は、もう二度と帰ってこれない未来に足がすくんでいるのだ。
「絶対にみんな・・・守るからね」
誰にも伝わらない小さい呟きは、私の中で溶けて消えた。