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会場に向かっている途中の道で人だかりが出来ていた。
どうやら街の女性たちがこれから会場へ向かう団長たちの出待ちをしているらしい。
「あ、あの方――――クローバー王国の英雄 ウィリアム・ヴァンジャンス団長よ!」
「ああ―――素敵だわ。こちらを一目見ていただけないかしら」
人だかりと黄色い歓声に紛れて、会場へ向かうウィリアムさんを見る。今まで近くにいたはずなのに、とても遠い存在で国の英雄と崇められている。
「でも見た―――?あの新聞記事、『伝説の聖女』様と熱愛の」
「ああ―――でもあの方、下民なんでしょう?まさか、『伝説の聖女』とはいえ分不相応だと思わない?」
そうよねとくすくす笑う女性たち。今まで下民への扱いが普通だった彼女たちには悪気はないのだろう。おそらく、近くにいる私が当の本人だと誰も気づくはずもあるまい。
気分が悪くなって、群衆から抜けて近くの噴水前のベンチに腰掛ける。何度下民だからといって差別されたか数えきれないけれど、いつだってその蔑視に慣れることはなかった。
瞳を落として群衆から目をそらし地面を見ていると、周囲のざわめきが大きくなっていた。何事かと思い、ゆっくり顔を上げた。
先ほど私のことを“分不相応”と言っていた女性たちが唖然として私を見つめている。そして、目の前には金色の仮面を被った国の英雄が私に手を差し伸べていた。
「そろそろお時間ですよ、聖女様」
私はそのウィリアムさんの手を取る。すると、やけに強いウィリアムさんの力にぐいっと引っ張られて体勢を崩し、気付いた時にはウィリアムさんの腕の中にいた。
きゃあきゃあと周囲の歓声とともに、真っ赤になる私の顔。彼には羞恥という言葉を時々問いたくなる。
「また酷いことを言われたのかい?気にしなくていい、私の目に映るのは君だけだ。」抱きしめたままそう私に囁くウィリアムさん。
「むしろその素敵なドレス姿は私の目だけに留めておきたかった」と付け加える。甘い言葉の驟雨に私は頭の中が破裂しそうだ。
「なんで私の居場所がわかったんですか」と問いかけると、ウィリアムさんは目を丸くして、少し考えた後「君の場所はどこでも知ってる」と微笑んだ。それはそれで恐ろしいのだが。
私の腰に手をまわし、ウィリアムさんが会場へと誘導してくれる。たまにたかれるフラッシュ音に私はまたさらし者にされるのだろうかと諦めと沈鬱の混じったため息を漏らした。
会場にたどり着くと、待機通路ではユリウス様をはじめ団長たちがこちらを振り返った。
「やあ、リン。よく来てくれたね。それにウィリアムも。ところでヤミは―――」
「サボりです。」
ユリウス様の枯れた笑い声が響いた。風来坊の彼を律することなど誰もできないなんて昔からわかっていることなので咎める者は誰もいなかった。
そういえばフエゴレオン団長が療養中の間、誰が団長を―――と思い周囲を見渡すと、そこにはメレオレオナ様がいて、まずいと思った矢先、私の首の根っこを捕まれた。
「よう、リン坊」
「メレオレオナ様・・・ご無沙汰しております・・・」
「なんだァ?このちゃらちゃらしたドレスは・・・私がおらん間ずいぶん腑抜けたようだな・・・」
「いやこれには訳がありまして――――というか、王都にご帰還されたのですね」
「ああ、私の愚弟の代わりに団長を、とな――――なんだ?文句でもあるか?」
「いえ、メレオレオナ様とお会いできて光栄です―――新団長への就任、おめでとうございます」
ぱっと首を離され私は大きく息を吸った。昔、私が回復魔導士として働いていたころ、メレオレオナ様に目をかけてもらい、自分のサポート役に回ってほしいとしごきあげられ・・・いや、任務をともにしたときがあった。
彼女の人並外れた攻撃力のおかげで任務はさくさくと進んでいたものの回復が追いつかず私の方がマナ不足で倒れることも多々あった。「気合が足りん!」とたたき起こされることもあったが・・・。
「始めは団長になるのを億劫に感じたが―――またお前と任務ができる日がくると思うとワクワクするな!」
「そ、そうですね」
ちらっと私は後ろを見ると、ウィリアムさんがその様子をほほえましく見守っていた。いやいや助けてくださいよ、とサインを送る。
「どうか、お手柔らかにお願いします。メレオレオナ団長」
ウィリアムさんがその合図を察したのかメレオレオナさんに言ってくれた。一瞬眉をひそめたメレオレオナさんだったが、私たちの顔をみて思い出したかのように「ああ!!」と叫んだ。
「新聞読んだぞ――――オマエら結婚したのか!?」
「「してないです」」
ウィリアムさんと思わず重なって言ってしまった。なぜユリウス様もシャーロットもこの方もそう解釈するんだと頭を抱えた。
魔法帝が一番前の列で「そろそろだからね~」と私たちに言って、先にあいさつのため登壇してしまった。
毎年の行事だが、いつも緊張してしまう私はすっと口数が減った。その様子を見て、ウィリアムさんが耳打ちしてくる。
「ほら想像するんだ、あの観客は全部寝起きの仏頂面をしているヤミだと思って――――」
ぶはっと笑ってしまった私。
「あ、ありがとうございますウィリアムさ・・・いや、ヴァンジャンス団長」
「なかなか、気味が悪いだろう?」
「いやもうそれヤミさんに言ったら私ぶっ飛ばされますよ――――」
「カッカ!!いちゃつくのは後にしな!!!」
後ろからその様子を見られていたジャック・ザリッパー団長に窘められていると、
ユリウス様が「さあ、国民みんなで呼ぼう!我ら九人の魔法騎士団長と『伝説の聖女』を―――!!」と言って私たちは登壇した。
一瞬でシャーロットとヤミさんがいないことに気付かれたが、『黒の暴牛』の顧問も兼任しているためその場は収まる。
しかし、あの新聞記事のこともあってか私とウィリアムさんの名前を挙げる人は多かった。