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アスタ君の両腕を治すため、それぞれ旅立った団員たちを見送り、私は『黒の暴牛』に戻った。
ぱたんと玄関の扉を閉めると、エントランスホールにはヤミさんと私だけの空間だった。
もう何年の付き合いになるかわからないけれど、水とも空気ともいえるような心の許した彼。
今じゃヤミさんがおならをぶっ放そうが、鼻くそをほじくろうが、いびきをかきながら寝ていようがお互いに気にしなない関係だ。
・・・ウィリアムさんが相手だと話は変わってくるのが不思議だ・・・。
冷蔵庫からオレンジジュースが入った瓶を開けてグラスに注ぐ。
煙草を燻らせながら新聞を読んでいるヤミさんの前にグラスを置いた。
一瞬視線はこちらに映って「おう、さんきゅ」と言うとすぐに新聞に目を向ける。
「今年の黒の暴牛は昔と変わりましたね」
「そうかー?」
「そうですよ。アスタ君が来てからこの団の空気がどんどん良くなってる・・・今年ももうそろそろ終わり。
私は安心して、『黒の暴牛』の顧問から違う団に行けます」
「そうか、もう1年たつんだな・・・はえーもんだ」
ヤミさんは新聞をたたんで虚空を描いていた。煙草を吐き出すとしばらく沈黙が流れた。
もうすぐ星果祭と呼ばれる、魔法騎士団の1年間の星所得数の発表を兼ねた祭りが行われる。
その1年を区切りとし、平等の精神のもと『伝説の聖女』である私は、神の導きにより新しい団に異動することになっていた。
「もう1年ここにいても罰当たらねーんじゃね」
「また適当なこと言って・・・一応神事なんですからもう・・・」
なんだかんだ言って、私もヤミさんもここを離れるのが寂しいのだ。
ヤミさんが黒の暴牛を発足してから、一緒に団員集めを始めて・・・
色んな団を回って、何年か経ってまた『黒の暴牛』に来ることになって、アスタ君やノエルちゃんと出会った。
この陽だまりにいるような暖かさは、ユリウス様が率いた『灰色の幻鹿』とどこか似ていて、ついつい長居してしまいそうになる。
「そーいや、金ピカ仮面団長とこの前、腹割って話したんだけどよ」
「え、急になんですか」
「たぶん、オレお前のこと好きだったらしいんだわ」
ヤミさんから放たれた衝撃的な一言に私は「は・・・?」と間抜けな声で聞き返した。
シャーロットに聞かれたら私殺される案件だぞ・・・と思いぐるぐると頭の中が混乱した。
「あの・・・ヤミさん・・・わかってると思うんですけど私心に決めた人が――――」とそこまで言うと、私をギロリと睨んできた。怖い。
「だから、」とヤミさんは話をつづけた。
「オレはお前らが幸せになることを誰よりも望んでる。絶対あの金ピカ仮面団長を離すなよ。」
何だ、ただのいいヤミさんじゃん・・・とくすっと笑う。
怖いけれど、誰よりも優しくて思いやりにあふれている不器用な人。
「ヤミさん、ありがとう。これからもよろしくお願いします。」
そう言うと、少し照れながら「ああ」と言って愛刀の手入れを始めてしまった。
―――――
「ンッンッンッ・・・これはこれは、聖女様。500年たった今でも相変わらず麗しい」
「おまえは・・・悪魔か」
ここは夢の中の王貴界。それも500年前のわたしの記憶をもとにしているのか、今とは情景はかなり変わって自然豊かな街だった。
私を何食わぬ顔で通り抜ける住民達。その中で、悪魔が私に囁いた。実態を持たないそいつは、私の周りで囁き続ける。
「おまえはエルフ殲滅のあの後、私との戦いに負けた――――ンッンッンッ・・・忘れたとは言わせません」
「それはどうかしら―――――――負けたかどうかなんて、まだわからないわ」
「ああ、その美しい凛とした声、芯が通った深海の光に満ちた瞳――――――ンッンッンッ・・・早く私の手に堕ちてしまわないかとゾクゾクします」
その黒い浮遊物は頬を撫でていった。その黒い浮遊物は光を放ち、みるみるうちに灰となる。
「私に触れるとやけどするわよ、悪魔さん」
「ンッンッンッ・・・いいでしょう、遅かれ早かれあなたに会える時を楽しみに待っていますよ――――――――冥府の番人―――リン」
灰となって消えていく悪魔。目の前に広がる王貴界は光の速さで500年の時を旅し――――現在の情景に変わった。
「さあ、私とともに行こう」
「ウィリアムさん・・・?」
へたり込む私の目の前にウィリアムさんがやってきて、手を差し伸べる。その手を取ろうとすると、ウィリアムさんの顔は一瞬悪魔の顔に変わって、消えた。