09
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「・・・さて、いい景色の場所で昔馴染みの3人が集まったところで、ちょっとお話でもしますか。ヴァンジャンス君。リン君」
こんなこと聞くなんて、ヤミさんの鋭すぎる直感からいっておそらく内容は「白夜の魔眼」のことだろう。
ふー・・とヤミさんの煙草を吐く時間が嫌に長く感じた。
「・・・いやー・・・相変わらずスゲーなおまえの世界樹魔法」
「・・・なに敵の魔力のたまものだよ」
「で・・聖女様はおなじみの光魔法」
「そうですね」
「そう・・・金ピカヘンテコ仮面団長さんの魔法は世界樹魔法で、伝説の聖女様は光魔法なんだよなー・・・」
「そうだよ・・・何が言いたいんだい?ヤミ」
その沈黙の時間に耐え切れず、思わず私はウィリアムさんの服の袖を握る。ヤミさんの見えないところで、ウィリアムさんが私の手を包み込んで安心させてくれた。
「おれ、自分の直感信じちゃう人間なんだわ ヴァンジャンス
その仮面取ってくんね・・・?」
「ヤミさん・・・!」
思わず制止した言葉にヤミさんは私を睨みつける。
「お前は黙ってろ。んでこっち来い」
おそらく、私が幻影魔法でウィリアムさんの顔を変化させないようにするため、だろう。
幻影魔法なんて使えないのに・・・と思いながら、渋々とウィリアムさんと絡めた手を離し、ヤミさんの隣に行った。
「あまり人に見せられる顔じゃないんだ」
「え?何とんでもねーブサイクなの?大丈夫大丈夫絶対笑わないからわっはっは」
「・・・わかっているよ。ヤミ 君は―――白夜の魔眼の党首が私で、それを囲っているのがリンではないかと疑っているんだね」
「・・・率直に言うとそーだな。」
この前のリヒトの戦いでも思ったがやはり、彼の野生の勘は鋭すぎる・・と唾が飲み込めなかった。
「オマエらと出会ってもう10年ぐらいか・・・?戦場で出会って・・・それからたまにまた戦場で共に闘って・・・
そんで同時期に団長になり、リンはオレの団に入った・・・。別に仲良かねーけどなかなか古い付き合いじゃね・・・?
だからさ・・・見してくれよ、顔」
「いいだろう」
ウィリアムさんは仮面を外した。
呪いで顔の上半分はただれ、髪の生え際まで侵食されている。
私はそれを醜いと思ったことは一度もない。しかし、その容姿のせいで彼の幼少時代から受けている心無い大人たちの虐待は彼に闇を与えた。
「とんでもねー傷跡だな・・・戦場でか?」
「いや、生まれつきだよ・・・呪われた子だと呼ばれていた。この痕は魔法でも彼女の力でも治せなくてね。周りの人間から不気味がられ恐れられたよ。
私はとある貴族の落胤でね、8つになるまで恵外界の地で暮らしていたんだ。だが貴族の跡取りがいなくなると私は貴族として迎え入れられた。
幸い私は魔力も高く世界樹魔法も物珍しがられた。
しかしそこでも私の顔は忌み嫌われてね・・・さらに正妻の義理の母からはひどい虐待を受けた。子供のころの私には地獄のような日々だった・・・」
「おめーも苦労してんだな・・・」
「―――だが、そんな中・・・ユリウス様とリンに出会った。あの方も彼女も私の見た目など気にせず、その力の身を見てくれた。」
――――――
時は齢13の時に遡る。
まだ魔導書を貰ってない私と、『伝説の聖女』としてすでに神から魔導書を授かっていたリンが初めて出会った時のこと。
ユリウス様の隣で『灰色の幻鹿』団の一員として働いていたリンは、まだ任務になれていないのかユリウス様の後ろに隠れていた。
「世界樹魔法~~~!?なんて雄大で荘厳な魔法なんだ・・・!何より、君のやさしさがすべてを守ろうとしているような素晴らしい魔法だ!君・・ぜひ魔法騎士団に入りなよ!」
「でもこの顔じゃ・・・」
「?気にすることもないけどねーリン君はどう思う?」
「え・・とても素敵な方だと存じますが・・・」
おずおずとユリウス様の後ろに隠れていたリンが出てきて、ほんのりと頬をピンク色に染めて私と目が合うと隠れた。
その様子に、ユリウス様は少し驚いた後けらけらと笑った。
「そうだよねえ。リン君が男の子の前で顔赤らめるの初めて見たもんねー」
「ユリウス様!!!」
「まあそんなに気になるなら・・・この仮面をあげよう!」
どこに隠し持っていたのか、金色の仮面を出してきてユリウス様は私に与えてくださった。
「・・・ユリウス様、これはあまりにもダサいです」
「えーー!・・・まあいいや、ヴァンジャンス君はリン君と同い年だったよね!彼女色々知ってるから騎士団のことは彼女に聞いてね」
「わかりました。」
じゃあ僕はほかの仕事があるからよろしくと言って、ユリウス様は彼女を置いて去っていった。
二人きりになってしまい、リンは長い睫毛を下に伏せながら、もじもじと自己紹介をする。
「改めまして、私はリンといいます。教会の出身なので姓はありません。よろしくお願いいたします。」
「ウィリアム・ヴァンジャンスです。よろしくお願いします。」
「あ、あの―――私の勘違いでは無ければ、あなたの中にいる彼ともいつか、お話できたら嬉しいです」
ちらりとこちらをみて、くすっと少女は笑った。
ユリウス様ですら気づかなかったもう一人の自分の姿を一瞬で見破った彼女に、私は驚きを隠せなかったが、
いつの間にかもう一人の自分も彼女に気を許し始めて・・・慈悲深く博愛を求める彼女に強く惹かれ始めた。
―――――――
「嬉しかった。この人達のために魔導書をささげようと思った」
「なんか気分悪くさせてすまなかったな・・・」
「・・・いや、ありのままを話せて・・見てもらえてよかった・・ありがとう、ヤミ」
疑いが晴れたのだろうか・・・?ヤミさんの顔色を伺っていると、ウィリアムさんが「ここまで話せば彼女の隣にいてもいいかな?」といつの間にか隣にいてくれた。
「あーもう勝手にしやがれ」とめんどくさそうに答えるヤミさん。
もう一緒にいる時間は残されていないと薄々気づいていたので、私は目いっぱいウィリアムさんに甘えることに決めて、その腕を絡めるようにひっついた。
その様子にヤミさんは「このバカップルが・・・」とため息をついた。
連絡用魔道具で『金色の夜明け』の団員が、ウィリアムさんにダイヤモンド王国の撤退を知らせる。
「そろそろ我々も行こうか・・・捕虜を連れていくだけで一苦労しそうだ」
「ああ・・・捕虜連行ならうちに便利な奴らがいるぜ こき使おう」
チャーミーとフィンラルのことか・・・と思っていると、ヤミさんが「そういえば」と口火を切る。
「あいつの両腕、聖女様の力じゃ何ともなんねえのか?」
「何ともなんねえです」
「けっまじで使えねえ」そう悪態をつくヤミさんに私はべっと舌を出した。
「ほかの回復魔導士に聞いても同じこと言うと思いますけど。なんせ私がトップオブ回復魔導士なんで。
あれは古代の呪術魔法がかけられてて、どうにもならないですよ」
「そこを神の力でぱあっとやれや」
「ウィリアムさん、あいつ世界樹魔法で消してください」
「リン、こういう時こそご慈悲だよ」
「おい誰だこいつを『伝説の聖女』に選んだ神様はァ―――――チェンジだ、チェンジ――――」
散々煽ってくるヤミさんに殴りかかろうとする私をウィリアムさんが止めるという構図。
昔の『灰色の幻鹿』時代はいつもこんな感じだったと思いだして笑えて来てしまった。
ウィリアムさんも同じことを思っていたようで、「まるで昔に戻ったみたいだ」とくすくす笑う。
“あの時に戻りたい―――――――”そう思うけれど、間違っているかもしれない私たちの歯車はもう壊れるまで動かし続けるしかなくて。
「そうですね」と眉を下げて、それぞれの道に歩みを進める彼らの背中を私はしばらく見つめていた。