最近ハマっているネトゲで”洗濯侍”という凄腕のプレイヤーと知り合った。僕がログインする時間とも相性がよくクエストもサクサクとこなしてくれるのでとても効率がいい。


そういえばこの前洗濯侍氏は普段何をやっているのか聞いたことがある。学生だと言っていた。歳は僕より一つ下だった。自分と共通点が見えて心が躍った。


リアルの陽キャが集まるこの学園よりも、こうやってゲームの世界で顔の見えない相手とチャットしているほうが気楽だ。


洗濯侍氏は、今度学園祭がありこれからあまりログインができなくなると言っていた。相当力を入れている学校なのだろう。まあ、この学園も無駄に力を入れているから気持ちはよくわかる。


それにしても、試験がある日も行事がある日も時期がかぶっていて本当に洗濯侍氏とは運命に近い。


今日もオルトに洗濯侍氏の話をしていると、不思議に思ったオルトがこの時期に学園祭がある学校を検索してくれた。


すると、この学園しか該当しないという。



オルトを疑うわけではないがまさかそんなはずがないと思った・・・なぜなら洗濯侍氏のスペックは僕も一目置くほど洗練されて労力と時間が必要だからだ。


無駄にイベント行事と試験が多いこの学園では僕もわりとノルマをこなさないとやっていけないというのに。
そうだ、今日学園祭では何をやるのか聞いてみよう。それでだいたいのあたりはつくだろう。



僕はいつものネトゲの世界にログインした。そこには当たり前のように洗濯侍氏がログインしていた。


チャット機能で早速洗濯侍にメッセージを送る。クエストの最中だったのかしばらくして返信が返ってきた。


【おはこん洗濯侍氏。今日も早いですなｗ】

洗濯侍：遅いっすよ、今日のクエスト消化しましたｗ

【まじで学生？ｗ本当は学校行ってないでしょｗｗ】

洗濯侍：ｗｗｗ行ってますってｗｗ

【学園祭忙しいんじゃないｗ】

洗濯侍：まあ、僕は裏方なんでｗでも同期がこき使うんですよねー

【適当に聞き流しとけばいいよｗｗ】

洗濯侍：本当はそうしたいんすけどｗ変な法律？ルール？みたいなんなんかうるさくてｗｗ破ったら首輪はめられるんすよｗｗｗｗ

【何その趣味悪くて草ｗｗｗ】




いつものように談笑していたが一瞬嫌な予感がよぎった。変な法律を破ったら首輪をはめられるなど、心当たりがありすぎる。
毎日毎日ティーパーティーをやっている陽キャ集団、ハーツラビュルの学生ではないだろうか・・・


いや、そんなことはありませんな。なぜならあそこにいたら洗濯侍氏だってネトゲに精を出せないだろうし、もしこの学園にいるのであればきっとイグニハイドに入っているに決まっている。


しかしここまでくるなら洗濯侍氏の正体が気になるな・・・あ、ちょうどオルトが部屋に入ってきた。


またお兄さんそのゲームやってるの？そろそろ外に出なよといつものように心配してくれる。


「オルト、洗濯侍氏のことなんだけど」


「うん、いつも兄さんと遊んでくれている人だよね」


「ハーツラビュルの２年生で不登校気味な人とかいない？」


「うーん、一応検索かけてみるけど・・・」




そういってオルトが検索してくれたがそのような学生は該当しなかった。まさか、洗濯侍氏は陽キャ集団に紛れてネトゲ廃人の裏の顔をもつ超スペックじゃないだろうか。


次の日、授業に行かなきゃない途中でハーツラビュルの集団とすれ違った。


「リンちゃ～ん、ピースピース！！」

「ケイト先輩、またマジカメですか～？」


スマホ片手に廊下で自撮りをやめないいつもの光景。あーやだやだ、あの陽キャ属性。


それに前から思っていたけど、なんでハーツラビュルに女の子がいるの？ここ男子校だったんじゃないの。


しかもちゃっかり可愛いとかあざとすぎるでしょ。学園長は何考えてんの。


「リンちゃんもマジカメやってるでしょ～アカウント見せてよ～」


「何もアップしてないですよ～見る専なんで、ほら」


「洗濯侍～！！？ナニコレ、ネーミングセンスなさすぎてうける～」



洗濯侍、その言葉に耳を疑って振り返った。ばっちりとそのハーツラビュルの女の子と目が合う。


この女の子が？あのネトゲ凄腕廃人の洗濯侍氏？常識的に考えてありえないでしょ。


毎日一緒にクエスト消化して毎日くだらないチャットしてた洗濯侍氏？


ぐるぐると頭の中が混乱して呼吸の仕方を忘れた。ゲシュタルト崩壊。



幸運なことに同じクラスのパーリーピーポー、ケイト・ダイヤモンドはあの子のスマホに夢中で何も気づいてない。


僕は勇気を振り絞りハーツラビュルの女の子に向かって声をかけようとしたが、他の人の目もあるし何も言葉が出てこなかった。


でもその子は、僕に向かって嬉しそうに微笑んで、「あとで」と口を動かす。そしてハーツラビュルの集団に紛れて消えて行ってしまった。


廊下に取り残された僕は、このうるさい胸の鼓動がやむまでそこで立ち尽くす。


「洗濯侍氏・・・女の子だったなんて・・・」


一人称、僕だったじゃん。絶対男だと思ってた・・・
しかも彼女は相手が僕だということを気付いている様子だった。確信犯か？あざと可愛くて陽キャで実はネトゲ廃人の確信犯か？



「先が思いやられますわ・・・」



誰もいない廊下で僕の情けない声がこだました。


今日のログイン・・・どうしたらいいかわからない・・・。