01 暴君シャークレディ
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「じゃあ皆そろったことだし、この私が鬼やりますー」
昔から彼女が決まって追いかけっこで鬼をやる。
捕まった方が負けというが、彼女の走るスピードは常人のそれを逸脱しているため、5分以上捕まらないことがルールとなっていた。
しかも彼女の待機時間は5分。この間にかなりの距離を移動できるのだが逃げ切れたことは一度もない。
数を数え始めた彼女を尻目に双子と僕は全力で廊下を走りだす。
僕はオクタヴィネル寮内の廊下を抜けて、鏡の間からハーツラビュル寮に急いで向かった。
茶会の用意の為か、ハーツラビュルの寮生達は庭の薔薇の色染めに励んでいるらしい。
奇怪な目で見られているがこればかりは仕方ないと思いながら、目的の人物を探し回る。だが、彼のユニーク魔法はかなり目立つのでさほど時間はかからなかった。
「ケイト・ダイヤモンド君!」
その名前を呼ぶと、4人同じ顔がこちらを一斉に驚いた顔をして見る。
「君に折り入って頼みたいことがあって来ました。今お話ししてもよろしいでしょうか?」
「お、俺に・・・?マジヤバ~・・・どうぞ~?」
「単刀直入に言いますが、君のユニーク魔法でこの5分間、分身を作っていただきたい。
対価として、リンのマジカメのIDを教えて差し上げましょう」
「え!?まじ!?それは激ヤバのヤバだね。あの天使の1年生、リン・シェーンブルちゃんのIDか~」
「どうでしょう?受け入れていただけるのであれば、早速ユニーク魔法を!さあ、さあ!」
早くしないとリンが来てしまう。今度こそは何としても避けたいところなのだ。
「オッケー☆じゃあ今いるこの3人を連れていきなよ。何に使うか知らないけどさ!」
「契約成立ですね。しかし今は急いでいるので後払いさせていただきます。契約書にはサインをしておきましたのであなたに渡しましょう」
もちろんリンにどこの馬の骨かもわからないこんな浮かれた男に教えるわけがないが。これは僕が運営する偽アカウントである。
「よし・・・これで!」
オクタヴィネルの寮服を着せて、ハットを深くかぶせば多少は目くらましになるであろう。
この影武者作戦で5分を乗り切ろうとハーツラビュラル寮から出ていこうとしたその瞬間だった。
「せんぱい!も~~~何小細工しちゃってるんですかぁ」
僕の作戦もむなしく、彼女は一瞬で見極め、僕を抱きしめた。その力は巨漢のそれに匹敵し骨がきしむ音がする。
「大好きな先輩のコロンの香り、10キロ先でもだまされませんよ?」
「リン・・・その熱い抱擁を解いてください」
肺がつぶされて息が絶え絶えになった僕に、しょうがないなあと彼女はその力を緩ませ、金色の捕食者の瞳を深海の瞳に戻した。今回は肋骨を折らずに済んだ。
僕が昔から苦手としているのはこの、捕まった時の熱い抱擁である。
徐々に力の加減というものを覚えてきたが、ジェイドとフロイドではなく決まってこの僕が、いつも被害者になるのである。もちろん、彼女に悪気というものはなくサメの本能がそうさせるのだろう。
「リン、一つ質問してもいいですか?」
「うん?なんですか?」
「なぜ一番初めに僕を毎回狙うんです?」
「美味しそうだから」
言葉を詰まらせた僕に、リンは可愛いらしい笑顔で「冗談ですよ」という。まったく冗談に聞こえない。
「先輩のこと、昔から大好きですもん。
全身バキバキにしてずっと蛸壺に閉じ込めて、私がいないと生きられないようにしたいんですもん。
先輩の魅力に誰も気づかないで、ずっと私だけのものにしておきたいですもん。
先輩のためならオーバーブロットだって、全部の能力あげたって惜しくないですもん。
だから一番初めに捕まえるんです。ほかの稚魚はいらないの。それじゃ、だめですか・・・?」
深海の瞳が曇る。どんどん顔が俯いて、最後の方は消え入りそうな声で僕に問いかけた。
他の誰かが聞けばこれを狂気と言うのだろう。狂気と独占欲をこうも素直に悪気なく言える彼女も彼女らしい。
むしろ、同じような思考をしてるが口に出すことなくあらゆる手段を尽くして彼女をつなぎとめている僕のほうがタチが悪いかもしれない。