04 絶望シンフォニア
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「そういえば、私、アズールと契約したことなかったや」
思い返せば昔から、彼は私と契約を持ち掛けようとしなかった。
借りを作るのが大嫌いな彼が、私に頼み事を持ち掛けるときは純粋に頼ってくれる。それが他の人とは違う優越感を覚えるのは確かだ。
私たちには、信頼と依存という年季の入った見えない糸で、契約書よりもずっと強固な繋がりがあると思っている。
「僕と契約したかったのですか?」
と、ソファに座っていた私の背後よりちょっと高いところからアズールの声が聞こえた。持っていた写真をすぐさま胸ポケットにしまう。
「トラブルは解決したんですね」というと、「造作もないことでした。まったく、冷えた紅茶を淹れなおさなければ」と悪態をつく。
「でも、リンとは契約しないことに決めているんです。残念ですが」
「私に秀でた能力がないからとでも言いたいのでしょうか」
「まさか。寮長クラスの能力を持っている貴女にそんな失礼なことを言うわけありませんでしょう」
じとりとアズールを見つめると、彼はため息をついて「まったく、僕の気持ちもわからないで」とつぶやく。
「何よりも契約で繋がろうとする僕が、僕に対してアンチテーゼをしているとでも言いましょうか。
あなたとのつながりは簡単に破棄できるような関係ではないことを確かめたいのです」
アズールは私から視線を外し、少し照れた様子でハットを深くかぶった。
この状況を双子が見たらさぞ面白がるだろうが、私は滅多に見られないアズールの照れた様子に幸福感を覚えていた。
「ということで、一つ頼まれごとをしてくれませんか。リン」
「なんなりと、アズール先輩」
「明日、アトランティカ記念博物館へジェイドとフロイドと行ってきてください」
「ん、行ってくるだけでいいですか?」
「ええ。二人の近くにいればいいです。彼らにもわからせないといけませんから。貴女はこちら側の人間であると」
アズールはたまに虫けらを見るような怖い顔をする。深い冷たい暗い海の底のような冷徹な瞳。
私に向けられたことは一度もないけど、その顔があまり好きではなかった。
彼は機嫌を損ねるとぐずりながら蛸壺から出てこなくなるか、どこまでも怒りに任せて我を失ってしまう。
「アズール先輩、私がそばにいますよ。ふふ、そんな怖い顔しないでください」
すると我に返ったのか、アズールは失礼と言って普段のすました表情に戻った。
「今日はもうジェイドとフロイドと新しい従業員に仕事を任せて帰りましょう。少し疲れているのかもしれません」
マジフトの運営、期末テスト前のラウンジの経営から、休む間もなくここまで来たのだ。疲れてるのも無理もないと思う。
それに、時間はもう閉店の10分前だ。オーダーストップしてるし、あとは掃除と片付けで終わりだろう。
「ジェイド、フロイド。あとは任せました。僕はこれで」
「はい、あとはお任せください」
「ゆっくり休んでねぇ~、アズール、リン」
「おやすみなさい、二人も無理しないでね」
04 絶望シンフォニア