01 暴君シャークレディ
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「おやおや、リン。あまり騒ぐと寮の皆さんがびっくりしてしまいます」
「先輩が会ってくれないのが悪いんじゃないですか」
ぷくっと頬を膨らませて、軽く僕の胸を叩く姿はどの男が見ても「可愛い」の一言で済ませるだろう。
無理もない、ぱっちりとした深海の瞳と長い睫毛に美しい青紫色のショートヘア、男性が抱擁するならば、すっぽりと覆える程の小柄で華奢な容姿。
放っておけないような、何でも与えたくなるようなその存在。
本性をを知らない男たちはファンクラブを作り、崇拝しているとのこと。
まあ、彼女を利用してこのモストロ・ラウンジの売り上げを伸ばしたといっても過言ではないのだが。
廊下にすらりとした高身長の青い髪の片割れがやってきた。とても最悪な状況だ。
彼女単体ならまだ私の言うことを聞くのだが、この双子の厄介な方とタッグを組んだら収集がつかなくなると思い、彼女が気づかないうちに移動させようと試みた。
「リン、ここは人が多いので移動しましょう」
「あれぇ、リンだぁ~。どうしたの~?」
時すでに遅し。僕が手を打つ前にその能天気な声が僕に死刑宣告を告げた。
青ざめる僕の顔を彼女は一切見ようともせず、嬉々とした様子でフロイドに駆け寄る。
「アズール先輩に会いたくなっちゃって!ちょうどいいや!3人いることだし追いかけっこ、しよ?」
そら来たことかと僕は頭を抱えた。昔馴染みが集まるとリンは追いかけっこという名ばかりの「狩り」を提案する。
ひとつ断っておくが、僕は彼女のことが愛おしく、とても大切にしている。
人の見る目があるので適度にあしらっているものの、二人だけの世界に溶けていたい気持ちはずっとある。
愛だの恋だの脳が錯覚するような生ぬるい事象を言っているのではない。
彼女は僕の「存在を立証するもの」であり生涯離れることを許さない「共犯者」なのだ。
話が脱線したので元に戻そうと思う。とにかく、僕が今まで警戒していたのはこの「狩り」である。
「では、僕はモストロ・ラウンジの仕事がありますので、これで」
そう言って、翻したコートを彼女は見逃すはずが、なかった。
細い枝のような腕からは僕がびくともしない力を発揮しマントを握りしめている。
にこにこと笑っているが中身がちっとも笑ってないのは彼女のことをよくわかっているかだろう。
「アズールせんぱい、私、先輩も入れて追いかけっこしたいです」
ちらりと、彼女の口からサメの歯を覗かせた。その深海の瞳は一瞬強い魔力に反応し金色に染めあがり、パールと巻貝の髪飾りはその魔力に反応して輝く。
捕食者のその上から下までなめるような視線に僕は思わず肩を震わせた。
「いや、リン。急いでいるので、遊びはまたの機会に」
「アズール、リンもこう言ってるんだし、ジェイドも参加するってさぁ。もうすぐここに来るって。」
ジェイドが来るならば僕はさらにいらないだろうと心の中で突っ込んだが、二人が決めたことを曲げることはほぼ不可能に近いので、仕方なく付き合うことにした。
「やれやれ、一回だけですからね。それが終わったら、リンは寮に帰るように」
「はい。じゃ、アズール先輩の部屋で待ってますね」
「自分の部屋に戻りなさい」
「じゃあ僕とジェイドの部屋で一緒に過ごそ?」
それは聞き捨てならない言葉だが言い返しても「なぁにぃ、嫉妬~?」などとめんどくさいことを突っ込まれるので聞き流すことにした。
能天気な双子の片割れに召集されたジェイドが遅れて到着した。僕の困った表情を汲み取ったのか、ジェイドは「やれやれ」と深いため息をつく。
「リン、またアズールに追いかけっこを強要したのですか?」
「強要なんてしてないよ」
「まったく、アズールのことが好きならば顔をごらんなさい、引きつっているでしょう」
ジェイド、よく気づきました。私の思いを代弁してくださりいつかそのお返しを用意しなければ。
「でも、アズールがちょっと泣きそうな顔、レアだから大好きなの」
高揚した顔でぺろっと舌なめずりをする姿は、まるで僕を食べる捕食者の顔つきそのもの。
僕は全身に血の気がさっと引いたが、隣でフロイドが「エロいなぁ」とのんきなことを言っていた。