04 絶望シンフォニア
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「ああ、リン。お待たせしました。おかけください。」
アズールに促されて対面の革張りのソファに座ると、思ったよりも深く沈み少し驚いた。
彼はやはり機嫌がいいのか鼻歌を歌いながらパソコンに向かってデータの入力をしている。
「この満点続出者が出る中よく40位を取れましたね。もう少し私のことを頼ってくれてもよかったのに」
「でもアズール先輩とても忙しそうでしたし、会えない気持ちを抑えるのに勉強はちょうどいいかもって。
それより期末テストが終わってからやけにイソギンチャクをつけた髪型が流行っているような気がするんですけど、先輩は何かご存知でしょうか?」
アズールのタイピングする指が一瞬止まり私の方をちらっと視線を向けた。
「イソギンチャクの髪型・・・ですか、新手の流行りではありませんか?
確かに私の学年にも増えておりますが、テスト明けで浮かれた生徒たちが“キモカワイイ”と言ってますよ」
「キモカワイイ・・・確かにそうかもしれません」
なるほど、テスト明けの解放感故の流行りかと思い私も特別気に留めることなく出してくれた紅茶を一口含んだ。
「それよりも、2号店はオンボロ寮を改装することにしました」
オンボロ寮といえば、魔法が使えない1年生と狸ちゃんのいる寮ではないだろうか。
もしかして、その件で私に声をかけようとしていたのではないだろうか。
少し心の中にざわつきを覚えたが、思っていても仕方がないのでアズールに聞くことにした。
「あれ、あの1年生はどうなっちゃうんですか?」
「穏便に契約をさせていただきましたよ。担保としてオンボロ寮を引き渡してくださるそうです。
従業員も増員できたので、リンと一緒に過ごす時間も増やせそうです。一緒に経理の勉強をしましょうね。」
また勉強かあと思いつつ、彼と一緒にいれる時間が増えるのは嬉しいことなので特に異議を唱えることはなかった。
「アズール、少しよろしいでしょうか」
ジェイドが頭を抱えてVIPルームに入って来た。ラウンジ内でトラブルが発生したようだ。
またかと言った様子で長いため息をつきながらアズールは立ち上がる。
「せっかくリンと二人きりになれたというのに。お待たせしてばかりでごめんなさい。すぐに戻ります」
そう言ってジェイドとともにラウンジへと行ってしまった。
誰もいないことを確認して、自分の胸ポケットから一枚の古びた写真を取り出しじっと見つめた。
小さい頃の俯いてぽっちゃりしたアズールと、前よりも獰猛な・・・いや少しワイルドな顔つきをした私。
フロイドとジェイドが撮ってくれたんだっけと懐かしい思い出にふふっと笑ってしまった。
「アズール、全部昔の写真を捨てちゃうんだもの。こっそり持っておいて、よかった」
彼は昔から努力の人だった。いじめられた経験から、自分を守るために沢山勉強していた。
「リンはいいよなあ。誰よりも強くて、誰よりも早くて、誰からも恐れられて。」
「よくないよ。私だってエレメンタリースクールに通いたいよ」
「あんなところ、行くだけ無駄だ。一人で勉強している方が捗る。
それに、手に入らないものは奪えばいいんだ。」
そう言って彼はユニーク魔法を完成させた。小さな彼に似合わない大きな魔力を伴う代物だ。
この黄金の契約書で彼は途端に歌がうまくなり、泳ぐスピードも速くなり、魔力を増幅させていった。
私はあの時止めてあげればよかったのだろうか。
そうすれば、彼はこの黄金の金庫を作って何百枚もの契約書を入れることもなかったのだろうか。