27.めでた死、めでた死
内側や剥き出しの肉から爆破されては、流石のドラゴンも殆ど意識が無くなっていた。微かに息はしていたものの、巨体の割りに最期は呆気なくアルグさんの一振りで息絶える。
きっとそのままでも死んではいただろうけれど、アルグさんなりの同種族への憐れみ……かもしれない。その後普通に役に立ちそうな素材をレン君と一緒に獲っているところを見ると、あんまりはっきりとは言えなかった。
「ようやく、終わりましたね」
歩きながらも私は言った。結局私は回復したので深手を負わなかったけれど、見た目は血塗れているし疲労は残るみたいだ。
他の三人も何だかんだ言って疲れている。
「ま、これもただの一仕事終えただけなんだけどな」
「それよりおっさん。さっき良い部位持ってったろ!狡いぞ!」
「おう。大人だからな」
「そこは子供に譲れよ!」
……疲れている、よね?
そうしてシトリン草原を出ようと入り口まで戻ってくると、そこには数人の冒険者が何かを待っているように立っていた。その内の一人が私達に気付くとぱっと駆け寄ってくる。
「ああ、良かった……!メイナ・イクシーダさんのパーティーですよね?!」
「え、あ、はい。確か貴女は……ミルトニア支部の方ですよね」
この女性は支部に滞在させてもらった間に見かけた事がある。
その記憶通りで改めて名乗られた後、彼女から護衛の冒険者と共に私達の事を待っていたのだと説明を受けた。或いは、私達が負けた時に支部へ報告する係りでもあったのだろうけれど。
私はドラゴンは無事に倒した事、そして折角いるのだから遺骸の大体の位置を教えて事後処理を彼女に託す。目を離して何も知らない冒険者に持っていかれるのも勿体無いし、ミルトニア側の調査も必要だろうからね。
……相変わらず目ぼしく持っていける素材はアルグさんとレン君が懐に入れちゃったけど。それでもあれだけの大物だし、シトリン草原を復興させる資金と考えても有り余るだろう。
「それでは、私達は調査とドラゴンの遺骸保全に向かいますので、イクシーダさん方はこちらの馬車でミルトニアまでお戻りください」
「おお、助かった。もう疲れてクタクタだったんだ……」
アルグさんが安堵の息を吐いて、レン君も元気に馬車へと乗り込んでいく。
私は……エルトに手を差し出され、それに自分の手を重ねて乗り込んだ。ただでさえまだ照れ臭いエスコートにアルグさんとレン君のにやにやした視線が凄く恥ずかしい。
アルグさん、おじさん臭いですよ!
レン君は、ええと、パルマに言い付けますよ!
何はともあれ、歩いても二時間で行けるシトリン草原だ。馬車には軽く揺られるだけで直ぐにミルトニアに着いた。
冒険者ギルド前で降ろしてもらい、私は扉に手を掛ける。
(お迎えも用意してくれてたし、エルスースさん待ってるのかなぁ)
なんて思ったのも束の間。エルスースさんだけでなく他の職員さんや見かけたことの無い地元の冒険者も小さな空間にぎっしりと集まっていらっしゃって、扉が開いた瞬間にばっととんでもない量の視線を向けられた。
思わず私が「ひっ」と悲鳴を挙げたものだから、エルトが前に出て盾になってくれる。次に構わず進んでいくアルグさんと目立つ事が大好きそうなレン君も前に出てくれて、何とかこのビシバシ突き刺さる空気の中、エルスースさんの傍まで行くことが出来た。
「……皆さん、お帰りなさい。よく御無事に帰って来て下さいました」
生きて帰ってくる事。それが冒険者ギルドの基本だ。
今回ばかりは難しい事だったけれど、皺の混じった顔の優しい笑顔で迎えられて私も笑顔で挨拶出来る。
「はい!ペインドラゴン討伐も無事完了し、只今戻りました!」
本当の命令は討伐でも何でもなかったから、勿論ここで出せる報告書も無いし、こんな口頭の挨拶兼報告になってしまうけれど。
一方、ペインドラゴンと聞いてギルド内の冒険者がざわりと騒ぎ出す。
どういう事だと他の職員さんに突っ掛かる人も少なくは無かったが、私達はそれを他所に話を進めた。苦情処理って大変ですよね……でも今回ばかりはごめんなさい、ミルトニア支部の皆さんお願いします。
「たった四人で……しかもその内一人は若い女性で一人は小さな子供と言うのは驚きですが。お蔭でミルトニアも助かりました。この町の支部長としてもお礼申し上げます」
「いえ……こちらの失態もありましたし、何より本来は命令違反ですから」
「いいっていいって!代わりに俺のレベルを50くらいに――痛ぇ!」
調子に乗り出すレン君に軽い一発をお見舞いして静かにしてもらう。けど遠慮しすぎたみたいで、逆に更に騒ぎ始めてしまった。まあ、レベルを50になんてふざけた話も吹っ飛んだみたいだから良いか。
エルスースさんはそんな光景を見て笑っていた。……エルスースさん、冗談みたいな話ですけどこの子本気ですからね。
「ところで、エルスースさん。こんなに人が集まっちゃったのはどうしてなんですか」
「あれだけの地震や轟音、魔力の放出がされれば、誰でも何があったのか知りたくなりますよ。それでも今こちらで対応中の事なので少しお待ち頂けませんか、と無理に留まってもらっていたのです」
ドラゴンの吹き出した炎……くらいなら前に問題になっていなかったから兎も角、今回は大地を操る古魔術にドラゴンの苦しみもがく咆哮、強力な爆弾だ。周辺には思い切り衝撃が伝わったんだろう。
「……それが町の傍でペインドラゴン討伐してたんですもんね、驚きもしますよね」
でも、それを抑えてくれたと言う事はエルスースさんが私達に希望を託してくれたと言う事でもある。そう思ってお礼を言うと、いえいえこちらこそとまたお礼を返されてしまった。
「それでこの後なんですが、私達はどうした方が良いでしょうか。正式な報告書は出せないと思いますが、魔法記録の提出や後始末の手伝いをしますか?」
そう聞いてみると、エルスースさんはゆっくりと首を横に振った。
「今回の情報についてはビスカリア支部の報告書をこちらにも回してもらう事にします」
元々調査の仕事で来たのだから、ビスカリア支部には原因だったドラゴンの全てを報告書に纏められる。それがこちらに来るなら大丈夫だろう。パットさんであれば下手に握り潰されたり隠されたりもしないだろうし。
それよりも、とエルスースさんは優しく続けた。
「メイナさん達が本当に帰るべき所はビスカリアです。まずは早く、本当の上司さんにも顔を見せてくると良いですよ」
「……はい!」
ギルドから出た私達は宿屋の荷物を引き揚げ、ミルトニア支部名義で用意してくれた馬車に乗り込む。
馬車続きだけど仕方無い。私もレン君も早く心配してくれた顔を見に帰りたかったし、エルトにはミルトニアへの道中魔術ギルドからの強いお呼び出しが来たらしい。……らしいと言うのは、エルト曰く最も強く煩いのが、心に直接呼び掛けるあの時のような連絡だからだ。
唯一しがらみの無いアルグさんも、気を遣ってくれたのかビスカリアの食堂の飯が食べたいと言っていた。
そういう訳で、エルスースさんが言った通り、本当に帰るべき場所に向かったのだ。
ビスカリアの町。ビスカリア支部冒険者ギルド。そして本当の上司、いつも煙草ばかり吹かした憎たらしい上司、パットさんや可愛い友人のパルマに会う為に。
きっとそのままでも死んではいただろうけれど、アルグさんなりの同種族への憐れみ……かもしれない。その後普通に役に立ちそうな素材をレン君と一緒に獲っているところを見ると、あんまりはっきりとは言えなかった。
「ようやく、終わりましたね」
歩きながらも私は言った。結局私は回復したので深手を負わなかったけれど、見た目は血塗れているし疲労は残るみたいだ。
他の三人も何だかんだ言って疲れている。
「ま、これもただの一仕事終えただけなんだけどな」
「それよりおっさん。さっき良い部位持ってったろ!狡いぞ!」
「おう。大人だからな」
「そこは子供に譲れよ!」
……疲れている、よね?
そうしてシトリン草原を出ようと入り口まで戻ってくると、そこには数人の冒険者が何かを待っているように立っていた。その内の一人が私達に気付くとぱっと駆け寄ってくる。
「ああ、良かった……!メイナ・イクシーダさんのパーティーですよね?!」
「え、あ、はい。確か貴女は……ミルトニア支部の方ですよね」
この女性は支部に滞在させてもらった間に見かけた事がある。
その記憶通りで改めて名乗られた後、彼女から護衛の冒険者と共に私達の事を待っていたのだと説明を受けた。或いは、私達が負けた時に支部へ報告する係りでもあったのだろうけれど。
私はドラゴンは無事に倒した事、そして折角いるのだから遺骸の大体の位置を教えて事後処理を彼女に託す。目を離して何も知らない冒険者に持っていかれるのも勿体無いし、ミルトニア側の調査も必要だろうからね。
……相変わらず目ぼしく持っていける素材はアルグさんとレン君が懐に入れちゃったけど。それでもあれだけの大物だし、シトリン草原を復興させる資金と考えても有り余るだろう。
「それでは、私達は調査とドラゴンの遺骸保全に向かいますので、イクシーダさん方はこちらの馬車でミルトニアまでお戻りください」
「おお、助かった。もう疲れてクタクタだったんだ……」
アルグさんが安堵の息を吐いて、レン君も元気に馬車へと乗り込んでいく。
私は……エルトに手を差し出され、それに自分の手を重ねて乗り込んだ。ただでさえまだ照れ臭いエスコートにアルグさんとレン君のにやにやした視線が凄く恥ずかしい。
アルグさん、おじさん臭いですよ!
レン君は、ええと、パルマに言い付けますよ!
何はともあれ、歩いても二時間で行けるシトリン草原だ。馬車には軽く揺られるだけで直ぐにミルトニアに着いた。
冒険者ギルド前で降ろしてもらい、私は扉に手を掛ける。
(お迎えも用意してくれてたし、エルスースさん待ってるのかなぁ)
なんて思ったのも束の間。エルスースさんだけでなく他の職員さんや見かけたことの無い地元の冒険者も小さな空間にぎっしりと集まっていらっしゃって、扉が開いた瞬間にばっととんでもない量の視線を向けられた。
思わず私が「ひっ」と悲鳴を挙げたものだから、エルトが前に出て盾になってくれる。次に構わず進んでいくアルグさんと目立つ事が大好きそうなレン君も前に出てくれて、何とかこのビシバシ突き刺さる空気の中、エルスースさんの傍まで行くことが出来た。
「……皆さん、お帰りなさい。よく御無事に帰って来て下さいました」
生きて帰ってくる事。それが冒険者ギルドの基本だ。
今回ばかりは難しい事だったけれど、皺の混じった顔の優しい笑顔で迎えられて私も笑顔で挨拶出来る。
「はい!ペインドラゴン討伐も無事完了し、只今戻りました!」
本当の命令は討伐でも何でもなかったから、勿論ここで出せる報告書も無いし、こんな口頭の挨拶兼報告になってしまうけれど。
一方、ペインドラゴンと聞いてギルド内の冒険者がざわりと騒ぎ出す。
どういう事だと他の職員さんに突っ掛かる人も少なくは無かったが、私達はそれを他所に話を進めた。苦情処理って大変ですよね……でも今回ばかりはごめんなさい、ミルトニア支部の皆さんお願いします。
「たった四人で……しかもその内一人は若い女性で一人は小さな子供と言うのは驚きですが。お蔭でミルトニアも助かりました。この町の支部長としてもお礼申し上げます」
「いえ……こちらの失態もありましたし、何より本来は命令違反ですから」
「いいっていいって!代わりに俺のレベルを50くらいに――痛ぇ!」
調子に乗り出すレン君に軽い一発をお見舞いして静かにしてもらう。けど遠慮しすぎたみたいで、逆に更に騒ぎ始めてしまった。まあ、レベルを50になんてふざけた話も吹っ飛んだみたいだから良いか。
エルスースさんはそんな光景を見て笑っていた。……エルスースさん、冗談みたいな話ですけどこの子本気ですからね。
「ところで、エルスースさん。こんなに人が集まっちゃったのはどうしてなんですか」
「あれだけの地震や轟音、魔力の放出がされれば、誰でも何があったのか知りたくなりますよ。それでも今こちらで対応中の事なので少しお待ち頂けませんか、と無理に留まってもらっていたのです」
ドラゴンの吹き出した炎……くらいなら前に問題になっていなかったから兎も角、今回は大地を操る古魔術にドラゴンの苦しみもがく咆哮、強力な爆弾だ。周辺には思い切り衝撃が伝わったんだろう。
「……それが町の傍でペインドラゴン討伐してたんですもんね、驚きもしますよね」
でも、それを抑えてくれたと言う事はエルスースさんが私達に希望を託してくれたと言う事でもある。そう思ってお礼を言うと、いえいえこちらこそとまたお礼を返されてしまった。
「それでこの後なんですが、私達はどうした方が良いでしょうか。正式な報告書は出せないと思いますが、魔法記録の提出や後始末の手伝いをしますか?」
そう聞いてみると、エルスースさんはゆっくりと首を横に振った。
「今回の情報についてはビスカリア支部の報告書をこちらにも回してもらう事にします」
元々調査の仕事で来たのだから、ビスカリア支部には原因だったドラゴンの全てを報告書に纏められる。それがこちらに来るなら大丈夫だろう。パットさんであれば下手に握り潰されたり隠されたりもしないだろうし。
それよりも、とエルスースさんは優しく続けた。
「メイナさん達が本当に帰るべき所はビスカリアです。まずは早く、本当の上司さんにも顔を見せてくると良いですよ」
「……はい!」
ギルドから出た私達は宿屋の荷物を引き揚げ、ミルトニア支部名義で用意してくれた馬車に乗り込む。
馬車続きだけど仕方無い。私もレン君も早く心配してくれた顔を見に帰りたかったし、エルトにはミルトニアへの道中魔術ギルドからの強いお呼び出しが来たらしい。……らしいと言うのは、エルト曰く最も強く煩いのが、心に直接呼び掛けるあの時のような連絡だからだ。
唯一しがらみの無いアルグさんも、気を遣ってくれたのかビスカリアの食堂の飯が食べたいと言っていた。
そういう訳で、エルスースさんが言った通り、本当に帰るべき場所に向かったのだ。
ビスカリアの町。ビスカリア支部冒険者ギルド。そして本当の上司、いつも煙草ばかり吹かした憎たらしい上司、パットさんや可愛い友人のパルマに会う為に。