21.一筋の希望を求めて
傷薬をたっぷり塗ってガーゼをペタペタ。レン君も怪我人の一人となりました。
「子供相手に普通ここまでするかよ……」
「子供相手だからここまで手加減したんですが」
一頻り鉄槌と手当てが済んでから、私達はエルトが起きた事をアルグさんの部屋に飛び込み報告した。
アルグさんはそれを聞くなり私と同じくらい喜んだのだけど、調子に乗り過ぎて「あ痛っ!」とまだ残る傷を痛ませていた。どっかで見た事ありますよその光景。
でも「涙を取っておいて良かったろ」との問いには笑顔ではっきりと答えられた。
それから少しするとエルスースさんが戻って来て、途中で会ったんだと医師も連れていた。何だかいっぺんに出来事が起こり過ぎて忘れていたけど、まだ今日は来ていなかったんだっけ。
彼もまた報告を聞くなり、エルトが起きた事を喜んでくれた。
ちなみに、少し遅くなった診察結果は何の問題も無し。元々エルトは目覚めない事が問題だった訳で、まあ起きたばかりですからあまり無理はしないようにと忠告だけ頂いた。
一方アルグさんは薬を頂き、更に貴方はまだ怪我人ですから激しい運動はしないようにと強く言われていた。アルグさんの性格は見抜かれていた様だ。
そして外出の許可も貰えた私達は、三人(+一人)揃ってミルトニアの町に繰り出していた。久し振りに皆で食事をする為だ。
選んだのは庶民的な食堂。酒場も良いかなって思ったけど、子供連れにそろそろ陽の暮れる時間。荒れた人達も集まる頃だし、今の状態の二人が絡まれたら困るしね。
「――ねえ、レン君。何であの時あんな事したんですか」
「あんな事?」
「私を押した事ですよ」
店員さんに注文して料理を待つ間、私が出した話題はそれだった。
体調の気遣いや良かったの言葉は散々ギルドの中で交わしたし、待つ間って結構暇だし、何より気になっていたんだもの。幾ら子供だからってもう十三にもなる子が理由もなしに、普通人を後ろから押しますか。しかも怪我人に向けて。
制裁を加えたエルトも話だけは伝えたアルグさんも、その話題に興味を示してレン君を見る。するとレン君はとんでもない答えを返してきた。
「だってこのチートが起きないとドラゴン退治に行けないだろ」
ドラゴン、退治?まだそんな事言ってるの……?!
二人が起きたからと言っても方針なんか決めていないし、と言うか決められるのかもわからないし。そもそもレン君は絶対に連れていかないし。それに、
「エルト?!」
私が頭の中で何言ってんのこの子(要約)を繰り返している間に、エルトがシャッと剣を抜いていた。止める間もなくそれが真っ直ぐレン君を狙う。
「……そんな理由でメイナを押した?馬鹿なのかい、君は」
カンッと金属同士の高い音がぶつかり合った。レン君には一切刃が触れる事はない。恐らくエルトは手加減しているのだろうけど、それでもあの早さに付いていけるなんて。その辺は流石レン君だ。
でもやっぱり連れてはいけないよ。あとエルトの言葉に同意する。
「危ねー!俺じゃなかったら切れてるぞ、体が!」
「君が切れないのは残念だ」
「おいおい、元気なのは良いが今は食事しに来たんだぞ。店を壊しに来たんじゃないんだからな」
「そうですよ!……きっかけの話持ち出した私が言うことじゃないかもしれないですけど。エルト!あまり無理はしないようにって言われたでしょ。そもそもレン君は子供なんだから剣を向けちゃ駄目」
拳なら良いのか拳なら、と私を責め立てる呟きがレン君から聞こえたような気がしないでもないけど、私の武器は棍棒だからね。私だって本当に武器を振るわないようにはしてるんだから。……多分。
「何だか子供な気がしないんだよ、その子……」
「そりゃ、何となくはわかるけども。レン君も。あの時は何とか止まれたしエルトが起きたから良かったものの、下手したらエルトの上に思い切り倒れる事になったんですからね」
「絶対下手にはならないってわかってたからな」
「はい?」
「俺が押したんだから、想定外の所に落ちるはずないし」
ああ、そうですか。相変わらずの自信ですね。
「それにメイナにキスされたら、チート野郎は絶対起きると思ったし」
このテーブルだけ、時が止まったように皆無言で静止した。
エルト。否定とか。せめて、ほら、何か言って。何でこういう自信過剰の台詞には突っ込まないの。
「お待たせ致しましたー!」
結局助けはエルトからやって来ず、店員さんがいっぱいの料理をテーブルへと届けたことで時は動き出した。
「「おおっ、すげえ!」」
四人分とあってか何時もより豪勢に見える料理。それに食べ慣れているビスカリアの物とはちょっとだけ違う。
子供らしく切り替えて目を輝かせるレン君と子供みたいに目を輝かせるアルグさんに少しだけ笑いつつ、私も気まずさなんて流し込んでしまうかのように喉をごくりと鳴らした。
「いっただっきまーす!」
「ミルトニアの味付けは久し振りに食うなぁ」
「んー!やっぱり食べ物食べてる時って幸せ……!」
麺のもちもちさは負けず劣らずだけど、味付けはビスカリアとはちょっと違う、シンプルな旨味の中に選び抜かれた香辛料のピリッとした辛さが際立ったパスタ。肉とトマトがたっぷりだったビスカリアに比べて、こちらは花と野菜が鮮やかな香りと彩りを添える。
他の小皿料理も野菜や花、果物が多く盛られていた。
乙女としてはこっちの方が良いんだろうなぁ。……でも私はやっぱり慣れ親しんだお肉たっぷりのビスカリアパスタの方が好きかも。勿論美味しいけどね、こっちも。
「子供相手に普通ここまでするかよ……」
「子供相手だからここまで手加減したんですが」
一頻り鉄槌と手当てが済んでから、私達はエルトが起きた事をアルグさんの部屋に飛び込み報告した。
アルグさんはそれを聞くなり私と同じくらい喜んだのだけど、調子に乗り過ぎて「あ痛っ!」とまだ残る傷を痛ませていた。どっかで見た事ありますよその光景。
でも「涙を取っておいて良かったろ」との問いには笑顔ではっきりと答えられた。
それから少しするとエルスースさんが戻って来て、途中で会ったんだと医師も連れていた。何だかいっぺんに出来事が起こり過ぎて忘れていたけど、まだ今日は来ていなかったんだっけ。
彼もまた報告を聞くなり、エルトが起きた事を喜んでくれた。
ちなみに、少し遅くなった診察結果は何の問題も無し。元々エルトは目覚めない事が問題だった訳で、まあ起きたばかりですからあまり無理はしないようにと忠告だけ頂いた。
一方アルグさんは薬を頂き、更に貴方はまだ怪我人ですから激しい運動はしないようにと強く言われていた。アルグさんの性格は見抜かれていた様だ。
そして外出の許可も貰えた私達は、三人(+一人)揃ってミルトニアの町に繰り出していた。久し振りに皆で食事をする為だ。
選んだのは庶民的な食堂。酒場も良いかなって思ったけど、子供連れにそろそろ陽の暮れる時間。荒れた人達も集まる頃だし、今の状態の二人が絡まれたら困るしね。
「――ねえ、レン君。何であの時あんな事したんですか」
「あんな事?」
「私を押した事ですよ」
店員さんに注文して料理を待つ間、私が出した話題はそれだった。
体調の気遣いや良かったの言葉は散々ギルドの中で交わしたし、待つ間って結構暇だし、何より気になっていたんだもの。幾ら子供だからってもう十三にもなる子が理由もなしに、普通人を後ろから押しますか。しかも怪我人に向けて。
制裁を加えたエルトも話だけは伝えたアルグさんも、その話題に興味を示してレン君を見る。するとレン君はとんでもない答えを返してきた。
「だってこのチートが起きないとドラゴン退治に行けないだろ」
ドラゴン、退治?まだそんな事言ってるの……?!
二人が起きたからと言っても方針なんか決めていないし、と言うか決められるのかもわからないし。そもそもレン君は絶対に連れていかないし。それに、
「エルト?!」
私が頭の中で何言ってんのこの子(要約)を繰り返している間に、エルトがシャッと剣を抜いていた。止める間もなくそれが真っ直ぐレン君を狙う。
「……そんな理由でメイナを押した?馬鹿なのかい、君は」
カンッと金属同士の高い音がぶつかり合った。レン君には一切刃が触れる事はない。恐らくエルトは手加減しているのだろうけど、それでもあの早さに付いていけるなんて。その辺は流石レン君だ。
でもやっぱり連れてはいけないよ。あとエルトの言葉に同意する。
「危ねー!俺じゃなかったら切れてるぞ、体が!」
「君が切れないのは残念だ」
「おいおい、元気なのは良いが今は食事しに来たんだぞ。店を壊しに来たんじゃないんだからな」
「そうですよ!……きっかけの話持ち出した私が言うことじゃないかもしれないですけど。エルト!あまり無理はしないようにって言われたでしょ。そもそもレン君は子供なんだから剣を向けちゃ駄目」
拳なら良いのか拳なら、と私を責め立てる呟きがレン君から聞こえたような気がしないでもないけど、私の武器は棍棒だからね。私だって本当に武器を振るわないようにはしてるんだから。……多分。
「何だか子供な気がしないんだよ、その子……」
「そりゃ、何となくはわかるけども。レン君も。あの時は何とか止まれたしエルトが起きたから良かったものの、下手したらエルトの上に思い切り倒れる事になったんですからね」
「絶対下手にはならないってわかってたからな」
「はい?」
「俺が押したんだから、想定外の所に落ちるはずないし」
ああ、そうですか。相変わらずの自信ですね。
「それにメイナにキスされたら、チート野郎は絶対起きると思ったし」
このテーブルだけ、時が止まったように皆無言で静止した。
エルト。否定とか。せめて、ほら、何か言って。何でこういう自信過剰の台詞には突っ込まないの。
「お待たせ致しましたー!」
結局助けはエルトからやって来ず、店員さんがいっぱいの料理をテーブルへと届けたことで時は動き出した。
「「おおっ、すげえ!」」
四人分とあってか何時もより豪勢に見える料理。それに食べ慣れているビスカリアの物とはちょっとだけ違う。
子供らしく切り替えて目を輝かせるレン君と子供みたいに目を輝かせるアルグさんに少しだけ笑いつつ、私も気まずさなんて流し込んでしまうかのように喉をごくりと鳴らした。
「いっただっきまーす!」
「ミルトニアの味付けは久し振りに食うなぁ」
「んー!やっぱり食べ物食べてる時って幸せ……!」
麺のもちもちさは負けず劣らずだけど、味付けはビスカリアとはちょっと違う、シンプルな旨味の中に選び抜かれた香辛料のピリッとした辛さが際立ったパスタ。肉とトマトがたっぷりだったビスカリアに比べて、こちらは花と野菜が鮮やかな香りと彩りを添える。
他の小皿料理も野菜や花、果物が多く盛られていた。
乙女としてはこっちの方が良いんだろうなぁ。……でも私はやっぱり慣れ親しんだお肉たっぷりのビスカリアパスタの方が好きかも。勿論美味しいけどね、こっちも。