15.ミルトニア
やっぱり聴き込みだけじゃ情報は得られそうにないか。もうこれは直接行ってみて調査するしかない。
勿論得られようが得られまいが草原には調査に行くけれど、少しでも手掛かりを得られたら良いなと思っていただけに残念だ。
「……あっ!す、すみません」
小さく肩を落とす私を見て、エルスースさんは申し訳なさそうな顔をしていた。そしてその所為か、少し考える素振りをしてからこう口にした。
「そうですね、気になった事と言えば」
「何かあったんですか?」
「……でも、これはあまり関係ないかもしれませんよ。それに、ちょっと秘密にしてくれと王都から言われておりまして」
「秘密?」
事務長が王都のギルドから秘密にしてくれと言われている事。関係ないかもと言われてもそれは聞いてから判断するものだし、凄く気にはなるけれど、所詮は一端の職員が聞けるものではないだろう。
と思ったのだけど。
「ええ。ですからお三方もどうぞ内密にしてくださいね」
それは話してしまうという宣言だった。
「ええっ?!私達なんかに言って大丈夫なんですか?」
「勿論駄目ですよ。だから内密にと。あまり情報をお渡しできないのも申し訳ないですしね。まあ、本当に関係のない話だとは思いますが」
最初に向けられたにこやかな笑顔でしぃっと一本の指を口許に当てる姿を見ると、大人らしく落ち着いた真面目な方というエルスースさんの印象が少しだけ薄らいだ気がする。
「それは、お約束は守りますが……エルトとアルグさんも勿論ですよね?」
「ああ」
エルトもこくりと私に向けて頷く。
それを確認してエルスースさんが話したのは、確かに草原とは関係なさそうな……けれどとても重大な話だった。
「ここから南の方なのですが、依頼を終えた冒険者が帰り際にドラゴンを見掛けたそうなんです」
「……え」
私は数ヵ月の間に何体のドラゴンに接触すれば良いのだろう?
普通の冒険者ならば一年の中で見掛ける事だって無い方が多いのに。
何かが起きている……?にしては、ギルドの会議でも何も聞いていないし。エルスースさんの様子からしても、何かがあったという感じはしない。
「短期間で草原に移動しているとは思えませんし、それは小さいスワロフドラゴンだったので、ビスカリアの方々が驚かれるような火を吹くとは思わないのですが……。まあ街道傍にドラゴンなんて珍しくて気になる事ですし、近くもありませんが遠くもありませんので、お気をつけてと。そう言う話です」
「それは、ご忠告感謝します。私達もドラゴンは出来るだけ避けたい相手ですからね」
「まあ、流石に街道で出会ったら相手をする他ないと思うけどな。他の人間が危ない」
挨拶と返事のああしか言っていなかったアルグさんが漸く喋り出した。仕事のやり取りは私の専売特許でも、戦いとなると話せるのだろう。
それにエルスースさんは相変わらず優しく笑って、「それは頼もしいですね」と言っていた。
◆ ◆
草原へはアジュガ村で行ったモルダバイド洞窟同様、歩きで向かわなければならない。幾ら景色が綺麗と言っても、魔物が出て停車場も無い草原までは普通の馬車屋は走ってくれないからだ。
いつも通りに私が片手に地図を持ち、片手にコンパスを持って歩いていた。
街道からは外れているけど、取り合えず今のところは例のドラゴンが出て来ない事にほうっとする。南の方って言っていたしね。この調子なら無事に着くだろう。
「……スワロフドラゴンか」
アルグさんもどうやらドラゴンの話を気にしているようで、歩きながらぼそりと呟いた。
「アルグさん、ドラゴンの事気になるんですか?」
「まあ、そりゃあな。エルトがいりゃあ多分いけるが、普通はスワロフでもドラゴンじゃあ強敵の類いだぞ」
「別に街道でドラゴンが居座っていても構わないけど、メイナの為だったら倒すから安心してね」
街道に居座っていても構わないって……。
まあ、二人掛かり(私も入れて良いなら三人掛かり)であってもオブシディアンドラゴンを倒してしまったエルトだ。負けることはないだろうけど。
そもそもそう言えばエルトって不死身なんだっけ。それに闇も使える凄いネクロマンサー……あれ、今更だけどよく考えたらレン君の言う通り法外な能力で無敵?
本人も安心しろと言うんだし、ちょっと冗談混じりにこう言ってみようか。
「じゃあ、エルトに甘えて少しだけ安心しようかな!」
「……」
「……」
「何ですか、二人ともその反応は」
二人とも私の軽い言葉に目を見開いて何の突っ込みも入れてこない。別にお笑いの為の言葉では無かったのに何処か冷えた空気を感じて恥ずかしくなってくる。
けれど次の瞬間にもっと恥ずかしい気持ちになった。
アルグさんはそのまま驚いていただけだったのに、エルトは嬉しそうに、本当に嬉しそうにぱっと笑って言うのだ。
「うん。安心して、メイナ。どんな相手でも今の言葉で大丈夫だから」
そ、そんなに大した言葉じゃ無かったと思うけどな……?
「僕の手で殺すまでは」
それはおかしい。
勿論得られようが得られまいが草原には調査に行くけれど、少しでも手掛かりを得られたら良いなと思っていただけに残念だ。
「……あっ!す、すみません」
小さく肩を落とす私を見て、エルスースさんは申し訳なさそうな顔をしていた。そしてその所為か、少し考える素振りをしてからこう口にした。
「そうですね、気になった事と言えば」
「何かあったんですか?」
「……でも、これはあまり関係ないかもしれませんよ。それに、ちょっと秘密にしてくれと王都から言われておりまして」
「秘密?」
事務長が王都のギルドから秘密にしてくれと言われている事。関係ないかもと言われてもそれは聞いてから判断するものだし、凄く気にはなるけれど、所詮は一端の職員が聞けるものではないだろう。
と思ったのだけど。
「ええ。ですからお三方もどうぞ内密にしてくださいね」
それは話してしまうという宣言だった。
「ええっ?!私達なんかに言って大丈夫なんですか?」
「勿論駄目ですよ。だから内密にと。あまり情報をお渡しできないのも申し訳ないですしね。まあ、本当に関係のない話だとは思いますが」
最初に向けられたにこやかな笑顔でしぃっと一本の指を口許に当てる姿を見ると、大人らしく落ち着いた真面目な方というエルスースさんの印象が少しだけ薄らいだ気がする。
「それは、お約束は守りますが……エルトとアルグさんも勿論ですよね?」
「ああ」
エルトもこくりと私に向けて頷く。
それを確認してエルスースさんが話したのは、確かに草原とは関係なさそうな……けれどとても重大な話だった。
「ここから南の方なのですが、依頼を終えた冒険者が帰り際にドラゴンを見掛けたそうなんです」
「……え」
私は数ヵ月の間に何体のドラゴンに接触すれば良いのだろう?
普通の冒険者ならば一年の中で見掛ける事だって無い方が多いのに。
何かが起きている……?にしては、ギルドの会議でも何も聞いていないし。エルスースさんの様子からしても、何かがあったという感じはしない。
「短期間で草原に移動しているとは思えませんし、それは小さいスワロフドラゴンだったので、ビスカリアの方々が驚かれるような火を吹くとは思わないのですが……。まあ街道傍にドラゴンなんて珍しくて気になる事ですし、近くもありませんが遠くもありませんので、お気をつけてと。そう言う話です」
「それは、ご忠告感謝します。私達もドラゴンは出来るだけ避けたい相手ですからね」
「まあ、流石に街道で出会ったら相手をする他ないと思うけどな。他の人間が危ない」
挨拶と返事のああしか言っていなかったアルグさんが漸く喋り出した。仕事のやり取りは私の専売特許でも、戦いとなると話せるのだろう。
それにエルスースさんは相変わらず優しく笑って、「それは頼もしいですね」と言っていた。
◆ ◆
草原へはアジュガ村で行ったモルダバイド洞窟同様、歩きで向かわなければならない。幾ら景色が綺麗と言っても、魔物が出て停車場も無い草原までは普通の馬車屋は走ってくれないからだ。
いつも通りに私が片手に地図を持ち、片手にコンパスを持って歩いていた。
街道からは外れているけど、取り合えず今のところは例のドラゴンが出て来ない事にほうっとする。南の方って言っていたしね。この調子なら無事に着くだろう。
「……スワロフドラゴンか」
アルグさんもどうやらドラゴンの話を気にしているようで、歩きながらぼそりと呟いた。
「アルグさん、ドラゴンの事気になるんですか?」
「まあ、そりゃあな。エルトがいりゃあ多分いけるが、普通はスワロフでもドラゴンじゃあ強敵の類いだぞ」
「別に街道でドラゴンが居座っていても構わないけど、メイナの為だったら倒すから安心してね」
街道に居座っていても構わないって……。
まあ、二人掛かり(私も入れて良いなら三人掛かり)であってもオブシディアンドラゴンを倒してしまったエルトだ。負けることはないだろうけど。
そもそもそう言えばエルトって不死身なんだっけ。それに闇も使える凄いネクロマンサー……あれ、今更だけどよく考えたらレン君の言う通り法外な能力で無敵?
本人も安心しろと言うんだし、ちょっと冗談混じりにこう言ってみようか。
「じゃあ、エルトに甘えて少しだけ安心しようかな!」
「……」
「……」
「何ですか、二人ともその反応は」
二人とも私の軽い言葉に目を見開いて何の突っ込みも入れてこない。別にお笑いの為の言葉では無かったのに何処か冷えた空気を感じて恥ずかしくなってくる。
けれど次の瞬間にもっと恥ずかしい気持ちになった。
アルグさんはそのまま驚いていただけだったのに、エルトは嬉しそうに、本当に嬉しそうにぱっと笑って言うのだ。
「うん。安心して、メイナ。どんな相手でも今の言葉で大丈夫だから」
そ、そんなに大した言葉じゃ無かったと思うけどな……?
「僕の手で殺すまでは」
それはおかしい。