10.私達の日常は
人手不足とは言っても、雑務課は私達だけじゃない。そりゃそうだ。ドラゴンなんかの強力な敵を端た金で倒さなきゃいけない、なんて依頼が来た時に私とアルグさんだけのパーティでは太刀打ちできないだろう。今でこそエルトもいて、二度もドラゴンに遭遇して生き残っている訳だけど、それまでは精々オーガ数体が良いところ。実際にはその難易度すら仕事が回ってきた事はなかった。
まあ敵対するのがどんな魔物であれ、確実に面倒な仕事しか来ないし量も選べないのに給料は固定。それでも極一部の特典(詰まる所安定だったり、身分の保証だったりだ)目当てに雑務課になった奇特な冒険者達は少ないながら存在した。というか、私以外はアルグさんも含めて皆そうなんだけど……。
今日も朝から仕事内容の確認をしにギルドへ来ると、そんな冒険者出の雑務課パーティと擦れ違い、私はぺこりとお辞儀をしてから挨拶をした。
「おはようございます」
「……ああ」
無愛想に一声。それでもこんな内部事情だから、こうして何事もなく返してくれる人はまだ良い。
「あ?何だお前」
なんてツルツル頭に幾つか傷跡をつけて、フルーレちゃんよりは少し劣るけれども十二分に主張する筋肉を晒した斧を持つ男の人が、三白眼でこちらを睨んで通っていく時は泣きそうになる。
更にエルトが喧嘩を売ろうとした(向こうもメンチ切ってきたから、買ったのかもしれないけど)始めの頃はもっと泣きそうになった。
「おはよう、メイナ!アルグさん、エルトさんもおはようございます!」
ざらざらと荒んでしまった心を癒してくれるのは受付にいたパルマの明るい声。今日も綺麗にふわふわ揺れている金髪に、ピンクのリップが可愛らしい。あの紙煙草の臭いの代わりに甘い香りも漂っていた。
「おはよう。今日はここ、パルマなんだ」
「うん、今日は第三の五(いつ)の日でしょ?パットさんお休みなの」
「そっかぁ。うーん……雑務課になってからはめっきり日付感覚がおかしくなってる」
「雑務課はお休み、不規則だもんね。今日もめげずに頑張って!はい、お仕事の依頼内容っ。確認してね」
パチッと愛らしいウインクで応援されると、パルマは数枚の綴りになった紙を取り出した。私達の今日の仕事だ。
いつもは未だに薬指に結婚指輪を嵌めているパットさんから受け取るそれを貰い、受付の向かい側で少し離れた場所にあるテーブルへと向かう。三人揃って席に着くといつも通りにその上に紙を置いた。
何枚もある紙の中からまずは一枚目の紙を見る。依頼内容が大きめの文字で載っていて、その下には小さな文字で詳細や箇条書きの達成条件が並んでいる。
「あれ?……珍しく、楽なお仕事……?」
そこに書かれていた内容は、スコレサイトの森から数種類の薬草を摘んでくるというもの。勿論報酬は安いし数は多い。期限も短く急いでいるようだけど、依頼自体は出されて間もない。これならパーティを組んで人数さえ揃えれば、初心者でもできてしまう依頼だ。
仕事が楽なのは嬉しいことだけど、これって何だか冒険者の仕事を奪っているようなものじゃない……?今日は受付がパルマだから手加減してくれたとか?でも仕事の割り振りはパルマが勝手に決められるものじゃないだろうし……。
私は首を傾げて次の紙に目を通す。先程の依頼説明は一枚の紙で十分なようで、次も新たな依頼の紙だった。
「そうもいかないみたいだな」
「……ん?」
アルグさんの言葉に、私も気付いてしまう。
ビスカリアの小さな薬屋から薬を受け取りネリネ村への搬送をする。紙にはそう書かれていた。
雑務課は時間の都合さえつけば一日に二件三件の依頼を任せられる事もある。だから違う依頼があってもおかしくはない。問題はそこに書かれていた薬屋の名前だ。それは一枚目の依頼である薬草を引き渡す薬屋さんだった。その上二枚目も期限が迫っている。
しかしネリネ村へは距離もあるし、途中に少し面倒な魔物がでる丘がある。つまり初心者パーティには辛い。
でも一枚目の依頼が終わらないと多分、運ぶ為の薬が出来ない。それは報酬が安いからレベルの高い冒険者はやりたがらない。
「何だか一繋ぎになった依頼みたいですね。実際はバラバラに出されてますが」
「ああ。それぞれの依頼を同じパーティが一括して請け負う事はないだろうな。内容(なか)見た感じじゃ、向いてるレベルも報酬も違う。期限が長けりゃ待っていればいいが、この短い間で偶然それぞれに向いた冒険者が請け負って全部解決!……って訳にもいかんだろうなぁ」
「……それを何とかするのが私達なんですね……」
しかもまだ紙は数枚ある。……うわあ、嫌な予感がする。自然と声が重たくなるのも仕方の無い事だ。
そんな憂鬱な私や同じく悟ったのか少し眉をひそめたエルトよりも先に、全てを確認したアルグさんはこう言った。
「喜べメイナ、今回は数日仕事に掛かりっきりだぞ」
ぎゃあああ!やっぱり!
まあ敵対するのがどんな魔物であれ、確実に面倒な仕事しか来ないし量も選べないのに給料は固定。それでも極一部の特典(詰まる所安定だったり、身分の保証だったりだ)目当てに雑務課になった奇特な冒険者達は少ないながら存在した。というか、私以外はアルグさんも含めて皆そうなんだけど……。
今日も朝から仕事内容の確認をしにギルドへ来ると、そんな冒険者出の雑務課パーティと擦れ違い、私はぺこりとお辞儀をしてから挨拶をした。
「おはようございます」
「……ああ」
無愛想に一声。それでもこんな内部事情だから、こうして何事もなく返してくれる人はまだ良い。
「あ?何だお前」
なんてツルツル頭に幾つか傷跡をつけて、フルーレちゃんよりは少し劣るけれども十二分に主張する筋肉を晒した斧を持つ男の人が、三白眼でこちらを睨んで通っていく時は泣きそうになる。
更にエルトが喧嘩を売ろうとした(向こうもメンチ切ってきたから、買ったのかもしれないけど)始めの頃はもっと泣きそうになった。
「おはよう、メイナ!アルグさん、エルトさんもおはようございます!」
ざらざらと荒んでしまった心を癒してくれるのは受付にいたパルマの明るい声。今日も綺麗にふわふわ揺れている金髪に、ピンクのリップが可愛らしい。あの紙煙草の臭いの代わりに甘い香りも漂っていた。
「おはよう。今日はここ、パルマなんだ」
「うん、今日は第三の五(いつ)の日でしょ?パットさんお休みなの」
「そっかぁ。うーん……雑務課になってからはめっきり日付感覚がおかしくなってる」
「雑務課はお休み、不規則だもんね。今日もめげずに頑張って!はい、お仕事の依頼内容っ。確認してね」
パチッと愛らしいウインクで応援されると、パルマは数枚の綴りになった紙を取り出した。私達の今日の仕事だ。
いつもは未だに薬指に結婚指輪を嵌めているパットさんから受け取るそれを貰い、受付の向かい側で少し離れた場所にあるテーブルへと向かう。三人揃って席に着くといつも通りにその上に紙を置いた。
何枚もある紙の中からまずは一枚目の紙を見る。依頼内容が大きめの文字で載っていて、その下には小さな文字で詳細や箇条書きの達成条件が並んでいる。
「あれ?……珍しく、楽なお仕事……?」
そこに書かれていた内容は、スコレサイトの森から数種類の薬草を摘んでくるというもの。勿論報酬は安いし数は多い。期限も短く急いでいるようだけど、依頼自体は出されて間もない。これならパーティを組んで人数さえ揃えれば、初心者でもできてしまう依頼だ。
仕事が楽なのは嬉しいことだけど、これって何だか冒険者の仕事を奪っているようなものじゃない……?今日は受付がパルマだから手加減してくれたとか?でも仕事の割り振りはパルマが勝手に決められるものじゃないだろうし……。
私は首を傾げて次の紙に目を通す。先程の依頼説明は一枚の紙で十分なようで、次も新たな依頼の紙だった。
「そうもいかないみたいだな」
「……ん?」
アルグさんの言葉に、私も気付いてしまう。
ビスカリアの小さな薬屋から薬を受け取りネリネ村への搬送をする。紙にはそう書かれていた。
雑務課は時間の都合さえつけば一日に二件三件の依頼を任せられる事もある。だから違う依頼があってもおかしくはない。問題はそこに書かれていた薬屋の名前だ。それは一枚目の依頼である薬草を引き渡す薬屋さんだった。その上二枚目も期限が迫っている。
しかしネリネ村へは距離もあるし、途中に少し面倒な魔物がでる丘がある。つまり初心者パーティには辛い。
でも一枚目の依頼が終わらないと多分、運ぶ為の薬が出来ない。それは報酬が安いからレベルの高い冒険者はやりたがらない。
「何だか一繋ぎになった依頼みたいですね。実際はバラバラに出されてますが」
「ああ。それぞれの依頼を同じパーティが一括して請け負う事はないだろうな。内容(なか)見た感じじゃ、向いてるレベルも報酬も違う。期限が長けりゃ待っていればいいが、この短い間で偶然それぞれに向いた冒険者が請け負って全部解決!……って訳にもいかんだろうなぁ」
「……それを何とかするのが私達なんですね……」
しかもまだ紙は数枚ある。……うわあ、嫌な予感がする。自然と声が重たくなるのも仕方の無い事だ。
そんな憂鬱な私や同じく悟ったのか少し眉をひそめたエルトよりも先に、全てを確認したアルグさんはこう言った。
「喜べメイナ、今回は数日仕事に掛かりっきりだぞ」
ぎゃあああ!やっぱり!