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9.嫌な場所+大量の魔物=?

 トイレの掃除とか冒険後のドロドロ服の洗濯なんて嫌な作業だ。でも、誰かがやらなくちゃいけない。そう、それはきっと今の私の仕事と同じ。嫌だって、誰かが殺らなくちゃいけない。
 例え、地下水路に溜まった大量のスライムだって。

「って何でギルド職員だった私がこんな事してるのよおおお!」

「ははは。その叫び、前も聞いた気がするぞ」

「僕は初めてですけどね」

 ぶんっ!と振ったいつもの鈍器で核も粘液も飛び散って下水の流れに落ちていく。スライムなんて、それこそこの間の勇者くんみたいにレベルの無い冒険者でも狩れる存在だ。弱いからこんな風に一振りで倒せる。
 厄介なのはその量と場所だった。それでも百匹にも満たないこの程度の量だけなら、その内誰かが手を出していたかもしれない。
 しかしここは地下水路。公共の水汲み場ではなく、個人宅のトイレに繋がっている水路だ。私達は端の通路で戦っている訳だけど、足を踏み外せば先程倒したスライムと同じ運命を辿る事になる。それが何よりも恐ろしい事だった。だって臭い。
 故に依頼が残って雑務課に回ってきたのだった。

「まあ、臭いさえ我慢すれば楽な仕事じゃないか。すぐ終わらせて風呂にでも入ればいいさ」

「言われなくてもそうし……ますっ!」

 べちゃっ!とまた一匹が飛び散った。棍棒はスライムの一部でべっとり汚れていて、それまで嫌な臭いを放っている気がしてしまう。
 ……ギルドで依頼を確認した時は絶望的だったな。他のパーティは遠方の依頼で出払っていて、悪い悪いとは言葉だけでパットさんの顔が笑っていた。仕事だし仕方ないのはわかるけど、その表情はいらないと思う。そんなだから奥さんに逃げられるんですよ、とは流石に言えないけれど。

「うう……。まだいつもよりは量が少ないのが、本当に救いかも……」

 私の周りでは最後の一匹。これで終わりだー、と少し気を抜きながらも棍棒を振ると、それは透明な体とそれよりははっきりとした色を持つ核を押し潰し、剥がし、飛び散らせて……
 ひゅうん、バキッ。

「えっ。」

 先の部分が飛んでいった。

「……何やってんだメイナ」

「いや、手は離してないですし、普通に攻撃しただけですよ私。ほら、持ち手の部分はありますし」

 そう言って肝心な部分は無くなってしまった持ち手を握ったまま掲げる。でもここだけあったって意味はないんだよね。
 不幸中の幸いか、それとも単なる不幸か。私は周りのスライムを倒し終えていたので取り敢えず今日の仕事に支障はない。アルグさんとエルトも自分の周囲のスライムを倒すと、その状況を確認しに集まってくれた。

「うーん……こりゃ駄目だな。ぽっきりいっちまってる」

「ごめんねメイナ。先の部分は探したけど見付からなかったよ。もう流されているかもしれない」

「ううん、探してくれて有難うエルト……。やっぱり駄目か……」

「この間は石化させたとは言え、ドラゴン相手に何度もぶん殴ってたからな。多分それで脆くなってたんだろう」

 予想はしてたけど、ぽっきり折れて先も見当たらないんじゃもはや修理も出来そうにない。長居したい場所でもないので、棍棒の事は諦めてペンダントに魔法記録を残すと私達は地下水路を後にした。

 まあ、これで依頼内容は完了だ。
 とは言えそのまま報告に行くわけにもいかず、一旦それぞれの自宅に着替えを取りに帰り、その後公衆浴場「ユァミャ」に集まった。
 公衆浴場の中でも冒険者ギルドが近く、ギルドと提携もしているこのユァミャは多くの冒険者が訪れる。その為、悲しいかな今の私達のように臭いがしようと汚れていようと追い返される心配はない。……他のお客さんからは、若干距離を置かれるけれど。
 ギルド職員である身分証を見せて割り引かれた代金を支払うと、再び二人と別れて女風呂へと入る。

「ああ……生き返るー……」

 そしてたっぷりの蒸気で温まり、掛け流したお湯で汗や汚れを落とせば幸せなさっぱり気分。普段は夜に訪れるけれど、お昼のお風呂も良いものだ。
 じんわりと温まった体で入り口まで出て来れば、既にアルグさんとエルトが雑談をして待っていた。濡れた髪がいつもの二人とは違う雰囲気を出していて、少しだけどきりとするけれど、私の言わなければならない事は決まっている。

「す、すみません!お待たせしました……!」

「ははは。大丈夫だ、俺達もさっき上がった所だからな」

「例え待ったとしても、メイナのお風呂上がり姿を見られるならそれでいいかな」

「なっ、何言ってんの……!」

 どう考えてもエルトの色っぽい姿を見られた私の方が得な気がするけれど、その滅多に言われない言葉は恥ずかしいような嬉しいような。既にほかほかの体の温度は大して変わらないけれど、少しだけ肩に掛けた水気取りの織物で口元を隠した。
 殺されるのは勘弁願いたいけど、やっぱりエルトって紳士的で大人になってからの私を唯一女性扱いしてくれるんだよね……。

「いちゃいちゃすんのは構わんが、ギルドに報告行くぞー」

「だっ、誰がエルトといちゃいちゃしますかっ!まだ死にたくないです!」

「僕はいつでも機会を窺ってるけどね」

「そこはいつでも待ってるとかにしてよ……」
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