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8.これでたったの一件落着

 アジュガ村で一室を取っていたのが実はレン君が置いてきた残り二人だったようで(レン君はあわよくば女の子だらけの部屋に転がり込みたかったらしく、帰ってきた時の宿を取っていなかったらしい)、彼女達も一緒に馬車に揺られてビスカリアへと帰ってきた。
 そして冒険者ギルドに戻った私達が依頼完了の報告を済ませると、そこに飛び出してきたのはたゆんたゆんと胸を揺らし涙を流したパルマだった。
 パルマに好意を抱いていた人達か単なる野次馬根性かそこにいた数人の視線が彼女を追って私達まで辿り着く。

「わーん!良かったぁ!レンくんっ」

「げへへ……」

 私が依頼を請けた時のようにパルマにぎゅうっと抱き着かれて、喜びと安堵を体一杯に受け入れるレン君の顔はある意味見るも無惨。何せ私だって恥ずかしいぐらいに柔らかいと感じたそれは、小さい体のレン君にはより感じられるのだ。
 しかも、その様子を眺めたアルグさん曰く

「まあ、綺麗なお姉ちゃんからのぎゅーは、男の浪漫だよな」

らしいので。
 いくら誘惑には負けないアルグさんでも、やっぱり可愛らしい巨乳のパルマがいいのか!別に真っ平らな訳ではないけれど……何だか少し落ち込む。

「アルグさんは、パルマさんのような方が好みなんですね」

 そこでなるほど、とでも言うようにエルトが私の呟きたかった言葉を溢した。

「エルトは違うのか?」

「僕はメイナ以外には興味が湧きませんので」

「……まあ、そうだよな。浪漫と実際の惚れた腫れただって違うだろうしな」

「それはどういう」

 アルグさんが私の希望を生み出し、それにエルトが何かを言い掛けた所で「あっ」とパルマの声が響いた。それと同時にレン君は大きなふにふにから離されたけれど、まだ余韻を楽しんでいるのか妄想で続けているのか、幸せそうでだらしない顔はそのままだ。

「メイナ、今回は本当にありがとうっ!」

「ううん。パルマのお願いだし、これが私のお仕事だしね」

 と言ってみたところでちょっと罪悪感。本当は今回の私、大した仕事をしていない気がするんだよね。ドラゴンを倒したのは二人だし、レン君とフルーレちゃん以外は宿に泊まっているのを連れてきただけだし。
 強くなりたくはないけど、仕事に役立たないのは嫌だな……。

「雑務課じゃ依頼毎の報酬は払われないし、でも依頼を出す分で私の手持ちも無くなっちゃったから、大したお礼は出来ないんだけど……」

「いいよいいよ!そんなの気にしなくて」

「せめてもの気持ちで、エルトさんの申請、頑張って早めに処理したから!」

 じゃーん!と何処かから紙を取り出したパルマは、私の前にそれを突き出す。その紙には正式にエルト・シンナバーという人物が冒険者ギルドの雑務課に入る事を認められたと言う記述が為されていた。
 そうだ、今までのエルトの所属は仮で私がこっちを出発する前にやっぱり止めておけば……!とか考えていたのだ。結局、エルトがいなければあんなドラゴン倒せなかったかもしれない。
 頭の中で感謝の言葉を巡らせている間にパルマは必要な書類をエルトに渡していた。

「おっ。そうかそうか、これでエルトは正式にうちの所属になるんだな!」

「……あ。パルマ。手続きで思い出した。ごめん、一つ頼み事してもいい?」

「勿論!エルトさんの手続きじゃまだまだお礼は足りないもん。どんな事?」

「ここにいるフルーレちゃんに、レベル1の申請と初級僧侶の推薦をしてあげたいんだけど」

 そう言ってフルーレちゃんを紹介すると、当のフルーレちゃんは「ええっ?!」と驚いていた。謙虚な子だから実力はあっても自己評価は低いのかもしれない。
 パルマがにこっと此方まで笑顔になりそうな可愛い笑顔で了解の返事をくれると、その横で自称勇者なのにレベルを持たないレン君が騒ぎだした。

「俺は?!俺は!」

「パルマにでもお願いして下さい。」

 多分今回の事があるから幾らパルマでも、少しの間は推薦してくれないと思うけどね。魔窟に挑むか依頼をこなさないとレベルは申請できないっていう規律も破らなかったみたいだし、骨抜きになってもきちんとしなきゃいけない所はわかるようだから。

「あの……メイナさん、あ、有難うございます」

「じゃあえっと、フルーレちゃん?ちょっと書かなきゃいけない物もあるから、一緒にカウンターまで来てもらえるかな。あっ、レンくんはその後でお説教だから、待っててね。帰っちゃ駄目だからねっ」

 パルマは私が驚いたフルーレちゃんの風貌にも疑問を投げ掛ける事なく、寧ろカウンターまでの距離で「声可愛いー!」「パルマさんこそ、素敵な方で羨ましいで す」などときゃいきゃい楽しそうに会話していた。
 それを見届けてから私達雑務課組ははお互いの顔を見合う。

「今日はこれで解散だな」

「ですね。明日以降はこんな大変な仕事、来ないと良いですけど」

「またゴブリン百匹清掃とかだったりしてな!」

「それもそれで嫌ですけどね」

 お仕事には変わりないから、やりますけど……。
 私達はそのまま挨拶を交わしてギルドを出ると、三方向に別れて帰路へと着くのだった。
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