世界は光でできている
はさみ
―挟み―
格好をつけた形の銀の髪は、さらりと揺れる。実際彼の髪と顔立ちは良く合っていた。
だが、今彼らはそんな事を語っている場合ではなかった。
彼――ルース・シャーレの両サイドには、紫のおかっぱ女性、黒のもさもさした髪の男。女の方はそれなりに綺麗な顔をしているが、男は厚い眼鏡であまり良い印象を受けない。
二人は共に視線をルースに向けて固定し、女は鋭いナイフを、男は両手に何か光を溜めていた。
「……そんなに睨み付けて、何かあったのか」
彼は飄々と軽口を言ってのけるが、この状況で誤魔化されるはずもあるまい。
「何をしたか、是非貴方の口で一から十まで吐き出してもらいたいものですね」
紫の女が挑発的な言葉を、しかし受ける圧が重い声で返した。
黒の男は普通にしていれば情けない顔だが、女性に続き冷静に発する。
「今の神の天仕にも僕達の神の天仕にも、貴方が今回の犯人だと言うのはバレています」
「旧神派は私達が調べた事を教えてもらっただけですけどね」
「証拠でもあるのか」
「証拠がなきゃ動かないと思ってるんですか。そんな甘い世界じゃありませんよ。少なくとも私は、最近までそんな世界にいませんでしたから」
当然幾つもの怪しい行動や証言は取った上でだが、女はわかっている。
この男が今証拠を持っている事を。
それを調べるのに、正式な手続きだ何だと悠長な事をして暇を与えるのは、他の奴らの仕事だった。
彼女達の今の仕事は、限りなく黒のルースを殺すこと。
空気が、揺れる。
動き出したのは三人同時。
素早いのは女だった。
掠るだけで何とか避けたルースだが、すぐに男の魔力がやってくる。
広い刃のような形になって、まるでそれがギロチンのように見えた。
作りかけの壁に簡単に突き刺さり、しかし刃物などなかったようにいつの間にか消えた。
ルースは離れた場所に飛ぶが、すぐに女が襲いかかる。
頭を後ろに下げて避けるが、ナイフの光は線を幾つも引く。
足で手を蹴りあげて女を離し、片手に魔力を籠めて投げた。
灰のくすんだ玉は男を目掛けて飛んでいき、同じく魔力を籠めた玉で爆発が起こる。
攻められては逃げ、攻められては逃げ。
短くも長くもない時ではあったが、次第にルースは追い詰められていった。
少しずつ傷口が増え、今では血が垂れ流されている。動きも鈍って、逃げられない。
「終わりです」
目の前に近付く力。
ナイフに籠められた強い力に嫌が応にもぞくぞくと何かの痛みを感じる。
そして、終わりという時間の力を知った。
二つの方に力を貸せば、二つの方から挟まれる。
やがてそれが交わって刃を溢すことを願い、眺めていただけの紙は切れてしまう。
それがはさみと言うものだ。