世界は光でできている
ノート
―かおり―
神の管理する、天上において一番巨大で畏れある宮殿。
その一室。
真っ白な部屋にブラインドの掛かった窓が幾つか、本棚も幾つか。その真ん中に事務机と書類の山。
そして二人の女が立っていた。
「カイル・イレイザーを殺したのは事故だった。そう思いなさい。貴女は彼に協力した訳でもなく、ただ犯人を殺そうとしただけです」
紫髪の女エデンは、向かい合った女に静かにそう言った。
エデンの外見は女と同じ年のようだが、その言動は大分年上のように見える。女を呼び出したのも彼女だ。
女はパーマのかかった肩より短い髪をして、最近の女といった感じではあるが、表情は気楽と真逆、深刻そうであった。
「休暇は取っておきましたから、ゆっくり休みなさい」
その手元には休暇についての書類がある。その名前は確かに女、ミューリ・フレイアであったが、筆跡はエデンのものであった。
「……そんな事……」
言い淀む。
当然の事だ。
先に名前の上がっているカイル・イレイザーを殺して、また時は浅いのだから。
確かに血は落とした。
しかし今もあのニオイが香るように思えた。
血のニオイ。カイルのニオイ。
そんなミューリを見て、エデンはばさりと書類を机に落とす。
「貴女が悪くないとは言いませんが、悪かったとも言えません。カイルは機密事項であったとは言え、誤解を生む言動に、それを早く修正しなかった。忠誠心が有る事も良い事です。しかし貴女の決め付けも早過ぎるし、判断力不足。結果、無実の有能な一人を殺してしまった。罪を感じるのも良いでしょう」
エデンの目はきりりとミューリを見つめる。睨むようにも思える真剣な眼差し。
ミューリはそれに応えたのか、視線を外せないのか。エデンを見つめた。
……しかし、この香りが残り続ける限りは。
その為先に視線を外したのはエデンだった。
「ただ、このまま動かなくなるのは、貴女にとっても彼にとっても良くない事。それだけは言える」
「休暇を取った所で。処分は、ないの」
「処分してほしいんですか」
否。
自分に甘いのかもしれないが、処分がないのは正直ほっとした。
それでも何か、せねばならないような。
今の神はカイルを有する神ではないとは言え、誤解だけで殺してしまったのだから。
「地上では当たり前の事ですし、温い仕事をしてる天仕には殺す、殺されるはそれで一大事でしょう。しかし実際私達の仕事ではヘマをすれば殺される。相手側に簡単に殺される」
「……」
「重要なのは、罪を感じる事。そしてそれでも前に進むことです。動かない者など、必要ないのですから」
罪ならば十分に感じてる。
この香りは、いつまでも消えないように思えるのだから。
「わかったなら行きなさい」
それでも、この道を生くのは正しいのか、わからない。