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世界は夢でできている

 時間というものは、もしかすると制御できるものなのかもしれません。
 というのも、一部の存在は時力を使い、魔力を使うよりも強力な魔法を行使することができます。何でもない人間でさえも、自らの心臓に刃を突き立て、肉体から時力を大量に放出させて肉体を腐らせることができます。そうして魂と肉体を切り離し、やがて魂も時の流れに還ることもできます。

 ……でも。
 制御ができるだけで、絶対量を増やしたり、セカイから消滅させることはできないのです。
 時はいつでも流れています。
 流れているのです。

 だから、私はもう一度生まれるのです。

「おはよう、始まり。そして私(リーン)」



46.制御



 金色の三つ編みが左右に一本ずつ。それから前髪が目に隠れて見えない、けれども私からは視えている。そんな姿が、今の私なのです。
 精神であり、現在である私。
 前の私が魂を時の流れへ導く際に、どうやら余計なお節介をしてしまい、ちょっとだけ変化してしまったようです。
 絶対量は変わらない。けれど、配合が変われば物質としては変わります。
 例えば同じ場所から時力を汲み取られ、生まれたモノが、悪魔と天仕という別の存在になったように。あるいは悪魔と神になったように。この変化はそれだけのことなのです。
 特に、現在は流れ行く、歩み続けるものですから。
 だから何も心配することはありません。そもそも私はただ時を行く人達と共に歩み、眺めているだけですから、心配なんて必要ないのです。

「ただ、ずうっと見守っていますからネ」

 時の中間者達であるあなた達を。
 そう、あなたを。



「――ああ、今、寒気が」

 執務室でうず高く積まれた書類に挟まれ、一つの影がぶるりと震えた。
 ついこの間も(と言っても天仕の感覚であるこの間なのだが)風邪を引いたので、体調管理にはそれなりに気を使っている。ある程度無茶をしているとはいえ、流石にこの短いスパンで風邪ではないだろう。と、エデンは思った。
 人間界より上層、天界にある神の住まう宮殿。そこで働く天仕の中でも管理職にあたる地位にいるエデンには、今日も大量の仕事が舞い込む。
 終わったことの処理と、始まったことへの準備だ。
 先日、ルカ・シンフォニアという悪魔がその存在を消滅させた。おそらくは今頃、彼女の時力は時の流れに還っているのだろう。
 例えもう一度悪魔が生まれる可能性があろうとも、それを止めることはエデンにだって出来はしない。
 彼女は一見時力を行使して、制御している風を装って、本当はいつも時の流れに巻き込まれている。別にそうしたいわけじゃない。過去に慕っていたモノがセカイの終わりであろうとも、それこそ終わった話だ。ルカの物語のように。
 それなのに、いつだって時の流れはいつだってエデンを巻き込む。この世界でも殆どの者が知らない時力を行使している内に、生きるために上り詰める内に、それを探求する者と出会ってしまった。

「今回の寒気は誰のせいかしら。これ以上余計なことが起きないと良いのだけど」

 いや。本当はエデンだけではないのだ。エデンは知っているからこそ、意識してしまうだけで。
 時間など、誰もが触れているもので、誰にも流れているもので、誰もが巻き込まれている力なのだから。

「余計なこと……か」

 自分で呟いて、自身に問う。
 余計なこととは何だろう。余計でないこととは何だろう。
 かつて本当の神が管理していた世界では、正しいものがはっきりしていた。だが今のエデンには正しさを測れるものは自分しかいない。
 今ここにいる神は、結局時力が多いだけの世界の管理者に過ぎないのだ。
 時力に次いで彼を制御しようなどとは思わないが、自分を彼に導いてもらうことはできないだろう。精々、居場所を確保する術となってもらうだけだ。

「もしかしたら、私こそが余計な事をしているのかもしれません。私こそが、余計なモノなのかもしれません」

 そう。今語っていたことが、根本から勘違いであったかのように。
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