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世界は光でできている

『本日午前3時頃、○○州××……にて事故が発生しました。工事中のビルが倒壊、通行人一名が下敷きになった模様です――』




        下敷き
      ―したじき―




 地上のある国のテレビ。
 綺麗な女性がぴっと背筋を伸ばして伝えるニュース。
 それは、紛れもなくこの紫髪の女達が起こした物であった。
 側にいた情けない印象を受ける男は、リモコンで電源を消して彼女に振り向く。
「成功、しましたね」
 男の灰色の制服は、模様も判らぬほどに真っ赤な染みがぴしゃぴしゃと描かれている。
 端は乾いて黒く変色してしまった。
 そう、それは血だ。
「生きてる年数が違いますから。ひよっ子通り越してピヨッ子なんかの好きにはさせません」
 対して素晴らしいほどの笑顔で言った女の服には、一滴の血もない。
 女の名前はエデン。
 男の名前はカイル・イレイザー。
 二人の現在の職業は、地上を見守る神に仕える『天仕』である。
 その為、地上で人間を殺すならば上手く工作しなければならないのだ。
 勝手に辻褄合わせをしてくれれば楽なのに、と思いながら、エデンは少しだけ遠くを見た。
「でも凄いですよ、エデンさん。僕と力量が違い過ぎます」
「言ったでしょう。生きている年数が違うんですもの」
 カイルの記憶にある、先程のエデンの戦いっぷり。
 自分は評価されている方だとは思うが、謙遜など抜きにしてそれを考えても、やはりエデンには勝てないのだろうと思った。
「そういえばオバサンって言ったら怒るのに、それは平気で言いますよね」
 へらりと笑うカイルだったが、『オバサン』の一言にエデンは黒い何かを纏わせた。
「カイルクン?」
 ぞわっと沸き出るように。
 魔力や彼女の力とはまた違う、なんと言うか、黒い威圧感のあるオーラである。
「え、エデンさん、落ち着いて下さいっ」
「あらあら。私は何時だって落ち着いてますよ」
「ぼ、僕が悪かったです。僕が悪かったですから」
「私はもう大人ですし、そんな一言じゃ決して。決して怒らなくなったんですよ?」
 片手に持っていたグラスがぱりんと破裂する。
「わーん!」
 カイルには諌め方がわからない。
 以前エデンが言い合いをしていたという仲間がいたそうだが、一体どれほどの人間だったのかわからない。……わかりたいとも思わないが。
「まあ冗談はさておき、その服替えてらっしゃいな。返り血で酷い状態ですよ」
「……わかりましたー」
 しゅんとしながら替えの制服を出し、風呂場へと向かうカイル。
 それを見送ってから、当然風呂上がりのカイルなど見たい訳でもないエデンは立ち上がった。
「さて。暇な訳でもあるまいし、さっさと殺しに行く計画を立てなくては……


――神を、ね」




「ああ!すいません、ボディソープそっちに忘れたんですけど、取ってくれませんか?エデンさん?……エデンさーん!」













『下敷きになった遺体の身元が判明しました。ルース・シャーレさん26歳、サラリーマンの方で……』
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