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盤外編



+世界を構築するもの-Contrasto-+



 紫の光る糸が揺れる。
 こんな事をしている暇はない。寝なければ、時間がない。
 それでも青冷めた顔で、体全てを委せるように手摺に寄り掛かる女。
 乗せた紅もすっかり取れかかっていた。先程二仕事ばかり終えてきたのだから。首もとの赤い線やそれ以上に服の裾がぐずぐずと同じ色で汚れているのも証だ。

『――使えそうだな、お前』

 全く知らない世界。でも彼女の知る世界に良く似た世界に漂流した時。
 神になる予定の男に拾われて、用意してもらったのは汚い仕事を受ける席だった。彼は、その席はいつでも切れる席だと言っていた。
 それもそうだ。突然現れた不審な女を重要な機関に勤めさせる事自体無茶苦茶だ。その無茶な席に彼女は座っているのだから、当たり前である。
 前の世界で読んだ本には、異世界に行ってトンでもない力を発揮して、人生トントン拍子な物語があった。彼女もまた同じようなものかもしれない。少し、泥と血生臭いけれど。

「……あと一時間くらい……か」

 次の任務まで。今日は二時間の休息が与えられたのだから、良い方だ。
 今日と明日の任務が終われば、もう少しだけ良い席が用意されるらしい。淡い水色の柔らかい髪を思い出す。

『お前の仕事は認められているようだな。以前は異議が多かったが、今なら表立った位置にも席を用意できそうだ。無論、ずっと下からだがな』

『あら、これ以上下があったんですか?驚きですね』

『……全く、いけ好かない女だな、エデン』

『あらあら。そのいけ好かない女を置いているのは誰かしら。手を払えば私はいつでもセカイに流されますけど?』

 前の世界……エデンの前の主人と、少しだけ重なる今の主人。前の主人は水色の髪でもなければ、男でもなかったけれど。

「……少し、風に当たりすぎたかしら」

 誰が何と言った訳でもない。体がふるりとした訳でもない。
 風は涼しく儚く、エデンは寂しいまま、何も変わっていない。ただ呟いただけ。
 ただ、呟いただけ……。
 部屋に戻り、どうせそれより早く起きるのに、目覚まし時計をセットする。ふかふかのベッドなんてない。ソファーと毛布で、テーブルには明日使う書類を、ソファーの背には上衣や帽子なんかを掛けて横になった。
 あと一時間と言うたっぷりの睡眠を取るために。
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