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世界は夢でできている

 舌なめずりをして、私はときめく心臓の音と共に歩き出す。
 ああ、この時を待っていたのだ。
 私達悪魔には何もない。ならば、遮るものも止めるものもまた、私達の中には無い。
 ああ、きっとこれも一時の興奮で、何にもなりはしないのだけど。
 今は少しだけ口許を歪める。



36.愉快



 本来は子供が遊ぶべき公園は寂れているからか、誰もおらず錆び付いた遊具ばかりが風に揺れている。その周囲を囲った木々の一つから、私はぷらぷらと足を揺らして地上を見下ろしていた。
 気を抜いてしまえば落として壊れそうな程、ぷらんと指先でつまんだ携帯。これが今回の作戦では随分と役に立ってくれた。

『今大丈夫?お話があります』

 そう私とそっくりの地上にいた天仕にメールを送ると、文面から滲み出る気の沈み様を受け取る。それから地上ではやけに目立つ緑髪の天仕にも送り付ける。
 勿論、名前を偽って。
 その辺の事は流石、私にばかり仕事をさせるブラッドだ。まあ、悪魔的な事もそうでない事も色々やって下準備をしてくれた。

『会って話したい事があります。十時に△×公園に来てもらえますか』

 ぽちっとな。送信ボタンを押せば、数秒の内に魔法のようにメッセージが届く。やっぱり狡いよなぁ、人間は。
 緑髪の天仕ルリエラの方も上手く引っ掛かってくれたようで、すぐにビックリマークの付いた了承の返事が来た。先に出した天仕のミューリとはテンションが大違いだ。

 こうして、ターゲットを呼び出してから暇を潰し。公園に時計がないので自前の携帯で時間を確認して、現在十時。……正確には十時前に、彼女はやって来た。
 あたしよりは淡い髪色の、でも外見の違いは殆どそれだけの、天仕ミューリ。
 気配を消し、姿も出来るだけ魔力で景色に馴染ませたあたしは、ミューリがルリエラをきょろきょろと探す様子を眺めてる。まだルリエラが来ていないのを確認して、少しほっとしているようだ。
 一方のルリエラも十時になる前に公園に到着した。あの緑髪がやって来れば、遠く入り口に向かう所でも見付けられる。

「ミューリ? 遅くなってごめんね」

「ううん。まだ十時じゃないもん。謝る必要はないわ」

 始めは、ぎこちないものの待ち合わせをした友人同士の普通の会話だった。
 ――けれど、話は段々と本題へ移っていき、

「カイル・イレイザーと会ってたじゃん。死んだはずのカイル・イレイザーと。死んだって処理されたのに生きてたら、宮殿に報告義務があるよね?」

徐々に険悪になっていく。
 責めるような、迫るようなミューリ・フレイアの言葉。ああ、ああ。これじゃああの時と一緒じゃないの?
 カイル・イレイザーを殺した時と。
 私達が、天界を揺るがすためにルース・シャーレを利用して犯人を誤認してしまった時と……!
 ……でも、それで良い。私達にはこの、対象が罠に掛かって惨めに天界のものを壊してしまうのが堪らない快感。

 ……あれ。でも、それって。

 いや、無駄な事を考えるのはやめよう。あの金髪の女が頭を過るなんて、こんな良い時に縁起でもない。
 そんな事よりとうとうミューリは言ってしまった。

「カイル・イレイザーが死んだの、あたしの所為なの。あたしが殺したのよ」

 信用していた親友の、仲間を手に掛けたと言う裏切りの発言。ルリエラは大きく目を見開いて口許に手を当てる。震えながら、嘘……。と呟く。
 それを願ったのは目の前の女だよ。
 続けて夢……?とも呟く。
 あんた達にはこの世界があるでしょうが。その世界くらい、私達に譲りなさいよ。
 つい睨み付けてしまった相手に、私は更に魔力を注いだ。勿論、悪意を込めて。

「どうして……どうして……?みゅ、ミューリの事だから、何かあったんだよね?」

「そんな事言っておきながら魔力がだだ漏れてるわよ」

「そんな、わ、私、ミューリに危害を加えようなんて思ってないよ!?」

 くいっと右手を軽く捻る。注いだ魔力を操作するのにイメージしやすくする為だ。それは、ルリエラが否定しようと開き、伸ばした手から、魔力を放出させると言う操作。

「きゃあっ!!」

「っ!る、ルリエラ……あんた、」

「み、ミューリ……?」

 さあ、もっともっと、ワクワクしてくる。
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