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世界は夢でできている

 珍しく上機嫌な私達はカチンとグラスを当てて、お互いの飲み物を揺らす。
 トマトジュースとリンゴジュース。液体の色も違えば野菜と果実。けれど類似点がないかと言えばそうでもなく、元は赤い二つの食べ物である。
 私達って実際、そんな関係なのかもしれない。



34.乾杯



「順調順調って感じやな」

 私達が敵対視している天仕の一人、ミューリ・フレイヤ。彼女を嫉妬に燃える醜い女に。そしてその友人でありもう一人の天仕ルリエラ・ピアニッシモ。彼女を秘密を知ってしまった審判者に。
 二人に繋がる本当の秘密だらけのカイル・イレイザーを使って、仕立てあげるのだ。
 最後に死んでしまうのは誰だって良い。
 だって私達は悪魔で彼女達は天仕だから。
 事はトントン拍子に進んでいて、成功は目前。こうして乾杯して祝っていると言う訳だ。

「しっかり仕事をしている時のリンゴジュースは格別やで」

「こう簡単に上手く行くと、いつか痛いしっぺ返し喰らうかもしれねぇなァ?」

「……それは何十年も前に、とっくに食らっとるわ」

 テーブルに肘をつけ、手の皿にむすっと顔を乗せる。
 一人の天仕を差し向けて神の殺害に失敗したのは、私達にとってはついこの間の事のよう。今の数分だって、私達には短い時間だから。
 確かに消費しているのに、無駄に時間ばかりはあるからこうして拗ねたふりをしたり、成功を前に笑ってみせる。
 それが当たり前で、何でもない事だった。

「……でもまあ、最後まで気を抜くなって言うのは正しいかもしれんなぁ」

 機嫌が良いからかな。何でか頭の隅は冷静にそう思う。

「珍しいなァ?ルカ・エスが文句一つ言わずに俺に素直に同意するなんてよォ」

 げらげらと笑って犬歯を見せつけるブラッドは、このリンゴジュースはシードルじゃねぇのか、なんてふざけた事を抜かした。……私もちらっと思った事ではあるけれど、他人に言われるのと自分で思うのはのは違う。相変わらずムカつく悪魔だ。
 悔しくなったのか、私はまたむすっとしながら言う。

「でも少ない事ではないやろ?」

「……だな」

 頻度としては珍しくても同じ巣に生まれて今までの時を数えれば、回数としては決して少なくない。そんな悔し紛れのどうでも良い言葉。なのにブラッドはふっと下品な笑いを止めてトマトジュースをくいっと煽った。

「お前が生まれ落ちてから、一体どんぐらい経ったんだろうな」

「……そら、永すぎて覚えとらんわ」

 正確な時間なんて覚えていない。数えてもいない。……ただ、生まれ落ちてから今まで、ブラッドと過ごした記憶は忘れてもいない。
 ゆっくりと考えれば導き出せるのかもしれないが、それこそ無駄な程に時間が掛かるだろう。
 私がいつもの調子で一言だけを返せば、ブラッドはじっとこちらを見ていた。
 茶色い瞳に私が映っている。地獄の中では何をしているのかわかるものだけど、見えるものではない。何だかこの空気感が妙に居心地が悪かった。

「……そうか。そりゃそうだ、ルカ・エスの軽い頭じゃ覚えてられねェよなァ?」

「本当に、さっきからあんたはシリアスに入りたいんか、ギャグでめっためたにされたいんか、はっきりせぇよ!?」

「あー、ジュース零れんぞォ」

「うわっ、危な!って、あんたの所為やでブラッド!」
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