世界は夢でできている
31.眉間
眉間に寄せる皺。ナイフや銃弾でないだけまだ良いが、それでもルカはモヤモヤと腹立たしさに苛まれていた。
持っているとは何だ、結局あの女は何だったのだ。
何も分からないまま時間だけが切り取られたように失われた。
それで八つ当たりされる身となったブラッドは堪ったものではない。ブラッドにしてみればその経緯すら知らないのだ。
話しかければ「何や」と冷たい一言だけ。上から指令がやって来てもさっと確認してとっとと一人で行ってしまう。夜は自棄リンゴジュース。そして常に刻まれている眉間の皺。
今までも不機嫌になる事は多々あったが、そうなってそろそろ三日目に突入するので、ブラッドも流石に理由を聞き出す事にした。
「……なァ、ルカ」
「何や」
やはりシュッと削られた氷が投げられるような返事。
「何があったんだ?」
「何が“あった”……?こっちが聞きたいわ!何があったのかも何と会ったのかも何が在ったのかも、全っ然わからん!」
「はァ?」
全部がほぼ一緒だ。音としては。
だがルカとしてはそれら全部が本当にわからない。あの時の出来事は何であったのかも、あの女は何だったのかも、ルカには既にあると言う何かも。
生憎と悪魔はテレパシーなど使えないので、この苛立ちも伝えるには一つ一つ言葉にして説明しなければならない。
まあ、この空間に棲んでいるのはブラッドとルカの二人だけだ。そして道を別つ事もまだ想像し得ない相棒にはどこかの地点で伝えねばならないだろう。それが今だった。
「……持っとるって言われた。悪魔の私が、突然現れた知りもせん金髪女に」
ブラッドはぴくりとその言葉に反応して、改めてルカの方を真っ直ぐ見つめる。否、この空間では見えてはいないのだが、感覚と雰囲気の問題なのだろう。それだけ悪魔の二人には重要な言葉だった。それがブラッドに伝わったのだ。
「突然現れたァ……?お前が後ろを取られたのか。天仕か?」
問題点その一に、ルカは首を振る。
「言うたやろ、知りもせん金髪女や。本人曰く、天仕でもなければ私達と同じ悪魔でもないんやと」
「しかも、ルカが持っているって、どういう事だ?」
「だからそれをさっきから私が悩んで苛ついとるやん!それに私だけじゃなく他の悪魔も持っとるようなニュアンスやったで」
問題点その二に、ブラッドの眉間にまで皺が寄せられていく。これが地上の光在る場所であればシュールな光景でもあった。
しかし真っ赤で真っ暗で何もないはずのここでは、そんな二人の姿を笑えるものもいない。
悪魔の存在意義は、否、意義があると言えば少々語弊もあるがそのようなものは、何も無いからこそ。自分達には何も無いからこそ、世界も同じにしたって良いではないかと言う衝動。
それが見知らぬ女の言う通り持っているとすれば、自分達は一体。ルカが彼女に苛立ち否定するのは当然であった、のだが。
「持っている、か」
「訳あり顔で呟くなんて、何か思い当たる事でもあるん?」
勿論ルカには見えていない。何となくそんな表情をしたと察知しただけで、ブラッドの頭の中も見えやしない。重ねて言うが悪魔にテレパシーはないのだから、言葉にしてもらわないとわからないのだ。まるで、人間みたいに。
「……いや。ちょっと調べてみるかと思っただけだ」
「おっ。結果がわかったら私にも教えてや」
そう言って自棄リンゴジュースを止めた……空になってしまったので終わったという方が正しいが、ルカはひょいっとペットボトルをごみ箱に投げる。そして幾分かすっきりした顔でベッドに飛び込んだ。
「あー。ブラッドに当たり散らしたら少し気が楽になったわぁ」
「お前なァ……」
眉間に寄せる皺。ナイフや銃弾でないだけまだ良いが、それでもルカはモヤモヤと腹立たしさに苛まれていた。
持っているとは何だ、結局あの女は何だったのだ。
何も分からないまま時間だけが切り取られたように失われた。
それで八つ当たりされる身となったブラッドは堪ったものではない。ブラッドにしてみればその経緯すら知らないのだ。
話しかければ「何や」と冷たい一言だけ。上から指令がやって来てもさっと確認してとっとと一人で行ってしまう。夜は自棄リンゴジュース。そして常に刻まれている眉間の皺。
今までも不機嫌になる事は多々あったが、そうなってそろそろ三日目に突入するので、ブラッドも流石に理由を聞き出す事にした。
「……なァ、ルカ」
「何や」
やはりシュッと削られた氷が投げられるような返事。
「何があったんだ?」
「何が“あった”……?こっちが聞きたいわ!何があったのかも何と会ったのかも何が在ったのかも、全っ然わからん!」
「はァ?」
全部がほぼ一緒だ。音としては。
だがルカとしてはそれら全部が本当にわからない。あの時の出来事は何であったのかも、あの女は何だったのかも、ルカには既にあると言う何かも。
生憎と悪魔はテレパシーなど使えないので、この苛立ちも伝えるには一つ一つ言葉にして説明しなければならない。
まあ、この空間に棲んでいるのはブラッドとルカの二人だけだ。そして道を別つ事もまだ想像し得ない相棒にはどこかの地点で伝えねばならないだろう。それが今だった。
「……持っとるって言われた。悪魔の私が、突然現れた知りもせん金髪女に」
ブラッドはぴくりとその言葉に反応して、改めてルカの方を真っ直ぐ見つめる。否、この空間では見えてはいないのだが、感覚と雰囲気の問題なのだろう。それだけ悪魔の二人には重要な言葉だった。それがブラッドに伝わったのだ。
「突然現れたァ……?お前が後ろを取られたのか。天仕か?」
問題点その一に、ルカは首を振る。
「言うたやろ、知りもせん金髪女や。本人曰く、天仕でもなければ私達と同じ悪魔でもないんやと」
「しかも、ルカが持っているって、どういう事だ?」
「だからそれをさっきから私が悩んで苛ついとるやん!それに私だけじゃなく他の悪魔も持っとるようなニュアンスやったで」
問題点その二に、ブラッドの眉間にまで皺が寄せられていく。これが地上の光在る場所であればシュールな光景でもあった。
しかし真っ赤で真っ暗で何もないはずのここでは、そんな二人の姿を笑えるものもいない。
悪魔の存在意義は、否、意義があると言えば少々語弊もあるがそのようなものは、何も無いからこそ。自分達には何も無いからこそ、世界も同じにしたって良いではないかと言う衝動。
それが見知らぬ女の言う通り持っているとすれば、自分達は一体。ルカが彼女に苛立ち否定するのは当然であった、のだが。
「持っている、か」
「訳あり顔で呟くなんて、何か思い当たる事でもあるん?」
勿論ルカには見えていない。何となくそんな表情をしたと察知しただけで、ブラッドの頭の中も見えやしない。重ねて言うが悪魔にテレパシーはないのだから、言葉にしてもらわないとわからないのだ。まるで、人間みたいに。
「……いや。ちょっと調べてみるかと思っただけだ」
「おっ。結果がわかったら私にも教えてや」
そう言って自棄リンゴジュースを止めた……空になってしまったので終わったという方が正しいが、ルカはひょいっとペットボトルをごみ箱に投げる。そして幾分かすっきりした顔でベッドに飛び込んだ。
「あー。ブラッドに当たり散らしたら少し気が楽になったわぁ」
「お前なァ……」