世界は夢でできている
「……暑い」
その日、ルカは公園にいた。
「……暑すぎる」
わいわいと少数の子供達がはしゃぐ横で、木の陰にあるベンチに横たわっていた。
しなった赤髪の下からつうっと汗が垂れてきて、公共のベンチに染みを作る。尤もすぐに乾くだろう。
この、34℃という夏真っ盛りの暑さなら。
15.真夏
「うがああああ!何で私がこないな外で待たなあかんねん!」
獣のようなルカの叫びに、周りにいた子供が反応してきゃー!と逃げ回る。そんな小さな存在など気にする必要はないが、睨んでやろうかとルカは少しだけ思った。それだけ気が立っていた。
別に、感じない振りも出来る。
何せ悪魔だ。体の耐久力は人間の比ではない。魔法を使えば涼しくだって出来る。
まあ、子供とは言え沢山の人目。奥の方には普通の大人もいる。こんな馬鹿らしい理由で天使に見つかれば恥ずかしい事この上ないが。
そうなると耐久力だのくそだの言っても暑いものは暑いので、結局こうなるのだった。
「……はあ。叫ぶ気力も勿体無いわ……」
怒りを放出した後にむわっとした空気に襲われると、途端にそう思わされる。ルカは溜め息を吐いてまた倒れるようにベンチに横たわった。
そこに、ヒヤリとしたアルミ缶がぴとり。
「ひうっ?!」
「やべー!面白ェ!何だその叫び声!」
げらげらとルカを見下ろして笑うのは毎度お馴染み、悪魔のブラッドであった。ルカを叫ばせた犯人だと隠す様子もなく、両手に缶ジュースを持っている。
今度こそ、本当にギッと睨み付ける。勿論子供相手ではなくこのふざけた悪魔にだった。
一体誰の所為でこんな思いをしているのか。無論、このブラッドの所為である。
「遅刻した人間がようこんな真似できるなぁ?」
「俺人間じゃねェし」
「屁理屈こき!」
「それに悪いと思ってるから冷やしてやったんじゃねェか。ほらよ」
「っ、と」
放られた缶を反射的に受け取る。
述べるまでもなく、それはいつもの。
これ以上押し問答しても仕方のない事だと、ルカも本当はわかっていたので、軽く睨みを残すだけで、自販機で冷やされた缶をぷしゅっと開ける。
喉をきゅうっと通る冷たい、甘い、爽やかで芳醇な香り。
安いものだが、それだけで怒りが少しだけ収まってしまったのは言うまでもない。
「……それで?何やの。今日は」
話があるなら自分達の住む地獄の空間で構わない。明るい外が良いと言うなら喫茶店で構わない。わざわざ公園を指定しているからには理由があるのだろう。
(これほど暑い思いさせたんやから!)
……やはり、ルカの怒りは根っこのほうに残っているようだ。
ブラッドはルカに渡さなかった方の缶をぐいっと飲むとゴミ箱に投げ入れる。
ゴミ箱があるのは三台適当に停められた自転車の横。公園の入り口からすぐの場所。勿論二人の立つ位置からはそれなりに遠い。だと言うのに真っ黒な缶がすこんとゴミの中に寝そべった。そこらの自販機にトマトジュースの缶など売っているはずもなく、ブラッドは珈琲を選んだらしい。
「わっ」
けれどそれを気にするのはルカくらいだ。公園に入ってきた人物は、飲み物の種類よりも、向こう側から投げ入れられた缶が自分のすぐそばのゴミ箱に綺麗に投げ入れられた事に驚く。
そして、目が此方に向いた。
やたらと目立つその緑の目と髪に、ルカは目を見張る。まあ目立ち具合で言えばルカの服装も負けてはいないが。
「あれは……」
ルカが小さく呟いた言葉は掻き消され、いつぞやも聞いたような言葉が響く。今度は男ではなく、女の声で。
「……ミューリ……?」
その日、ルカは公園にいた。
「……暑すぎる」
わいわいと少数の子供達がはしゃぐ横で、木の陰にあるベンチに横たわっていた。
しなった赤髪の下からつうっと汗が垂れてきて、公共のベンチに染みを作る。尤もすぐに乾くだろう。
この、34℃という夏真っ盛りの暑さなら。
15.真夏
「うがああああ!何で私がこないな外で待たなあかんねん!」
獣のようなルカの叫びに、周りにいた子供が反応してきゃー!と逃げ回る。そんな小さな存在など気にする必要はないが、睨んでやろうかとルカは少しだけ思った。それだけ気が立っていた。
別に、感じない振りも出来る。
何せ悪魔だ。体の耐久力は人間の比ではない。魔法を使えば涼しくだって出来る。
まあ、子供とは言え沢山の人目。奥の方には普通の大人もいる。こんな馬鹿らしい理由で天使に見つかれば恥ずかしい事この上ないが。
そうなると耐久力だのくそだの言っても暑いものは暑いので、結局こうなるのだった。
「……はあ。叫ぶ気力も勿体無いわ……」
怒りを放出した後にむわっとした空気に襲われると、途端にそう思わされる。ルカは溜め息を吐いてまた倒れるようにベンチに横たわった。
そこに、ヒヤリとしたアルミ缶がぴとり。
「ひうっ?!」
「やべー!面白ェ!何だその叫び声!」
げらげらとルカを見下ろして笑うのは毎度お馴染み、悪魔のブラッドであった。ルカを叫ばせた犯人だと隠す様子もなく、両手に缶ジュースを持っている。
今度こそ、本当にギッと睨み付ける。勿論子供相手ではなくこのふざけた悪魔にだった。
一体誰の所為でこんな思いをしているのか。無論、このブラッドの所為である。
「遅刻した人間がようこんな真似できるなぁ?」
「俺人間じゃねェし」
「屁理屈こき!」
「それに悪いと思ってるから冷やしてやったんじゃねェか。ほらよ」
「っ、と」
放られた缶を反射的に受け取る。
述べるまでもなく、それはいつもの。
これ以上押し問答しても仕方のない事だと、ルカも本当はわかっていたので、軽く睨みを残すだけで、自販機で冷やされた缶をぷしゅっと開ける。
喉をきゅうっと通る冷たい、甘い、爽やかで芳醇な香り。
安いものだが、それだけで怒りが少しだけ収まってしまったのは言うまでもない。
「……それで?何やの。今日は」
話があるなら自分達の住む地獄の空間で構わない。明るい外が良いと言うなら喫茶店で構わない。わざわざ公園を指定しているからには理由があるのだろう。
(これほど暑い思いさせたんやから!)
……やはり、ルカの怒りは根っこのほうに残っているようだ。
ブラッドはルカに渡さなかった方の缶をぐいっと飲むとゴミ箱に投げ入れる。
ゴミ箱があるのは三台適当に停められた自転車の横。公園の入り口からすぐの場所。勿論二人の立つ位置からはそれなりに遠い。だと言うのに真っ黒な缶がすこんとゴミの中に寝そべった。そこらの自販機にトマトジュースの缶など売っているはずもなく、ブラッドは珈琲を選んだらしい。
「わっ」
けれどそれを気にするのはルカくらいだ。公園に入ってきた人物は、飲み物の種類よりも、向こう側から投げ入れられた缶が自分のすぐそばのゴミ箱に綺麗に投げ入れられた事に驚く。
そして、目が此方に向いた。
やたらと目立つその緑の目と髪に、ルカは目を見張る。まあ目立ち具合で言えばルカの服装も負けてはいないが。
「あれは……」
ルカが小さく呟いた言葉は掻き消され、いつぞやも聞いたような言葉が響く。今度は男ではなく、女の声で。
「……ミューリ……?」