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世界は夢でできている

14.夢中



 私はそこに溶けている。全てと一緒に流れていて、どこが私なのだかもわからないのに、確かに自分という意識を悟った。
 だって、そこは青だった。澱んだ青、澄んだ青、淡い青、不透明な青。様々な青がうねり、混ざり合い重なり合い、その全てが巡っている。
 まるで海だ。否、ここは時の海だ。
 それを目なんか無いのに感じている。耳なんか無いのに、ごううと濁流のようなものを聞いた気がした。
 伸ばす手なんかない。ばたつかせる足なんかない。体がない私はただ、ゆらゆらと揺られていた。

(――、あ)

 ふ。とした弾み。私である部分が途方もない水溶液の中から掬い取られ、その水滴一粒はそこからぽとりと弾き出された。
 上も下もないはずのそこで、外から内へと。
 私はこの世界へと落とされた。

 その刹那、視界を白一色に染める強い光と、そこで笑う金色を見た気がした。
 人間の言う天使ですらない。ただの、純粋無垢な少女の微笑み。



「よいしょっ、と」

 ベッドから体を起こす。
 何度も擦ったり瞬きせずとも、目は開いた瞬間に覚めていた。
 何からと言えば、夢から覚めたと答えたいところなのだけど残念。これはただの過去の記憶だ。
 この世界に生まれた瞬間の記憶。

「おばさん臭ェ掛け声だなァ?」

「起きた傍からうっさいなぁ、放っといてや」

 確かな視界に広がるのは地下の真っ赤で真っ暗なこの空間。あの青なんてもう微塵もなかった。

「……良い夢、見れたかァ?」

「残念ながら自分の世界やのうて、生まれた時の映像見ただけやわ」

 ブラッドらしい悪い冗談だ。そんなもの、見られないって知ってる癖に。
 現実に覚めれば無いのだから、この世界にいる事は変わらないけれど。この世界で、一人で生まれたならば唯一の有、自分の世界。夢。だから私達は夢を望む。

 そう、私達の生きている世界は無だ。

 他の世界があるならばわからないけれど、少なくともこの世界ではおそらく、私達悪魔が生について真理を持っている。
 灯りは地下に眠るエネルギーの赤が漏れ出したものだけ。あとは真っ暗な空間。私達はその空間にある物も認識できるので、生活に支障はないが。
 地獄にはこうした空間が幾つもある。
 いつの間にかここに生まれ落ちて、一人で過ごし、あるいは何人かと空間を共有する内に自然とわかって来るのだ。 
 私達は悪魔だと。世界とは私達を置いて進むものだと。それだけだと。

 理解した時に暗闇から浮上して地上に出る。そして全てを闇に包もうとしているのだ。
 何故?どうして?
 私達に理由がないのに、世界が死ぬ事に理由が必要だろうか。
 やがて同類がいる事を知り、強いモノの下につき、ついたモノの上、さらにその上から命令される。目的は一緒だし、自分達より強いモノだもの、断れる理由がない。それが仲間と言うものであるかどうかは置いておいて。

「さて、すっきり起きたし今日はお仕事頑張るで!」

「……くくっ。おいルカ・エスぅ、寝惚けてんじゃね?」

「え?」

「今日は何もねェー、買い物いくぞーって散々騒いでたの、どこの悪魔だったっけなァ」

「……あっ。う、煩い!ほんま嫌な奴やな」


 夢の中に居たい。
 それが、私達が悪魔的行動に夢中になる動機だ。
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