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世界は夢でできている

 幻覚だって思ってた。
 処理はエデンが任せてと言っていた。
 もしかして、彼女は何かを知っている?
 実はカイルが生きていると知っている?
 思い切り刺したけれど、血塗れになったけど、全く起きる素振りなんてなかったけど、本当は生きていてそれを隠して処理をしたの?

 ……聞けない。聞けるはずもない。
 それが、あたし達の距離だから。



12.距離



 人間界に降り立つと、ふと思い出してしまう。
 ここで、カイルを見かけてしまった事。
 あたしは幼馴染みだった彼を殺した。何故なら彼が一時宮殿を騒がせていた犯人だと思ってしまったからだ。
 彼の関わっていた物事は表に出してはいけないもので、結局あたしはお咎めなし。それまで彼と一緒に動いていたのに、殺人の事後処理をしてくれたエデンの下で着実に働いている。
 ……これからも、そうでなければいけないのだ。
 彼の分まで、とは言えない。殺しておいて何を言ってるんだって思うし。
 そうでなくとも、道がそれしか見当たらないのだ。
 いつか彼と一緒に働く事も、別々の階級になっても隣で寄り添う事も、そうなれなくても馬鹿言い合う事も。もう何も出来ないのだから。
 あたしには仕事しか残らなかった。
 ……ああ、今ならちょっとエデンの気持ちがわかるかも。ひたすらに仕事尽くしのエデンの気持ち。

「……なんて思っても、やっぱり気晴らしは買い物になるのよね」

 仕事が休みの日はこうして可愛い服や化粧品なんかを見て、カフェで軽食。エデンも人間界で買い物くらいはするだろうが、きっともう少し年上の人と同じ様な内容の買い物だろう。
 小振りながら紙袋を二つぶら下げて、あたしは近道しようとその角を曲がった。
 細い路地。まあ、それでも通行人がいる時はいる。
 だからそれがただの二人であったなら、あたしは物陰に身をひそませなかった。
 でもそれが、あのマラカイトグリーンの髪と、幻覚だったはずの男だったら……?

「……った……カイルは……と聞いて……から?でも……には……」

「……いんだ……。それよりルリエラ……」

 遠くて途切れ途切れにしか聞こえない言葉。
 けれど確かに二人はカイルと、ルリエラと言った。

「うん、……も…………るよ?」

「……れなら……。……には…………ね」

 何で。何でルリエラとカイルがいるの。
 それも驚いている様子はない。嬉しそうに、楽しそうに会話している。
 心臓があたしを攻め立てるようにばくばくと胸を叩き付ける。
 呼吸音さえ大きく聞こえて、あたしはそれを抑えるのに必死だった。
 じっと二人の様子を見ていると、その内に話は終わって、二人は手を振り合いながら別れていった。ルリエラがこちらの方に向かってきたけれど、まだ物陰に隠れているあたしに気付かず、通り過ぎては大通りの人並みに消えていった。
 ……きっとさっき飛び出していたら、あたしは二人と話せた。
 でも、出来なかったんだ。

 それが、あたし達の距離だから。
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