世界は夢でできている
09.透明
透明って言うのは誰にも気付かれずに、誰にも伝えられずに、誰もが過ってしまう事だ。
それに、何の意味があるのだろうか。
死んでしまった私が貴方達を見ることで何が変わると言うの。
貴方達に触れもしない。貴方達に見えもしない。居ることさえ感じないのでしょう?
流れた気がしたものはさらさらと風に飲まれてそのまま時の流れに溶けてしまった。
そうだ、私は死んでしまった。殺されてしまった。
そしてただ、漂っているだけになった。透明になった事に気づいた私はどうしたら良いかわからず、取り合えず思い付く場所へと向かった。
移動は歩かなくても良い。飛ぶことすらしなくて良いらしい。すでにふんわりと浮かんでいるのだから、少し体を傾けて目的地へのルートを頭に描けば良かった。
それは真っ逆さま。絵本に描かれるような天国どころか風見鶏にすら足を向ける行為。
貴方は、私への文句を言って、居なくなったことなんかどうでも良いような事を言って、悔しそうな顔をしていた。それで私はこんな気持ちが胸に灯ってしまった。
逃げるようにふわりとすり抜けて漂った先は二人の男女の下。私を殺した男が好きな相手と話し合う姿を見て……怒りは浮かばなかった。私を殺したのは、天仕としての行為だ。それでこの存在が続くのならば、怒るだろうし憎むだろう。けれど実際に出たのは呆れるような軽い溜め息だ。少し笑っているようにも聞こえる音の。
……私の中にただひたすらある感情はもはや怒りでも憎しみでもない。恐怖だった。
私はこれから、無になるのだ。時の流れに一切が溶けて、私なんていなくなる。
今と何ら変わらない。否、今までと何ら変わらないはずなのに。一体いつ有だった時があったと言うのか。
……それなのに、消えてしまうと言うことが酷く怖かった。
これは、私が有ったと言う事?
だとすれば今までの嫉妬は、憎しみは……否。違う。そんなものじゃない。兎も角アレは、なんだったと言うのか。今までの全てが、無駄だったと言うのか。
一体セカイは、何がしたいと言うの……。
『こんにちは、迷い子さん』
突然眩しいくらいの光が溢れた。けれどそれは一瞬で、やはり突然現れた彼女の三つ編みにされた髪の色で勘違いしただけにも思えた。
見覚えもなく、けれどそこに居ることが何故か自然に思える不思議な少女。何より今の私と存在を確認し合えることが不思議なのだ。
『貴女は……?』
『ワタシは始まりでも終わりでもなかったもの。そして、これから消えていく存在』
『貴女は、消えるのが怖くないの?』
『さぁ……どうでしょう』
彼女は私の手を優しく握った。前髪の所為で片側からしか見えない目だが、それも優しく私を受け入れていた。
『……セカイに意味なんてない。ただ時の流れが廻っているだけだから』
彼女はふと、私の考えていた事を見抜いたように呟いた。
『例えば貴女がした事。例えば貴女の辿った軌跡。例えば誰かが貴女にされた事。例えば誰かと貴女が会った事。意味なんてあったかもしれないしなかったかもしれない』
その曖昧な言葉に、私は存在がまだ許されているなら眉をひそめている。
『ただ、在った事。在っただけの事よ』
『……』
『さあ、逝きましょう。時の流れへ』
これが生を行きたと言うことなのだ。死ぬと言うことなのだ。
そして私は、目を瞑った。
透明って言うのは誰にも気付かれずに、誰にも伝えられずに、誰もが過ってしまう事だ。
それに、何の意味があるのだろうか。
死んでしまった私が貴方達を見ることで何が変わると言うの。
貴方達に触れもしない。貴方達に見えもしない。居ることさえ感じないのでしょう?
流れた気がしたものはさらさらと風に飲まれてそのまま時の流れに溶けてしまった。
そうだ、私は死んでしまった。殺されてしまった。
そしてただ、漂っているだけになった。透明になった事に気づいた私はどうしたら良いかわからず、取り合えず思い付く場所へと向かった。
移動は歩かなくても良い。飛ぶことすらしなくて良いらしい。すでにふんわりと浮かんでいるのだから、少し体を傾けて目的地へのルートを頭に描けば良かった。
それは真っ逆さま。絵本に描かれるような天国どころか風見鶏にすら足を向ける行為。
貴方は、私への文句を言って、居なくなったことなんかどうでも良いような事を言って、悔しそうな顔をしていた。それで私はこんな気持ちが胸に灯ってしまった。
逃げるようにふわりとすり抜けて漂った先は二人の男女の下。私を殺した男が好きな相手と話し合う姿を見て……怒りは浮かばなかった。私を殺したのは、天仕としての行為だ。それでこの存在が続くのならば、怒るだろうし憎むだろう。けれど実際に出たのは呆れるような軽い溜め息だ。少し笑っているようにも聞こえる音の。
……私の中にただひたすらある感情はもはや怒りでも憎しみでもない。恐怖だった。
私はこれから、無になるのだ。時の流れに一切が溶けて、私なんていなくなる。
今と何ら変わらない。否、今までと何ら変わらないはずなのに。一体いつ有だった時があったと言うのか。
……それなのに、消えてしまうと言うことが酷く怖かった。
これは、私が有ったと言う事?
だとすれば今までの嫉妬は、憎しみは……否。違う。そんなものじゃない。兎も角アレは、なんだったと言うのか。今までの全てが、無駄だったと言うのか。
一体セカイは、何がしたいと言うの……。
『こんにちは、迷い子さん』
突然眩しいくらいの光が溢れた。けれどそれは一瞬で、やはり突然現れた彼女の三つ編みにされた髪の色で勘違いしただけにも思えた。
見覚えもなく、けれどそこに居ることが何故か自然に思える不思議な少女。何より今の私と存在を確認し合えることが不思議なのだ。
『貴女は……?』
『ワタシは始まりでも終わりでもなかったもの。そして、これから消えていく存在』
『貴女は、消えるのが怖くないの?』
『さぁ……どうでしょう』
彼女は私の手を優しく握った。前髪の所為で片側からしか見えない目だが、それも優しく私を受け入れていた。
『……セカイに意味なんてない。ただ時の流れが廻っているだけだから』
彼女はふと、私の考えていた事を見抜いたように呟いた。
『例えば貴女がした事。例えば貴女の辿った軌跡。例えば誰かが貴女にされた事。例えば誰かと貴女が会った事。意味なんてあったかもしれないしなかったかもしれない』
その曖昧な言葉に、私は存在がまだ許されているなら眉をひそめている。
『ただ、在った事。在っただけの事よ』
『……』
『さあ、逝きましょう。時の流れへ』
これが生を行きたと言うことなのだ。死ぬと言うことなのだ。
そして私は、目を瞑った。