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世界は夢でできている

08.永遠



「――にしても、何であいつ生きとったん?」

 ちゅうっと啜るリンゴジュースは残り僅かとなっていた。作戦を詰めるのにすっかり消費し過ぎて、けれど話も終わりに近付いた今おかわりする気にはなれなかった。
 否、普段ならしているのだが、作戦会議。つまり目の前にいるのは相棒で悪魔のブラッドだ。お気に入りの喫茶店でお気に入りの飲み物片手にゆっくりと、なんて洒落込むのにはあまり選びたくない相手。

「生きてたから、生きてたんだろ」

「……そらそうやけど。あんた私に喧嘩売っとるん?」

「聞かれたから答えてやっただけなのになァ。可哀そォな俺」

「……その可哀想なブラッドさんの情報では、天界でどういう事になってるん?」

 じとっとした目できちんとした情報を要求すれば、ブラッドはつまらねェとでも言うように両手を広げて肩を竦めた。そしてあちらもちゅうっとトマトジュースを啜って真面目に返してくる。

「……だから前にも言った通りだ。死んでる事にはなってるぜェ。業務中の事故さ」

 事故だなんて、笑ってしまう。けれどそれは私も知っている通常の情報だ。
 そしてあれは間違いなくカイル・イレイザーだった。
 つまり殆どの者には事実が隠されていて、本当のところは生きている。一体どれ程の天界人が知っているのか、あるいは誰も知らないのかはわからないが、少なくともミューリ・フレイアの様子からして彼女は知らないのだろう。
 ……それだけで利用価値は十分にあった。

「案外カイル・イレイザーは永遠を生きられるのかもよォ?」

 くくっと笑って言うブラッドの冗談は大抵面白くない。

「元天仕がそんな方法持っとるんなら私が欲しいくらいやわ」

「それどころか神様だって欲しがるだろ」

 何せこの世界の神様は“世代交代”する。天仕も悪魔も、人間には羨まれる長寿であっても永遠は生きられないのだ。どんなにお伽噺に近い存在でも結局俗物で、なんだかおかしい気もする。

「でも、俺はいらねェな」

 そう思った時、ブラッドがふっと言った。

「……?何でや?」

 特に重要な話ではない。ただの世間話の一貫だが、その一貫として私は聞いていた。

「何にも無いとわかってる奴が永遠を行きて、楽しいかァ?」

「……まあ。そら、一理あるけど。私ら悪魔やったら世界を壊すのに十分過ぎる時間と機会が生まれる事になるやん」

 天仕に狙われても死なない。上の悪魔に逆らっても死なない。私だったら十分活用できるのに。
 そう言えばブラッドは「……そうだな」と気のない返事をした。
 雑談はそれで終わって、軽く作戦のまとめをしたら私達は店を出た。からんからんと鳴ったベルはブラッドの返事よりも大分力強かった。

 まあ、雑談は雑談だ。永遠なんてあるわけない。
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