世界は夢でできている
07.真顔
入ってきたあたしを除けば部屋の中にはたった一人、紫の髪の女だけが居た。
宮殿のトップである神が新しくなってからは、それを支えていた彼女も勿論元より更に昇進している。一室を自分用の執務室にして、あたしのような一介の若手天仕を異動させられる程度に権力のある上司になった訳だ、彼女エデンは。
秘密を共有しているあたしはどうも都合が良いのか、それともエデンなりに憐れみか、今ではこの部屋で二人きりなのも慣れてしまった。決して打ち解けあう程の関係じゃないから、緊張が全くない訳でもないんだけど。エデンの愚痴……下らない旧神派の残党の嫌がらせを肩を竦めて語り合えるくらいには張り詰めてもいなかった。
だから今日も呼ばれて、何の仕事の話だろうとドアをノックしてから入ったのだ。
「来ましたね。ミューリ・フレイア」
「呼ばれたからには来るしかないでしょ、部下なんだから」
二人の時はあたしからの敬語も無しだ。エデンは癖のような物だからと変わりはしなかったけれど。
「それで……どうしたの?」
「ルース・シャーレの遺品から、こんな写真が出てきました」
口元の濃いルージュは時々謎を含んで笑みを描くけれど、今日はそうではなかった。
ピッと弾いて投げナイフのように写真をあたしに寄越したエデンは至極真面目な顔をしている。
よっぽど重要な写真か新たな不安材料が出てきたのか……あたしもそれに釣られて真剣な顔になって写真を見る。けれどその所為ですぐに表情は崩れてしまった。
「何これ。ルース・シャーレと……あたし?!」
いや。違う。あたしと良く似てはいるけど微妙に幼い気もするし、肩口までしか写っていないけど、そこまでで十分わかるやたらとフリルの付いた服は着ない。髪も赤いし……何よりルース・シャーレと寄り添うその姿はあたしであれば絶対に存在し得ない光景だ。
片腕に抱かれ、少女はルースの胸元に手をおきピッタリとくっついて微笑んでいる。ルース・シャーレに恋人がいたなんて聞いた事がないけど(あのルースだ。出来たら直ぐに噂になるだろうに)これは……。
「誰か知らないけど、あたしじゃないわよ!」
「わかっています。これはルース・シャーレの妹ですから」
「へえ、妹。……妹?!」
あたしだとしたらでっち上げで超問題だけど、妹だとしてもそれはそれで問題だ。この写り方、幸せそうな表情……いや、単にあたしからそう見えてしまっただけで仲の良い兄妹なのかもしれない。
って言うかあいつ、だからあたしに声を……?
「でも何で今更こんな写真を見せたの、エデン」
旧神派の残党を徹底的に追い込む何かとかある意味変ではあるけどもっと重要な変な物が写っているわけでもないのに。後から出てきたとは言え今更ただの妹との写真を見せられたってどうしようもない。
「その写真は大事そうに、けれど簡単には見つからない場所に隠されていました。勿論彼女がそう言う存在であるのかもしれませんが、それが重要な書類と一緒にあったのが気になるのです」
「重要な書類……?」
ルース・シャーレと言えば神がまだ今の神ではない時、宮殿の、それも当トップである神の情報が盗まれたと言う騒動の犯人だ。当時は静かに大きく騒がれていた。
「盗難騒動のあった情報のコピーです」
「じゃあその妹が怪しいって事……?」
「しかし彼女はずっと前に亡くなっています。それでも彼は変わらず写真を大切にしていたようですが」
ただ隠し場所が一緒なだけかもしれないし。まあ、一番楽な考え方がこれなんだけど。
「まあ、嫌な予感がするだけです。尤も、貴方に似ていると言う事も何かあった時には重大なものになりますから、気を付けなさい」
「……わかったわ」
そいつが何か仕掛けを遺していたとして、あたしの所為になったら困るしね。
話が終わればついでのように、あたしとしてはガッチリ本題な仕事をお土産のように渡されて部屋を出される。
そしてドアを閉めようとした時。閉め切る前に、エデンは一言こう聞いてきた。
「貴方は、悪魔と言うものを知っていますか?」
「?お伽噺に出てくるやつでしょ」
ですよね、と返されたその真意は何だったのだろう。
入ってきたあたしを除けば部屋の中にはたった一人、紫の髪の女だけが居た。
宮殿のトップである神が新しくなってからは、それを支えていた彼女も勿論元より更に昇進している。一室を自分用の執務室にして、あたしのような一介の若手天仕を異動させられる程度に権力のある上司になった訳だ、彼女エデンは。
秘密を共有しているあたしはどうも都合が良いのか、それともエデンなりに憐れみか、今ではこの部屋で二人きりなのも慣れてしまった。決して打ち解けあう程の関係じゃないから、緊張が全くない訳でもないんだけど。エデンの愚痴……下らない旧神派の残党の嫌がらせを肩を竦めて語り合えるくらいには張り詰めてもいなかった。
だから今日も呼ばれて、何の仕事の話だろうとドアをノックしてから入ったのだ。
「来ましたね。ミューリ・フレイア」
「呼ばれたからには来るしかないでしょ、部下なんだから」
二人の時はあたしからの敬語も無しだ。エデンは癖のような物だからと変わりはしなかったけれど。
「それで……どうしたの?」
「ルース・シャーレの遺品から、こんな写真が出てきました」
口元の濃いルージュは時々謎を含んで笑みを描くけれど、今日はそうではなかった。
ピッと弾いて投げナイフのように写真をあたしに寄越したエデンは至極真面目な顔をしている。
よっぽど重要な写真か新たな不安材料が出てきたのか……あたしもそれに釣られて真剣な顔になって写真を見る。けれどその所為ですぐに表情は崩れてしまった。
「何これ。ルース・シャーレと……あたし?!」
いや。違う。あたしと良く似てはいるけど微妙に幼い気もするし、肩口までしか写っていないけど、そこまでで十分わかるやたらとフリルの付いた服は着ない。髪も赤いし……何よりルース・シャーレと寄り添うその姿はあたしであれば絶対に存在し得ない光景だ。
片腕に抱かれ、少女はルースの胸元に手をおきピッタリとくっついて微笑んでいる。ルース・シャーレに恋人がいたなんて聞いた事がないけど(あのルースだ。出来たら直ぐに噂になるだろうに)これは……。
「誰か知らないけど、あたしじゃないわよ!」
「わかっています。これはルース・シャーレの妹ですから」
「へえ、妹。……妹?!」
あたしだとしたらでっち上げで超問題だけど、妹だとしてもそれはそれで問題だ。この写り方、幸せそうな表情……いや、単にあたしからそう見えてしまっただけで仲の良い兄妹なのかもしれない。
って言うかあいつ、だからあたしに声を……?
「でも何で今更こんな写真を見せたの、エデン」
旧神派の残党を徹底的に追い込む何かとかある意味変ではあるけどもっと重要な変な物が写っているわけでもないのに。後から出てきたとは言え今更ただの妹との写真を見せられたってどうしようもない。
「その写真は大事そうに、けれど簡単には見つからない場所に隠されていました。勿論彼女がそう言う存在であるのかもしれませんが、それが重要な書類と一緒にあったのが気になるのです」
「重要な書類……?」
ルース・シャーレと言えば神がまだ今の神ではない時、宮殿の、それも当トップである神の情報が盗まれたと言う騒動の犯人だ。当時は静かに大きく騒がれていた。
「盗難騒動のあった情報のコピーです」
「じゃあその妹が怪しいって事……?」
「しかし彼女はずっと前に亡くなっています。それでも彼は変わらず写真を大切にしていたようですが」
ただ隠し場所が一緒なだけかもしれないし。まあ、一番楽な考え方がこれなんだけど。
「まあ、嫌な予感がするだけです。尤も、貴方に似ていると言う事も何かあった時には重大なものになりますから、気を付けなさい」
「……わかったわ」
そいつが何か仕掛けを遺していたとして、あたしの所為になったら困るしね。
話が終わればついでのように、あたしとしてはガッチリ本題な仕事をお土産のように渡されて部屋を出される。
そしてドアを閉めようとした時。閉め切る前に、エデンは一言こう聞いてきた。
「貴方は、悪魔と言うものを知っていますか?」
「?お伽噺に出てくるやつでしょ」
ですよね、と返されたその真意は何だったのだろう。