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世界は光でできている

 この宮殿にいる神様の情報が盗まれ、あたし達“天仕”……つまりは宮殿で神様に仕える者達は、慌ただしい毎日を送っていた。
 しかし今日は、久しぶりに取れた休暇である。
「おい、飯を食いに行かないか」
 そして珍しいお誘い。でも、
「何であたしがあんたなんかと」
 ルース・シャーレなんかとご飯に行かなきゃいけないのよ。




     シャープペンシル
    ― 一般的な筆記用具―




 サラサラサラ……
 紙とペンの擦れる音が響き合う。
 確かにご飯は断ったわ。でも何で。
「何でじゃあ『書類の手伝い』なのよ!!」
 がたん、と勢いよく立ち上がるあたし、ミューリ・フレイア。三十分待ったあたしを誰か誉めてあげて。
 そもそも仕事があるならご飯なんか誘うな!
 ここ最近こいつは本当にしつこい。何故かあたしに頻繁に接触してくるのだ。
「これは急ぎじゃない。今日の分はとうに終えた」
 あたしの考えを見透かすように言ってくるヤツ。
「ならあたし帰るわ」
「待て」
「……なによ」
「お前と話したかった」
 前に廊下で待ち伏せていた時には、紫髪のお姉さんの尻を追って話を中断させたくせに。何を言う。
 モテる割には付き合いだしたら振られるタイプだわ、こいつきっと。
 あたしの呆れた視線を受けながらも、ルースは勝手に喋り続ける。
「神の資料を盗み出して、流しているのは“カイル・イレイザー”だ」
「何馬鹿な事言ってんの。言っちゃアレだけどカイルは窓際天仕なのよ。そんな芸当できるはずもないでしょ。冗談言ってんならマジで帰る」
「聞け。前に俺が追いかけた女がいただろう。紫髪の」
「尻軽男」
「誰が尻軽だ」
 ぼそっと呟いたはずだったが残念、拾われてしまった。
「見たことないだろう」
「――まあ」
 確かに。
 でも、あたしがそれなりに使われてる有能な新人でも、やっぱり新人は新人。
 どこの部署にもよく顔出してるわけじゃあるまいし、前に一度や二度見ただけじゃ覚えていないし、知らない人の方が多いはず。
「エデン。最近入ったばかりなのに、随分と昇進した怪しい女だ」
「あんたの待ち伏せの方が怪しいけど」
「お前の口は減らんな」
「口は減るもんじゃないし」
 そう辛口を叩くと、ルースは少しだけ、どこか柔らかい笑みを浮かべた。
 目を擦ったら消えていたから、気のせいかとも思ったけど……。
「わかったわかった。そんなに手伝ってほしいなら手伝うわよ。その代わり、もう変な冗談言わないでよね」
「冗談は言わん」
 大人しくなったルースを見てから席にもどり、再び紙とペンに向かい合う。
 一般的に見ればルースの方が信用できるし、女受けも良いのだろう。
 でもあたしは、何か気にくわなかった。怪しく感じてしまうし。
 それに、流石に今回の話は突拍子もない話だ。こんな冗談、あたしを引き留める為に使うなんて……相当コミュ力ない人なんだろうな。
(外見は割りとカッコいいのに、可哀想に)



 数時間後、休暇を食い潰した書類達は片付き、残りはルース自身がやる事だけとなった。
「ふー。終わったー……あたしもう帰るわよ」
「……ああ、助かった」
 どこか引っ掛かる表情が気になるも、あたしは帰る気満々。
 鞄を持ち、部屋を出る
 瞬間。
 ヤツはあたしに話しかけた。
「俺の好みがお前みたいな顔だって言ったらどうする」
 シャープペンをこちらに向けて、視線もこちらに向けるルース。
 でもそれは、あたしには寒気しか及ぼさない。
「お生憎様!あたしはあんたみたいなの好みじゃないの!」
「気になるヤツはシャープペンなど使わない……か?」
「っ!」
 ……ほっとけ!
 ルース・シャーレの馬鹿!








「最初の話は、本当だ」
 ドアがしゅ、と閉まった。
 ――嘘に、決まってる。
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