世界は夢でできている
04.幻覚
「カイ……ル……?」
あたしの目が無意識に大きく見開かれた。だって、この地上の人間界で、カイルがいる。あたしが愛した……否、殺した男がいるのだ。
もじゃもじゃで風に揺られれば塊ごともさもさと動くほどの黒髪は真っ直ぐで少し伸びていた。しかも一つに括っている。それに眼鏡でもなくなっている。
――でも、その頼りなさそうな目は、カイルにしか思えない……。
人波を押し退けて走る。走る。
けれど無闇やたらと人間を殺すことは出来ない。魔力を使って騒がれるのも困るし、そうなるとただの女である私は何度も逆に押し流されて、結局は見失うのだった。
「どうしてカイルが……。死んだ、はずじゃ」
否、殺した。
生きてるはずなんて自分に都合の良い言い訳。
あの肉にナイフを突き立てた感触も手の真っ赤な色も未だに時折吐きそうになる臭いだって覚えてる。
それにここは人間界。地上の世界なのだ。
あたしは天仕で、カイルも天仕だった。それが生き返って地上にいるだなんて……。
「幻覚、か……」
乾いた笑いが出てくる。
そんなに病むほど後悔するなら殺らなきゃ良かったのに。
――なんて、馬鹿馬鹿しい。
後悔は先になんて立たないんだ。
~♪~♪
震えと共にポケットに入った携帯が鳴り出す。人間界では流行りの歌。
表示された名前はルリエラ――同僚で友人だったから直ぐに取った。
「……もしもし?」
『あっ、ミューリ?着いたんだけど、今何処にいるの?』
「噴水広場の前。……あ、見つけた。こっちから行くわ、動かないでね」
『有難う?じゃあ電話切って待ってるね』
疑問であろうとなかろうと語尾の上がる独特の喋り方は、実際は普通なのにゆっくりとした早さで喋っているように思えるルリエラ。
天界なら兎も角ここでは更に独特なマラカイト色の髪は人の溢れるこの広場でも彼女を浮き立たせている。
あれは幻覚……幻覚、だったんだよね、きっと。
それよりルリエラから仕事の資料受け取らなくちゃ。
「ルリエラー!」
「わっ!ミューリ?そっちにいたんだ、遅くてごめんね」
「約束の時間にはまだ五分あるし遅くない遅くない!」
「カイ……ル……?」
あたしの目が無意識に大きく見開かれた。だって、この地上の人間界で、カイルがいる。あたしが愛した……否、殺した男がいるのだ。
もじゃもじゃで風に揺られれば塊ごともさもさと動くほどの黒髪は真っ直ぐで少し伸びていた。しかも一つに括っている。それに眼鏡でもなくなっている。
――でも、その頼りなさそうな目は、カイルにしか思えない……。
人波を押し退けて走る。走る。
けれど無闇やたらと人間を殺すことは出来ない。魔力を使って騒がれるのも困るし、そうなるとただの女である私は何度も逆に押し流されて、結局は見失うのだった。
「どうしてカイルが……。死んだ、はずじゃ」
否、殺した。
生きてるはずなんて自分に都合の良い言い訳。
あの肉にナイフを突き立てた感触も手の真っ赤な色も未だに時折吐きそうになる臭いだって覚えてる。
それにここは人間界。地上の世界なのだ。
あたしは天仕で、カイルも天仕だった。それが生き返って地上にいるだなんて……。
「幻覚、か……」
乾いた笑いが出てくる。
そんなに病むほど後悔するなら殺らなきゃ良かったのに。
――なんて、馬鹿馬鹿しい。
後悔は先になんて立たないんだ。
~♪~♪
震えと共にポケットに入った携帯が鳴り出す。人間界では流行りの歌。
表示された名前はルリエラ――同僚で友人だったから直ぐに取った。
「……もしもし?」
『あっ、ミューリ?着いたんだけど、今何処にいるの?』
「噴水広場の前。……あ、見つけた。こっちから行くわ、動かないでね」
『有難う?じゃあ電話切って待ってるね』
疑問であろうとなかろうと語尾の上がる独特の喋り方は、実際は普通なのにゆっくりとした早さで喋っているように思えるルリエラ。
天界なら兎も角ここでは更に独特なマラカイト色の髪は人の溢れるこの広場でも彼女を浮き立たせている。
あれは幻覚……幻覚、だったんだよね、きっと。
それよりルリエラから仕事の資料受け取らなくちゃ。
「ルリエラー!」
「わっ!ミューリ?そっちにいたんだ、遅くてごめんね」
「約束の時間にはまだ五分あるし遅くない遅くない!」