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世界は夢でできている

03.血液



 赤い。赤い。
 そこは血液のように真っ赤であった。そして血液のように暗くもあった。
 何も見えないはずの地下世界には幾つもの空洞がある。
 人間で言うところの地獄だろうか。或いは魔界だろうか。
 取り合えずは悪魔にとって、快適な場所ではあるようだ。
 何せベッドを置いてクローゼットを置いて冷蔵庫に似た保管庫を置いて、その中身や装飾も好き勝手にしている。何にも見えやしないのに、女の方の悪魔はそれでも良いのだと、ベッドを着飾らせた時に言っていた。

「……ブラッドー。リンゴジュース取って」

「半分くれたら考えないでもないぜェ?」

「五〇〇ミリの半分言うたら缶一本分くらいやん!阿呆くさ!自分で取るわ」

 女はだれるようにベッドにひっ付けていた体を起こして、すたすたと保管庫の下へ歩く。そして自分の好物リンゴジュースを手に入れるとそのままキャップを捻り、ごきゅごきゅと喉を潤した。
 ――別にこの血溜まりの中が見えているわけではない。何処に何があるか、誰が何処にいるのか、何をしているのか……彼女は感じているのだ。
 それが悪魔というものだった。

「ついでに俺のトマトジュース取ってくれよ」

「ほーん?そんなら半分くれたらええよ?」

「ああ、いいぜェ?でもお前トマトジュース飲めたっけなー?」

「……ほんま嫌な奴やわ。ほれ」

 ひゅっと投げられたのは賽ではなくブラッドと呼ばれていた男の好物トマトジュース。赤の中で赤が舞い、ブラッドはそれを上手いこと掴み取った。
 その攻撃的な犬歯がトマトジュースと相俟って、悪魔ではなく吸血鬼に見えてしまいそうだ。

「……なんでそないな物が好きなんか、わからんわ」

「俺はリンゴジュースの方がわかんねェけどよ。ま、そりゃそれでいいんじゃね?」

「……それもそやね」

 悪魔の女はふりふりキラキラと着飾るし好きなものはリンゴジュース。一方のブラッドはそれなりに身形に気は使うもののシンプルで好きなものはトマトジュース。
 そんなものだ。そういう所は人間と然程変わらないのかもしれない。お互いに違って面倒だと思えど、それでいて付き合えている。違いを認め合えるなど素晴らしい綺麗事までは言えないが。
 そういうもので、それで良いのだ。

「それで、次の計画どないするー?」

「お前の計画は失敗だったもんなァ?ルカ・エスぅ」

「せやからあんたは表で何も動いてないやろ!笑う資格ないで」

「だから裏で頑張ってるっての。多分な」

 げらげらと空洞を共振させて腹を抱えるブラッドにルカ・エスと言うらしい悪魔の女は更にむっとした。

「じゃあ次の計画はブラッドが考えればええやん」

「お前だけで宮殿特攻でもしてみるかァ?ルカ・エス」

「……あんたに振った私が馬鹿やったわ」

 そうして悪魔達の下らない一日は過ぎていく。馬鹿馬鹿しい冗談にまみれた空間は、その実血の色と血にまみれた悪魔を抱いていた。
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