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世界は光でできている




        鉛筆
      ―えんぴつ―




 ここは神の居る天上とその下の地上が存在する世界。
 神は天上にある宮殿で、天仕と魔力を用いてこの世の……正確には地上の様々な理を司る。
 そんな宮殿では、廊下では靴音が、部屋では紙とペンの擦れる音が聞こえる。
 それも、酷く忙しない。
 実は盗まれてしまったのである。その、現在居る神の情報が、何者かに。
 その為世界を管理しているこの宮殿では今、犯人探しに躍起になっている。


 ――のだが。
「ちょっと」
 このボサボサ髪の男ったら。
 一人だけコロコロ鉛筆を転がしてはぼうっと遊んでいるだけ。
 シャープペンやボールペンと言った便利な物がありながら、この男、必要に迫られない限り使わないのだ。
 ……絶対こうやって遊ぶ為だと思う。
「ちょっと、カイル・イレイザー!」
 綿ごみのような黒髪がもじゃりと動く。こちらを向いた顔は情けなくも悪くないはずなのに、厚めの眼鏡が気分を引かせる。
「……はい?」
「はい?じゃないわよ。今は猫の手も借りたい状況なのよ!あんたわかってんの?いやわかってないでしょ!」
 カイルの首根っこ引っ付かんで、ぐんぐんと前後に激しく揺らす。すると顔から力が抜けて、「ギブギブ」と小さく啼いた。
「ミューリ、力有りすぎです……」
「んー?」
 ぐぐっと拳を突きつけると、何でもないですと呟くカイル。
 先に宮殿入りしたはずのこの幼馴染み。 ここに来る前は、てっきりもうあたしの上司になってると思ってたのに、ご覧の通り。
 窓際に追いやられて情けなーい姿で座っているのだった。
 でも今はそんな事関係ない。さっき言った通り、猫の手もカイルの手も借りたいほどなのだから。
 どさっと持ってきた書類をこいつの机に載せる。
「これ、ちょっとしたチェックと番号順に整理!あんたでも出来そうな仕事なんだから、サボんないでよ」
 …苦笑いしながら「はいはい」と適当な返答をするこいつは、わかってるんだかないんだか。
 呆れた視線を送ってから部屋を出る。
 開いたドアの向こうで、壁に凭れたキザな奴がふっと此方を見た。
 銀髪のサラサラヘアー、髪型はちょっと格好付けた感じだけど、それに合う程顔が整ってて、それなりの役職持ってて。どこの漫画の主人公よ、って思うほどカイルとは真逆。
 すっと音が鎮まるような視線であたしを見てくる。
「ミューリ・フレイア」
「なによ。ルース・シャーレ“サン”」
「あいつには気を付けろ」
「は」
 あんな寝惚けたカイルに何が出来ると言うのだろう。
 それよりもこいつの方が胡散臭い。
 だってここ最近、あたしに頻繁に接触してくるのだ。
 始めはまあ格好良いし、話せて悪い気はしなかったけど、今はうんざりしている。
「ご免なさい、そこ、通して頂けるかしら」
 ふっと降りかかる声。
 落ち着いたその声は経験あるしっかりとした大人の女性にも感じたが、振り向けば、見た目は二十歳くらい、紫髪のおかっぱの女性。
 あたしと同い年くらいだった。
 ……関わりが少ない部署の人だろう。見覚えはない。
「す、すみません」
 通路の邪魔になってるのは確かだし、謝って奴との空間を広げた。
 女性はにこりと笑ってお礼を言う。
 そしてすうっと出来た合間を通り、向こうへと通っていった。
「で、何でカイルに気を付けろって言……ってちょっと!」
 すると奴は女性の後を追って小走りに行ってしまった。
 慌ててかけた声も無意味で。
「……何なのよ、もう」





数時間後に覗いたカイルの机には、きっちり整理された資料と転がった鉛筆。
今日は何が何だか、訳わかんない。
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