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本編

 とある静かな山林。
 ここを越えれば国が変わるが、小川がさらさらと流れ、煌めく光は美しいこの山にはまだ妖がいると噂されている。

 一年前。京古の森で妖が殲滅されたと話が伝わると、人間は挙って多くの妖の棲み処に攻め入った。人間とはそう言うモノだ。しかし中には戦いなど出来ない小さな村や、人のいない棲み処もあり、時折まだ何処かから町へと妖がやって来る。
 この山林はその一つなのだ。
 そこには顔を洗ったばかりの女が歩いていた。
 女は水気を布で拭いきると、焚き火の跡を片付けていた赤毛の男に近付く。
 良い年頃のその女は紛う事なく人間であったが、男は耳は尖り、頭からも尖った角が生えていた。瞳の色も金色で瞳孔は猫のようにしゅっとしている。鬼の男であった。

「ふう、さっぱりしたー」

「河童に聞いたら、この川を上った先に村があるらしい」

「じゃあ今日はそこで泊まりだね。久し振りの村だあ!」

 それでも畏れる事なく会話する女。
 それもそのはず、女と鬼は二人で旅をする、そう言った仲なのだから。

「良かったな、風呂に入れるぞ」

「あ?キーちゃん拗ねてる?私は人里じゃなくたって、キーちゃんと一緒なら何処でも幸せだよ」

 女はくぷぷっと、結婚してから一年も過ぎているのにまだ子供らしい仕草をする。その様子は恋人である前からまるで変わらない。
 鬼はむっとしながらも照れていた。

「……。さっさと準備していくぞ」

「はいはい」

 まだ女は笑いながら、置いていた荷物を纏めて簡単に担いだ。鬼はすでに準備を終えていた為、数歩だけ先に進んでいた。
 そこにとたたっと並んで声を掛け、いつものように二人で歩み始める。

「鬼壱」

「あ?」

 少し粗暴な言葉使いは元からだ。それでもた他愛ない話は続く、はずだけれど。今回は。
 そ、と柔らかく暖かな唇が鬼のそれと重なる。

「大好きだよ!」
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