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本編

 ごぉぉおおう。ごぉぉおおう。

 風さえも妖しさを含んでいるようで薄気味悪い。
 暗闇の中、篝火が灯る京古の門から剣士が、その頂きに潜める忍者が、黒い塊が近づいているのを見た。そして彼らの耳に、何かが蠢く音が聞こえる。

「何だありゃあ」

 うごうごと近づき、近づき。黒い蠢きのなかに無数の薄い光たちがぽつぽつと浮かんでいく。
 近づき、近づき。忍者はよく見るために絞っていた瞼を大きく開いた。
 漸くそれが憎しみの宿る瞳を光らせた妖達だと気付いて、見張りどもは声をあげる。

「な!た、大変だ!あ、妖だっ」

 たった四日前に、残っているのならば大量の亡骸を積み上げたはずの妖。蠢く物全てでも森に居た妖にしては数が少ないし、確かに大分妖の数は削れていたようだ。
 だがそれでも、この門に居る人間では歯が立たない数だと言うのは誰にだってわかる事。

「そんな……あれだけ退治したと言うのに、まだこれほどの戦力が残っているのか!」

 忍者の一人が直ぐ様強く地を蹴り、報告の為に跳び去った。残されたのは二人の忍者と二人の剣士。
 まさか町を護る為の自分達が、門の中に逃げる訳にはいかない。どうなるかわかっていても、減らすのだ。
 忍者達と一人の剣士は根底にあった覚悟を改め、構える。
 しかし、一人の剣士は慌てて青ざめたままがたがたと震えて、剣を抜こうとしない。

「お、俺は討伐隊でも後ろにいたんだ!雑魚の相手しかできねぇよ!死んじまう」

 情けない叫びはしかし、誰にだってある当たり前の恐怖心。
 そう、弱い妖だって人間よりは少なくとも、それを堪えて。

 やがて黒いもの共に呑まれた門は押し破られて、或いは空から侵入されて、町には警鐘が強く強く響き渡る。
 数日前はあんなに明るく賑やかだったのに。
 騒ぎの大きさはどちらも大きくても、今の空は闇と煙に包まれていた。

 忍者屋敷では怒声が飛び交った。頭領すら笑って信じなかった話ではあるが、慎之介の手が回されていた事により、直ぐに忍者屋敷が避難場所に決まった。
 傷薬や包帯、布団。一応許可され倉庫に運び込まれていた物が根刮ぎ引っ張り出される。今度こそ本当に慎之介が許した木ノ上印の道具達。

 一部の忍者は町民の避難を手助けに、残る忍者は区域を割り振られ、妖退治にとその場を去った――。
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