第三章
夢小説設定
名前変換◆名前変換とは?
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夢小説と呼ばれる事もあります。
勿論変換せずに普通の小説としてもお読みいただけます。
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ラークの掲げたカンテラだけがぼんやりとその先と周囲を照らす。火属性が使えれば灯りにも困らないのだが、生憎と零は冷系統で、アシッドもあまり力を明かしたがらないので、そればかりが頼りだった。
コツコツと岩壁に反響する足音。時折それに混ざって羽音や這い寄る音が聞こえたが、三人もいれば弱い魔物では相手にもならず、どんどん奥へと進んで行く。
「!僕達以外の灯りが見える」
そしてどうやら、盗賊の溜まり場に到達したらしい。
ラークは急いでふっとカンテラの火を消した。遠くではほんのりと岩を照らす、僅かな橙の揺らめきが見える。
あの先で揺らめく篝火はもっと奥へと続いているのか、岩陰に上手く隠れられているのか、盗賊に気付かれた様子はない。
三人はじっくりと様子を伺い、じりじりと近付いて行く。
やがて光の中に影が二つ伸びているのが見えて、ラークは武器を構え、アシッドと零はいつでも呪文を唱えられるよう集中した。
「こんな場所で見張りなんて意味あんのかねぇ」
「しっ。こんな所で愚痴ったら、親分に叱られるぞ」
「扉の向こう側だぜ?聞こえねぇよ。前だって見張り当番の奴がサボってて、魔物が来ても全然気付かなかったじゃねぇか」
……随分とずぼらな盗賊達である。
しかし零達にとっては好都合だ。話し込んでいる彼らを倒しても、扉の向こうには気付かれない。
三人は顔を見合わせると、タイミングを見計らって岩陰から飛び出した。
「「欠片の通り道!」」
見張りの男達の頭上に大きな岩がゴンッ!と当たり、ふらりとしたところでラークが斬りつける。
あっという間に倒れた男達のすぐ後ろには、洞窟にはそぐわない人工的な緑の扉があった。
周りを確認してみるも、それ以外に彼らのアジトへ侵入する入口はなさそうだ。
三人は再び顔を見合せると、その中へと突入した。
バン!という大きな扉の音と共に注目が集まる。中央のテーブルには見張りの若い男達とは違い、髭を蓄えた厳つく筋肉質の男達が付いていて、侵入者を確認するやいなや、素早く椅子から立ち上がった。
腰からすらりと曲刀を抜くと、三人に訝しげな目を向ける。
「てめぇら、一体何者だ?表の奴らはどうした!」
テンプレート並みの台詞で吠える男に、ラークは涼し気に返した。
「倒したからここにいるんじゃないか」
「ちっ、行くぞお前ら!」
ただし、親分らしき男がやっちまえお前ら、ではない事は評価すべきであろう。
「地上の槍≪スティル・ラグミーティカ≫!」
襲いかかる男達に向かって、零は石筍を出して行く手を塞ぐ。それを逃れた男がラークに狙いを定めるが、軽く交わしてその横腹に一斬り入れる。更に痛みで鈍った所にもう二撃。
アシッドはやる気を感じられないほど二人の後方で佇んでいたが、すっと前に出した手を振り下ろし、壁や天井から剥がれた岩を男達の数だけ落としていく。
その目眩が収まる頃には再び零やラークの攻撃が始まっていて、盗賊達の人数はみるみる内に減っていった。
「はぁ、はぁっ……」
残っている男達も息が上がり、動きも鈍っている。
この調子ならばいけると、零は更に呪文を唱え始めた。だが。
「くそっ!この小娘がァ……!」
激昂した男が、一番近くに居た零へと一直線に向かって来た。
呪文が終わるまでは術師の殆どは無防備である。狙われたのが零であれば殊更。
零はただ迫りくる刃を瞳に映し、悲鳴を挙げる事しか出来ない。
「きゃああああっ!」
「――させぬ」
気配もなく零の前に立ち塞がったアシッドが、零を狙っていた男の前に手を翳す。
すると、どん!と手から衝撃が放たれ、男は頭から体ごと岩壁にぶつかった。
「あ、有難う、アシッド……」
ラークも残っていた親玉を倒し終えた所で、カチンと鞘に剣を収める。
騒がしかった広い空間がしんと静まり、戦闘の終わりを告げた。
立っているのはアシッド、零、ラークの三人だけで、他は皆床に伸びて転がっている。
「……私はちょっと危なかったけど、思ってたよりはあっさり終わったね」
「俺達が来る必要はあったのか疑問だな」
「いや、助かったよ。この人数で囲まれたら終わりだからさ」
そう言うラークとアシッドの手で、男達は案の定ぐるぐる巻きに締めつけられ、纏めて隅に放置された。
暫くして目が覚めても、皆が息を合わせなければ立ち上がれないだろう。
邪魔者のいなくなった盗賊達の大部屋で、零達は改めて本来の目的の為に動き始める。つまりは盗賊退治では無く、お宝探しだ。
大部屋には盗賊達が団欒としていたように、普通の居間にあるような家具や大型の調度品、ちょっとした食料が置いてあった。見目や触り心地は零からしても上等なものだが、きょろきょろと見回しても、この部屋には探していたネックレスや明らかなお宝といった物は見当たらない。
「こいつらが持っている武器や家財道具は良い物だが……捌きにくいし、俺達だけでは運びにくいな」
「え?アシッドはあの魔術が――むぐっ!」
いつも魔獣の肉を保管する魔術を思い浮かべ、発言しようとした零の口は塞がれた。
むぐーっ、むぐぐーっと間抜けな音になってしまい、「仲が良いんだね」と笑うラークに思わず口を噤む。
「これだけのはずがないよ。いくら換金して使っていても、活動期間や盗んだ量に対しては少な過ぎる。どこかに保管しているはずだ」
三人はほぼ同時に、奥の部屋へと続く扉に視線をやった。
扉は鍵が掛っているようだったが、ラークが思い切り椅子を使って叩き壊す。
無理矢理暴かれたその部屋はこじんまりとした物置き部屋となっていて、何本もの武器や防具と並び、少し大きめのくすんだ赤い箱が一つだけ、堂々と置かれていた。
これが盗まれたお宝。盗賊達の全財産なのだろう。
扉の鍵で十分と思っていたのだろうか、ラークが押し上げると箱の蓋は簡単に開いた。
中には数多の金色や銀色の装飾品。隙間には硬貨がぎっしりと詰めこまれており、それ一箱でもファンに貰った報酬の五十倍以上……数年は働かずに生活できるようなお宝があった。
「……凄い。盗賊の溜めこんだお宝なんて、初めて見たよ」
零は興味津津にその箱を覗きこむ。
口には出さなかったが、まるでファンタジーみたい、と思うのは止められない。それほどに現実離れした眩い光景だった。
冒険者であるラークやアシッドにとっては珍しい物ではなかったのか、喜びこそすれ、そこまでキラキラと輝いた表情をしていなかったのだが。
「ここから山分け、という事だったな?」
「ああ。でも待って。僕の探している物があるかどうか……」
ごそごそと箱の中に手を突っ込み、漁るラーク。
傷が付いたら価値が下がるのでは、と零は少し不安になったが、そもそも箱に突っ込んでいる時点で管理は甘く、金や宝石という素材での価値を考えるべきなのだろう。