第三章
夢小説設定
名前変換◆名前変換とは?
対応している小説で、主人公の名前をお好きな名前(自分の名前やオリキャラの名前等)に変えて小説を読む事が出来る機能です。
夢小説と呼ばれる事もあります。
勿論変換せずに普通の小説としてもお読みいただけます。
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二人のテーブルにやって来たのは、ウェイトレスと違い今度こそ零と同じ様に荒れた酒場に似合わない少女だった。下手に話し掛けられないようフードを深く被り怪しい雰囲気を醸し出していたが、声や身長でバレバレであるし、依頼出来そうな相手を見付けたからかそのフードも既に脱いでしまったので無意味だ。
天然パーマなのか、羊のようなくりくりの淡い金髪に零よりも幼い顔つき。纏った無機質で暗いローブがもはや不釣り合いな少女の頼み事とは。
「――魔獣を届けて欲しい?」
魔獣とは魔物とほぼ同義語だ。獣と言うだけあってスライム的なものや人型は除く。魔獣の中には愛らしい姿の魔物もおり、時折知識のない子供や女性が襲われる事もあるらしい。一部の地域ではその愛らしさに目を付けて、魔術で愛玩用としてある程度操れないかと研究しているとか。……全ては零が過去に読んだ本とアシッドの耳打ちによる知識である。
「はい。アプリコットって、知っていますか」
勿論ジャムとかに使われる果物、杏……ではない。零が思わずそう言ってしまいそうになった時、アシッドがぼそりと正しい答えを呟いた。詳しい話を聞く為、身を寄せて話し合っていたからこそ聞き取れる声の大きさだった。
「希少種、だな。小動物のような姿で、凶暴性もあまりない」
「流石魔術師様。知っていらっしゃるんですね、その通りです。お陰で魔獣を無理に飼おうとする貴族には人気の高く、あの子も悪い人達に狙われました」
「あの子……。それじゃあ、届けてほしいって言う魔獣って」
「はい。アプリコットのリーちゃんです。……名前は、私が勝手に付けたものですけど。あまり大きな声で魔獣種名を言うと誰かが聞きつけてくるかもしれないので」
「リーちゃん、か。でもそんな希少種?を届けるって、一体何処に?預かってもらえる機関でもあるんですか」
届けると言う事だから、都会の方にならそういった機関があるのだろうか。城下町とか……いや、それはまずい。距離も自動車や飛行機が無いんだから、アシッドに飛んでもらわないと相当あるはずだ。
しかし零の不安は杞憂となり、少女は首を振った。
「いいえ。保護機関は……あるにはあるんですけど、保護と言う名の研究機関なのです。それも領都くらいの大都市にあるかないか、と言う程のものなので……」
「そ、そうなんですね!」
「……お姉さん、指名手配でもされてるんですか」
明らかにほっとした声は少女にも伝わってしまったらしい。少女のじとっとした目と少しトーンの下げられた声が零を穿つように向けられる。更には咎めるような睨みが、アシッドから。
二人の責めにう゛っと気持ち程度に零が仰け反っていると、少女は口許に手を当ててくすくすと笑い始める。
「なんて、冗談ですよ。まさかこんなに優しそうで私より少し上くらいの方が、指名手配なんてされる罪は犯せそうにありませんもん。ちょっと兵士にしょっぴかれた程度でしょう?」
(しょ、しょっぴかれたって……可愛いのに随分な言葉を使うね……)
冗談も図星かもしれず辛辣なものだったが、可愛い少女とは言え流石酒場にやってきただけはある言葉遣いだ。頬を強張らせてロボットのように一定の音で零は乾いた笑いを溢す。
少女と一緒に責めてきたアシッドは冗談に決まっているだろうと嘲笑っているのか、それとも冗談で助かったなと言いたいのかふんと小さく鼻で笑っていた。
「私もそのくらいの人の方が助かるんです。正規の冒険者さんに頼んだら、きっと規定とかそう言うもので、そちらに運ばれてしまうから」
「領都の研究機関には運びたくないって言う事ですね……じゃあ、一体何処に?」
零がそう尋ねると、少女は一層身を乗り出して、アシッドと零の二人にしか聞こえないように声を潜めて話し出した。
「この町の西の方にある大きな山はわかりますか?あのアズレウス山の麓には大きな滝と泉があるんです。リーちゃんはあの泉の側で見付けました。あの時リーちゃんは怪我をしていて……きっと心無い人に襲われたんだと思います」
少女はアプリコットの手当てをして怪我が治るまで世話をしていたと言う。そして漸く先日怪我が治ったから、元の棲みかに戻してあげたいと、権力者の研究機関や貴族に売ってしまわない人間を探していたらしい。
その泉までの道のりには当然魔物が出る訳で、その時の少女は両親と護衛が一緒にいた行商帰りの道中だった。少女自身が行く事も出来ず、周囲にも取り上げられないよう内緒にしていたので、頼れる人もいなかったそうだ。
(ここじゃ逆に売っちゃいそうな人間が多そうだけど……)
視線だけをずらして辺りを見回した零は思う。
(これは、受けられるなら私が引き受けてあげたい。けど、)
道中魔物が出る上に、下手をすれば希少な魔獣を狙う輩に襲われるかもしれない。
「ねぇ、アシッド。これって私でも出来る仕事だと思う?」
「本来は護衛及び配達と言うのは奨めぬ。……だが、ブラックロース一体で怖じ気づいているお前を鍛えるには良いかもしれんな」
ブラックロースって、もしかして。
零はあの夜に二人の夕食となった不気味な四つ足の魔物を思い出す。
「死なない程度に俺も援護してやる。その依頼、受けてやろう」
「本当ですかっ?!」
少女は下げかかっていた顔をばっと上げ、嬉しそうに輝いた瞳でアシッドを見ていた。
一方零の顔は鍛えると言う言葉でげんなりとしていた。まあ、引き受けてあげたいと思っていたので、良かったと言えば良かったのだろうが。
「……あっ!正式にお願いするんだから名乗らなくちゃですよね。私、ファン・ストレツィアって言います」
「私はレイ……ううん!アメリー。私の事はアメリーって呼んで」
「……アシッドだ。だが受けると言っても、依頼料が低ければ撤回はするぞ?」
「あ、アシッド……!」
確かに零は金欠で、だからこその仕事探しだったが、それでも平穏世界で育ってきた零は子供から巻き上げようとは考えられない。後に一人で違う仕事を受けてでも、多少低い金額で引き受けようと思っていた。
「アメリーさんにアシッドさんですね。そう言えば依頼金のお話がまだでした。……聞き耳立てていた感じ、多分相場はこんなものだと思うのですけど……これでどうでしょうか」