第三章
夢小説設定
名前変換◆名前変換とは?
対応している小説で、主人公の名前をお好きな名前(自分の名前やオリキャラの名前等)に変えて小説を読む事が出来る機能です。
夢小説と呼ばれる事もあります。
勿論変換せずに普通の小説としてもお読みいただけます。
※変換名はcookie(ご自身のパソコンやスマホ内にある一時保存される機能)に保存されますので、管理人が知る事はありません。
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旅をするなら野宿など当たり前だ。けれども鞄一つという準備も全然出来ていない状態で、馬車も特別な護衛も無く、仲間はアシッドたった一人。それでこんな見知らぬ暗い森に寝ると言うのだから、零が臆するのも無理はなかった。
かと言って駄々をこねた所で、森の中で置いてけぼりにされれば元も子もない。
零ははぁと息を吐いてから、鞄から替えの服を取り出した。
「何をやっている」
「だってここで直接寝るんでしょう。私、寝袋も何も持って来てないもの。敷いたり被ったり出来るものと言えばこのぐらいだよ」
土の上にごろんと寝る訳にもいかない。冷たいし虫も居るし、全身土まみれだ。もしかしたら旅に慣れている人間ならばそうする事もあるのかもしれないが、零には毛布代わりの何かが欲しかった。
零の言葉にアシッドは呆れた目を向けながら、ばさりと布を一枚投げて寄こす。
アシッドだって先ほどまでは荷物を殆ど持っていなかったはずなのに。
掴んでみると体を包むには丁度良さそうな黒の布で、零はアシッドに不思議そうな目を向けた。
「え……?」
そこにいたアシッドには、肩から足の脹ら脛辺りまで纏っていたはずの黒いマントが無かった。アシッドはそれを脱いで寄越したのだ。
「あ、アシッド、これアシッドが着てたマントじゃない……!脱いだら風邪引いちゃうよ!」
慌てる零の言葉には心配も含まれていたのに、アシッドはそれをふんと鼻で笑った。
「そんな軟弱者では無い。それにあちらの大陸と比べれば大した事では無い」
「アシッド……」
魔王によって閉ざされた氷の地と化した、アシッドのいた南の大陸。そんなものと比べてはいけないと思うが、そこまでの言葉を掛けられては、零もこれ以上の事は言えなかった。
出しかけた服を完全にしまって、黒の布の端を掴むと大人しく包まる。そしてちょこんと出た顔でアシッドの方を向いてからお礼を言った。
「有難う、アシッド」
アシッドからは相変わらず返答はなく、焚き火の赤い光で照らされた顔を眺めるのみだった。
◆ ◆
幾世にも人に踏まれて道となった土が広がり、板葺きの屋根が並んでいる。ガラガラと薄汚れた馬車がその道を通っていくと、次にはのろのろと牛車が通っていく。
それらを覆っていたのは低い囲いのみであった。門も開け放しで、側に見張り小屋はあるものの、当番を押し付けられただけの町人らしき年輩の男が、ふわああと欠伸をして何やら簡単に書き付けていた。
ようやく町に辿り着いたのだ……!
都市と言える程ではない小さな町に、それでも零はわくわくと忙しなく顔を動かす。向こうから聞こえる子供の喧騒と、他愛ない大人達の立ち話が何とも心地好かった。
「わあ……!町だ!」
何せ数日ぶりの集落。町としてはシードとシャルナを訪れて以来だ。
あれから日が上っても薄暗い木々の下を歩き、時には川で洗濯しては魔法で魚を獲り、小屋がなければ野宿を数回と続け。
そしてようやく着いたのが、この町。
「ねえアシッド!町だよ!」
「そうだな」
「アシッド、反応薄い……」
零が顔を横に向けると、アシッドは興味のなさそうな瞳で取り合えずと言ったように町を品定めしていた。
「俺は寝る場所と食糧さえあれば良い。まあ、人がいればその分情報も入るし物も手に入る。良い事ではあるが」
「素直に宿があって美味しい食べ物屋さんがあって、おまけに酒場も商店もある町が嬉しいって言えば良いじゃない」
恐らくこの男、平坦な語調の通り町自体にあまり興味がないのだろう。利便性はまあ、あって損はないと言う程度か。
しかし零は面白がるようにからかってみせた。物は言い様、裏返して揶揄も出来る。
「……お前は今にも踊り出しそうな喜び様だな」
からかったとしても、こんなつれない相手ではあるけれど。
「お城から脱け出して数日、ずっと歩き続けだったじゃない。漸く辿り着いた町だよ?それに私はこの世界の町、殆ど見た事ないし」
城から脱け出したと言っても零は女王様でもお姫様でもない。罪ある囚人でも無いが、魔力が高いために捕まって軟禁されていたのだ。
……尤も、今頃は城を脱け出した事で手配書が回っているかもしれないが。
脱け出し方も相当なもので、零の横で偉そうに腰に手を当てて立っているアシッドが、魔物騒ぎに乗じて窓を破って侵入した。そのまま零を担ぎ、魔術で空を飛び逃亡。
――簡単に言えば誘拐と城への攻撃だった。
闇に紛れてアシッドの顔が見られていない事を祈るばかりである。
「嫌な騎士(やつ)に連れていかれるまでは元々旅をして色んな町を見る予定だったし、知らない綺麗な景色が見られるのって楽しいんだよ?」
「綺麗……か?」
町の人に失礼な言葉を返すアシッド。
そりゃ、城や大きな町と比べれば劣るのだろうけれど、コンクリートや鉄の無機質で整然とされた町に囲まれていた零にすれば、この世界の町の殆どはファンタジックで美しい景色だ。
そう。零は一年と少し前、違う世界からやってきた。
ただの女子高生で、召喚されたとか転生したとか、そんな大きな起点もなく気付いたら知らないベッドの上にいた訳で、どうやって帰ったら良いのか未だに迷い困っているのだが。
「……それで、どうしようか」
アシッドに担がれたまま辿り着いたこの地。空から着地した後も先導するアシッドに付いて歩いてきただけで、零にはここが何という町なのか、グラジオラス国内の何処にあるのかも全くわからなかった。
否、担がれていた時に見たグラジオラス城の方角を考えると、多分そこから南ではあると思うのだが。
広いグラジオラスの国で城から南と言っても、それは酷く抽象的な事だった。