第一章
夢小説設定
名前変換◆名前変換とは?
対応している小説で、主人公の名前をお好きな名前(自分の名前やオリキャラの名前等)に変えて小説を読む事が出来る機能です。
夢小説と呼ばれる事もあります。
勿論変換せずに普通の小説としてもお読みいただけます。
※変換名はcookie(ご自身のパソコンやスマホ内にある一時保存される機能)に保存されますので、管理人が知る事はありません。
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「……それで、これからどうする事にしたんだ?元の世界に帰る方法を探すのか?」
ことん、とシードの横に置かれるカップ。シードはお礼を言うと、ぽとりと角砂糖を落として混ぜた。
「それなんですけど……ご厚意に甘える形になって申し訳無いんですが、もう少しここに置いて貰って、この世界の事を勉強させて貰う事にしたんです」
「うん。そうだな。それが良い」
やはりこの世にはそれなりの危険があるらしい。糖分の含まれた紅茶をごくんと飲み込んだシードから即座に同意された。
けれど向かい側に座るエルドラーク夫妻は二人を窺うように見ていて、それからその同意の後に会話の途切れを見出だすと、そうっとこんな事をいってきた。
「ねぇ、レイちゃん。私達からの相談なのだけど……レイちゃんの事を唯一知るシードくんにも聞いてほしいの」
「「何ですか?」」
男らしい少し低く響く声と少女らしい中高音。それがぴたりと綺麗にユニゾンする。
「あのね……。この世界にいる間、私達の本当の子供になる気はないかしら?」
「ええ?!」
飛び上がるように驚いたのは零だった。シードも突然の事だなと反応を口に出せずにいたが、零ほどではなかった。
多少の手伝いをしているにしろ、助けて貰った上にただで身を置かせて貰っているのだ。それだけで有り難いのに、彼女達の子供だなんて。
それはこれからの生活も応援してくれると言う事だろうし、どこかに旅立ったとして戻ってくる家だと言う事になる。この世界での名前もエルドラーク姓になると言う事だろう。
単にお世話になる事の比ではなかった。
「嫌だったら良いんだ。無理にとは言わない。けれど私達は知っての通り、子供がいないだろう。レイちゃんには、全部子供のようにしてあげたいと思ったんだよ。それにどうもレイちゃんが気兼ねするのが気になってね」
「きっ、気兼ねも何も、現状でお世話になりっぱなしなのでっ……!」
「でも……それは流石に、まずいのでは」
非常識な零の存在を信じてくれ、親身になってくれたシードも今回ばかりは眉をひそめてそう言った。それに激しく同意するようにこくこくと何度も頷く零。
「そうですよ!見知らぬ人間を家族にするなんて」
「それもそうだが……レイはまだ知らないんだよな?エルドラークさんの事」
意味深にシードが問い掛けてくる。
その意味を探るように頭で問いを巡らせる零。
よく考えれば、この家は立派なものではないだろうか。わざわざ町から離れた場所に住んでいるのも気になる所だ。
科学の発達している現代の人間である零にはまだまだ不便な事は多いけれど、灯りはたっぷり使っているし、あの時の治療は彼らがやったものでそれは適切だった。
零を助けた理由は二人が親切だからだろうが、人一人を世話しても生活に余裕がある様だし、まだ入ったことのない部屋もある。その中には一体何が存在するかもわからない。
「……もしかしてお二人は、お医者さんとか貴族の方とか、身分のある人なんですか?」
そうだとしたら確かに、子供にならないかだなんてもっとよく考えて言うべきだ。
「当たらずとも遠からず。二人は錬金術師と魔術師さ。それもかつて城で働いていた事もある、ね」
「錬金術師と、魔術師……ですか?」
その言葉に思わず零は復唱した。
それなら医師でなくとも薬はありそうだし、治療もできそうではある。しかし魔法やら騎士やらだけでも十分にファンタジーなのに、そんな限られていそうな職種の人がこんな目の前に。
「そんなの昔の事でしょう。元、よ。元」
「それでもまだ、グラジオラスではお二人を必要としていますよ。……つまり、レイじゃなく多少の出自が明らかな人間だって、養子にするには慎重にならなくちゃいけない身分なんだ」
(そ、それって、下手したら私を拾った事だけでも問題なんじゃ……)
そんな凄い人が何にも疑わずにこんな不審者を匿うだなんて。本当に疑うべき人間を見る目があるからか。そうでなければ零は助けられた身ではあるが、いつか二人は誰かに騙されるのではと考えてしまった。
「わ、わ、私っ、大丈夫です!その、あと少しだけ勉強する時間は欲しいなぁと思いますけど、そうしたらちゃんと、出ていきますから!」
「ああ!レイちゃん、その辺は本当に気にしなくて良いのよ?私達はもう小さな町外れに住むただの老夫婦なんだから」
「シードくん、何でそんな風に言っちゃうかね……」
「俺が言わなくてもいずれわかる事じゃないですか。それに、本当に子供として引き取る気ならレイにも危険が及びます。どちらにせよ先に言っておくべきかと思いますよ」
軽く頭を抱えたディオルにもぴしりと意見を突き付けるシード。今まではシードが下で、二人にはとても敵わないという態度だったのに、その時は全く逆のようだった。
我が儘を通そうとする二人に言い聞かせるシードという図だ。
「……それは、わかっているさ。だからこそ君も併せて話を聞かせたんだ」
「まさか。俺達四人だけの秘密にする気ですか」
「こんな時代だ、同意と証さえあれば国に報告など要らないさ」
ディオルが放ったのは肯定の言葉。メニフィスもまた無言を肯定とした。
実際に貴族に隠し子が発覚する事だって間々あるものだ。それに村によっては納税の為のざっとした人数だけで、戸籍の管理だってしていない場所もある。
「……言葉や簡単に世界を知るためならばこのままでも協力は出来るだろう。が、私達が教えられる世界の歩き方は余りにも特殊だ。それを見ず知らずの人間に教えたという事には出来ない。それに私達の名前は危険も呼ぶが、逆もある」
高名な錬金術師と魔術師。彼女達が町と町の間を冒険者に護衛してもらったり、路銀を稼ぐ為に酒場の給仕や荷運びの仕事をした事があるのだろうか。或いは伝手などあろうか。
恐らくは自身で戦い道を拓き、然るべき場所で研究をしてお金を貰っていた。その真似事は上部だけでは出来ない。
ディオルが真剣な表情で語った横から、メニフィスが優しく、けれど哀しそうに問いかける。
「――それに、ここが異世界なら。レイちゃんのご両親もこの世界にはいない事になるでしょう?頼れる人も宛も、ないのでしょう?」
「……それは、」
一週間。零が目覚めて、ここが異世界だとわかって一週間。その間に元の世界の事を考えないはずがなかった。
それでも新しい刺激が、周りに溢れる優しさがその寂しさを紛らわせた。それだけの事だ。
思わず零も素直な表情をとってしまい、それがシードの目に留まる。
「……あの、少し、考えさせてもらっても良いですか」
向かい合わなくてはならない問題だとしても。今はとても、気まずい雰囲気で。零は答える事から逃げ出した。