第二章
夢小説設定
名前変換◆名前変換とは?
対応している小説で、主人公の名前をお好きな名前(自分の名前やオリキャラの名前等)に変えて小説を読む事が出来る機能です。
夢小説と呼ばれる事もあります。
勿論変換せずに普通の小説としてもお読みいただけます。
※変換名はcookie(ご自身のパソコンやスマホ内にある一時保存される機能)に保存されますので、管理人が知る事はありません。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
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用件も済んでリィンが去った後、零はノートと本を見比べて、やはりノートを選ぶ。
側面の紙に染み付いた汚れは外へ持ち出した時に付いてしまった土汚れだ。開くと表紙が浮くほどに書き詰めた一年間の思い出。
一ページ捲る毎に、ああ始めはこんな事も出来なかったな、この時はあんな失敗したなぁと懐かしさが込み上げる。
いつの間にか場所をベッドの上に変えて、楽しく雑誌でも読むようにパラパラと眺めていた。それに書いてあるのは小難しそうな文字の羅列だけれど、零にとっては楽しい時間だ。
「お義母さん……お義父さん……。今どうしているのかな」
グラジオラス国に来てからもう何日も経っている。連絡はない。あったとしても確認の為に何処かで止まっているのだろう。
逆に向こうに連絡は行ったのだろうか。ホムンクルスではないとわかった以上、否、もしも零がホムンクルスだったとしても恐らく何かは伝わっているだろうが。
帰りたい。
その思いが再び胸を打った。どちらの意味でもある。エルドラーク家にだって、元の世界にだって。
ばたん!と勢い良くノートを閉じると、零はそれをテーブルの端に置いて、中央の本の層から一冊を手に取った。
城についてと言った通り全ては城に関するタイトルであったが、その中でも知りたいのは騎士団の事だけ。城の構造も知りたいが、そこまで載った資料を部外者の人間に貸してくれるとは零も思っていない。
そういう訳でぱっと見て一番近そうな『グラジオラスの騎士たち』と言う本を選んだ零は今度は椅子に座り、真面目に本と向き合った。
始めには城の絵と王家の紋章、そしてその一部が使われた違う紋章が載っている。
続けてぱらぱらと捲ってみれば騎士団創設に至った経緯だとか初代団長がどうのと歴史が細かく書かれていた。そんなものは要らない。
速読をするようにページを飛ばして……勿論そんな特技はないので、ちらと見える文字から役立ちそうなページかそうでないか判断して、半分を超した時に零の指がページを押さえた。
「部隊の紹介……これだっ!」
まずは何事も一からで、騎士団長であり部隊長でもある男や副部隊長の肖像画が載り、横に部隊や彼らについての説明がざらざらと書かれている。顔に見覚えはないが、あの謁見の間で王の脇に控えていた騎士の着けていた鎧とそっくりなものを着ている。
零はへえ、と第一部隊を理解したような声をあげてページを捲り、他の隊員の肖像画と説明へ視線を移した。
ページ数は随分とある。しかし王の身を護るらしい部隊が属国に面した辺境の砦を任される訳もなく、当然の如くシードの名前は無かった。
次へ、次へ。捲っていけば捲っていくほど部隊の格が下がり、属する騎士も減って兵士ばかりになっていくからか、説明は簡素になり名前すら僅かしか挙がらなくなっていった。第五部隊のルキオス・クランドが精々下っ端の騎士として名前が載っていたくらいだ。
「……シードさんって載ってるのかな……」
不安になっていく零。
いくら零から見て頼もしい人間であっても、ここまでに名前は無いし、段々と名前自体が減っていく。
でも幾ら辺境とは言え砦を任されるくらいだし。
いや、そもそもこの本は最新なのだろうか、シードの事が調べられないくらい古いのではないだろうか。
……零のゆらゆらとした心が一息吐いたのは、十部隊の内の最後、第十部隊のページを開いた頃だった。
「あった!……って、ん?」
シード・イースランド。第十部隊で部隊長と副部隊長を除いた、唯一の騎士、らしい。
肖像画は色がなくとも彼のすっとした目と凛々しさがしっかりと描かれていた。同姓同名の人物ではなさそうである。
「それほど凄い人って事……?」
その前に紹介されていた八、九部隊でも部隊長と副部隊長しか載っていなかったはずだ。
騎士といえば凄い人。そんな事は元の世界の物語でも今の世界でもわかっていたはずなのに、改めて思い知る。そして、その唯一の理由を知りたくなって零は人物説明を食い入るように見つめた。
『――王国歴412年、グラジオラス国東にあるトゥルクの村に魔王の影響から醜悪な魔物が現れた。
動きは鈍かったために、討伐に訪れた第十部隊も始めは圧していた。しかしそれは幾ら切り刻んでも生きている。やがて一人、また一人と兵が倒れていく中、シードは彼の魔物を刺すとそのまま自分ごと谷底へと落ちた。
その後谷底からは息絶えた魔物の死骸が見付かったが、シードは遺体は見付からなかった。
こうして村は救われ、シードには功績から騎士の称号が与えられたが、後日、なんと彼は生きて戻ってきた。かの高名なエルドラーク家に助けられていたのだ。
彼は今も第十部隊で活躍している――』
そこでシードの説明は終わっていた。
零は数秒、本に顔を近づけたまま呆ける。
魔王やら勇者やらと同じ、まるでお伽噺だ。けれどもエルドラーク夫妻に助けられたとシードは確かに言っていた。
本だから脚色されている事もあるだろうが、これは恐らく真実なのだろう。
「……あ、えっと。場所、場所……」
漸く呆けから脱却して、本来の目的を思い出す。そして騎士団の説明に視線を戻した零には、次なる衝撃が待っていた。
「『このように第五部隊までとそれ以下には大きな格差があり、兵舎も城の区画内と城下町とに分かれている』……」
つまり、第十部隊の兵舎は。
「ま、町に行かないといけないって事?!」
城を脱け出したくて探していたのに、シードと会うにはその前に城から脱け出さなければいけないとは。
それに、兵舎があるからと言って必ずそこに居るとも限らない。任務が終わったから帰っただけでその後の事は知らないのだから。