第一章
夢小説設定
名前変換◆名前変換とは?
対応している小説で、主人公の名前をお好きな名前(自分の名前やオリキャラの名前等)に変えて小説を読む事が出来る機能です。
夢小説と呼ばれる事もあります。
勿論変換せずに普通の小説としてもお読みいただけます。
※変換名はcookie(ご自身のパソコンやスマホ内にある一時保存される機能)に保存されますので、管理人が知る事はありません。
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外に出ると、家の傍にはシードの愛馬が繋がれていた。黒い毛並みの凛々しい顔立ちなのに、主人が近付くなり待ってましたとばかりにぶるるると息を吐き出す愛嬌がある。
(ふふ。君、ご主人様に似てるね)
声には出さないが、零はそう思いながら馬に笑いかけた。それを見て、馬を撫でていたシードも微笑む。
考えが筒抜けならば冗談混じりの文句も出ようが、兎も角相棒を気に入ってくれたのを感じたのだ。
「アルスって言うんだ、こいつ」
「へえ。良い名前だね。格好良い」
「はは、有難うな。良かったなアルス」
アルスは気を良くしたようにタイミング良く鳴く。併せてシードがぽんぽんとアルスに触れながら礼を言った。
「――でだ。これからこいつでシャルナに降りる」
「え?」
シードの言った通り、確かに零の考えていた外とは違った。
シャルナ。それは、ここから一番近い町だ。けれど零はまだ一度たりとも町へ降りた事はない。
そろそろ知識も増え、外へ出るには良い頃合いだったかもしれないが、町に降りる用事も無ければ、きっかけがないと何となく始めの一歩は踏み出し辛かった。
零は本では兎も角、実際にはこの世界をエルドラーク家しか知らない。他の場所がどんなものなのか、ずっと気になっていたのも事実で。
「ほっ、本当?!お、お義母さんやお義父さんには?」
「勿論、言ってある。たまには外で息抜きしてきたら良いってさ。俺だって一応騎士の端くれだし、護衛には不足ないだろ?」
「も、勿論っ!」
と言うか、変に知らない人間の護衛よりもずっと、何倍も、シードと一緒に町を回るのは素晴らしい話である。
興奮ぎみに頷き返事をする零を見て、シードは楽しそうに、そして満足そうに笑っていた。
「じゃ、まずはアルスの背に乗ってくれ」
アルスと木を繋いでいた綱を解いて、シードはその黒いがっしりした背を指す。が、そんなに簡単そうに言われても日本人で一般人な零は戸惑うばかりだ。
……まあ、この世界でも乗馬は誰にでも出来る事でもなくて。
「怖いことじゃないさ。ほら、俺も手伝うから。ここに足を乗せて……そしたら俺が後ろから持ち上げるから、どんな風でも良いから乗っかって」
「だ、大丈夫?えっと……よいしょっ……、と」
馬に乗った事などない零は、シードの手を借りてよじ登るようにアルスの背に座った。こんなぎこちなく下手くそな登り方では馬が暴れてもおかしくないが、そこは流石シードの愛馬で、あれほどぶるると鳴いていた声も出さずに大人しく乗られている。
一方のご主人シードはひょいっと華麗に乗り上げて、零の背を預かるように座った。手綱を持ち、軽い引きでアルスに合図を送る。それに合わせるようにアルスは方向を定め、走り出した。
がくんがくんと初めての揺れに、零は完全にシードに身を任せる。手綱を操るために回された手が、ついでに零を押さえ込んでいて、取り合えず大人しくしていれば安心ではある。が、移動手段であるからには早く、車のように窓越しの景色でもなくて、零の体は強張っていた。
「……やっぱり馬は怖いか?」
「う、うん……初めてだし。シードさんに任せていたら、絶対に落ちないのはわかってるんだけど……」
「お。そりゃ嬉しいこと言ってくれるな」
幾ら一番近い町と言えど距離があって、シードは退屈させない為か怖さを紛らわせる為か度々零に話しかけた。
やがて馬の乗り心地にも慣れ、と言うよりはお尻の感覚が麻痺してきたのかもしれないが、暫く経った頃に民家がぽつぽつと見え始める。
エルドラーク家よりは随分と小さいが、普通の家ならこのぐらいだろう。傍には田畑もあって、恐らくは町の端であった。
その道をアルスが駆けていく。
零は畑自体も興味ありそうに眺めていたが、やはりシードが連れていきたいと思ったのは町中で、段々と整備された道に乗り、店がちょこちょこ増え始めた場所でアルスを停めた。
馬小屋を持っている店で少しのお金を払って馬を預けると、二人はようやく自分達の足で自由に歩けるようになる。……が、零にはじんじんする感覚の方が気になるようだ。
「う、馬って結構大変なんだね。もう少し優雅なものかと思った」
「悪いな、大丈夫か?……少し何処かで休むか?」
「ううん。想像以上にお尻が痛くなっただけだし、町を見て回るのは楽しみだったから、行こう!……少しの間は立っていたいしね」
休む名目でも、今は座りたいとは思えない零は、そう言ってシードの手を引いた。心配してくれるシードに大丈夫だから行こうと示したかっただけなのだが、少ししてから恥ずかしさに気付くと、ぱっと手を離した。
そんな事をしながらも、二人は小さな町並みを歩く。
零にすれば建物の背も小さければ、造りも簡素と言うか素朴と言うか。少し町から外れた道並みにある個人商店のような店ばかりで、見える限りはデパートどころか小規模なスーパーよりも小さい場所しかない。
それでも久しぶりのエルドラーク家以外の建物に、まばらでも行き交う見知らぬ人が零には嬉しかった。
ふと目に入った食べ物屋さんでは、初めて見る物が売っている。本では見たことがあったが、異世界ならではの食べ物に目を引かれて、そしてはっと気付いた。
「あ……。私、お金持ってない」
別に見るだけでも楽しいし、お金が無くても町に来た意味はある。ただ、ふっと食べたいな、食べようかなと考えた時に気付いたのでそう漏らしてしまった。
するとシードは笑ってから、零の欲しそうなもの確認する。
「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ。お兄ちゃんに任せなさい」
前にからかった事を根に持っていたのか案外気に入ったのか。
零がぷっと吹き出してしまった時には、シードがお金と引き換えに不思議な棒付きのパンらしきものを受け取っていた。