第一章
夢小説設定
名前変換◆名前変換とは?
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夢小説と呼ばれる事もあります。
勿論変換せずに普通の小説としてもお読みいただけます。
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おやつの後の運動、とまではいかないが、零が魔術を勉強し始めた事を聞いたシードがどのくらい出来るようになったか見せてくれと言ってきた為、魔術実習室で初歩中の初歩の魔法を見せる事になった。まだそれ以外は使えないのだが、零にとっては自分の体から魔法を発動出来るだけでも感動物だった。
「じゃあこの土を浮かせます!」
どんっ、と用意したのは植木鉢。そこにはしっかりと土が盛られていて、けれど植物も何も植えられておらずそれだけだ。
零はそっと植木鉢に手を翳して魔力をイメージする。体の中に漂い巡る力を、指先へ移動させるように。そのまま目標をしっかり確認する。
そしてこの魔力で目標が浮くようなイメージを浮かべ、呪文(キーワード)を唱えた。
「欠片の通り道(アルメ・ダ・サッソ)!」
……。…………。
何も動かず静かな数秒。
失敗したのかとも思える空白だったが、零はまだ集中していてシードも静観している。すると漸く、土の中のほんの一欠片だけがゆっくりと浮かんだ。
「はあ、はあ……こ、こんな感じですっ」
「おお。ちゃんと使えるようになったんだな」
一人分の軽い拍手は寂しい音だが、頑張った零には嬉しいものだ。
「は、はいっ!」
べちゃっ。
シードに返事をした瞬間に浮いていた土は絨毯へと落下した。
あっ……という顔をした零は直ぐ様箒と塵取りを持ってきて土を取り払う。
(ははは……まだまだだな。まあ、まだ始めたばかりじゃ仕方ないか)
シードは心の中でメニフィスのように微笑ましく見守ると、鉢の片付けを手伝った。と言っても片付けるものは鉢と土とテーブルだけなので、それは直ぐに終わる。
「ところでシードさんって隣の国の騎士なんですよね」
そう零が聞けば頭に軽いチョップが振り落とされる。
「敬語。」
「……やめていいの?じゃあ……騎士、なんだよね」
「ああ。それがどうかしたか?」
たった二文字でも零には言いたい事がわかったので訂正する。しかしシードの方は零の言いたい事がわからないようだ。
「こんなに家に来て大丈夫なのかなって思って……。王国の騎士って言うからには、すごく忙しいだろうし。場所が近いとしても隣近所って訳でもないでしょ」
毎日でないにしろ、零がここに来てから三度目だ。王国騎士なんて大層な肩書きだと、年に一回でもおかしくないように思えるのに。
不思議そうな、けれど無理しているんじゃないかと言う心配も含めた顔に、シードは安心させるように笑った。
「それは大丈夫だ。国境の仕事と言っても警備が怠けてないか見ているのと、周辺貴族の小間使いみたいなもんだからな。平時は暇なんだ。……書類仕事はあるけど、苦手だし」
「あはは。体を動かしている方が好きなんだ?」
「そりゃそうさ。だから騎士になったんだしな。ま、そんな仕事が一年続くんだ。時々は顔見せに来ても構わないだろ」
もう拾われてからそれなりの日が経っているのに、シードは今も零を拾った責任を感じているようだった。それを考えると、仕事を大した事がないと言うのも実際はそうでもなくて、シードの優しさかもしれない。
「……シードさん」
「ん?」
「無理はしないでね」
「おう」
まあ、どちらにせよ零にはわからない訳で。
ただ、少ない言葉を出せば、同じく少ない言葉が返ってきた。
そこにあるお互いの微笑みが、伝えたいことを伝えていた。
「……そうだ。シードさんのいる国ってどんな所なの?」
「お。この世界の勉強か?」
「それもあるけど……。単純に興味もあるから。グラジオラス、だったよね。この大陸の北の殆どを持ってる国」
幾つもの本に載っていた世界地図を思い浮かべる零。
まだ測量技術が未熟なのかそれが広まっていないだけか、それぞれ微妙に違う形であったり位置ではあったが、おおまかには一緒だった。特にグラジオラス国。地図からして元の世界での中国ほどに広い領土だから、間違えようが無かったのだろう。
「そうそう。大陸……いや、この世界では一番力を持つ国かな。今いるラミウムを含めた周辺国を属国としてる王国で、グラジオラス十一世が治めてる国。今代は子供に恵まれず王子は二人のみ。十九の地方に分けられていて、国土が広い分その地方ごとによっても特産物がかなり変わってくる。学術や魔術も世界で一、二番目に発展している国だ」
取り合えずの概要を語ったシードは、真面目に聞く零を眺めてからふっと笑うように息を落とす。
「……なんて話、つまらないよな。帰るのに役立ちそうな魔術師の事とかはエルドラークさん達の方が詳しいし。……うーんと、ここから近い地方だと果物が有名だ。それを使ったデザートとかも結構あるぞ」
「へえ……!今日持ってきた果物とか?そのデザート、シードさんは食べたことあるの?」
「ああ。甘いもんは疲れた時に良いしな、国境の奴等と一緒に食いに行ったりもした」
「それは……凄そうな光景だね」
知らない国名やら小難しい話ばかりだと勉強にはなるが、自然に興味をそそるのはこんな話だ。食いついた零にシードも嬉しそうにして続きを話す。
「観光地も色々あるぞ。何せ初代勇者の出身国だからな。伝説の何たらっていうのがあちこちに残ってる」
「初代勇者って……確か国王になったんだよね?」
「おお。よく勉強してるな、レイ」
またわしわしと零の頭を撫でるシード。本当はよく勉強しているという程度の話ではないだろうが、シードはやはりエルドラーク夫妻と似ていて、零を甘やかすのが好きなのかもしれない。
「そう。初代勇者は国王だから、わりと丁寧に伝説が残されてるし色々と楽しめると思うぞ。ただし……中には魔窟が観光地になってる場合もあるから注意が必要だが」
「魔窟って……あの、魔物が出るって言う魔窟?それが普通に観光地になってるの?」
そんな所を観光地にしても良いのだろうか、と思う一方、勇者に憧れる冒険者に魔物を倒してもらっているのかもしれない、と言う世知辛い考えが浮かぶ零。
「そうそう。別名、魔王の軌跡」
「魔王の……軌跡?」
その名称に、魔窟そのものについてはまだ調べていない零は首を傾げた。魔窟と言う言葉だけで大体どんなものかは理解できるし、そこまで細かく調べるほどまだ世界を学んでいない。
「魔王は何らかの災厄を運んでくる。魔窟もその一種さ」