第一章
夢小説設定
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慣れていない上に久しぶりに体を動かし、疲れ果てた零はふしゅう、と何かが抜け出たようにテーブルに凭れ掛かっている。魔術の勉強はお昼を食べてからと言う事で、昼食まで休憩を取っているのだ。
この様子を見たメニフィスも始まる時はにこやかに見守っていたのに、今では苦笑いを浮かべていた。
「あなた。零が疲れきってるじゃない」
「いやあ、つい嬉しくなって張り切り過ぎてしまった」
「まあ、弟子をとっていたのももう何十年も前ですものね。レイに教えるなんて尚更よねぇ」
はははと頭を掻きながら笑うディオルに、頬に手をあてて感慨深いように返すメニフィス。
気持ちはわかるのだ。子供に自分の事を教えるなんて何て嬉しいことだと。けれど結果大切な子供がこれでは……。
自分も後で気を付けなければと心に決めると、メニフィスは昼食を作るためにキッチンへと向かった。
「あ……お義母さん……昼食作り手伝うよ……」
へたれていてもそれを見た零が後ろからついてくる。けれどよろよろとやって来たその姿は、手伝って貰うにはあまりに可哀想なものだった。
「いいから、今日は休みなさい。その内あの人の授業に慣れてきたら手伝ってもらうから。ね?」
「う……。は、はーい」
優しく肩を押さえられ、広間に向けて体を回れ右されてしまえば、疲れた体は従ってしまう。一体何度甘えさせて貰えば自分は気がすむのだろうと思いながらも零はまたテーブルにぐでりと倒れた。
それから少しして出された昼食は山菜と果物のサンドイッチだった。二人で採ってきた薬草の中には食材としても優秀なものが幾つかある。折角なのでそれと家に蓄えてあった果物を挟んだのだった。
「美味しい……!」
「ふふ。それは良かったわ」
「体を動かしたからお腹が減っているだろう。どんどん食べなさい」
美味しさに笑顔を浮かべて頬張る零の手は止まらない。元の世界に比べれば上等なパンでは無かったけれども、それでも良いパンを使っているし、山菜は自分の採ってきた新鮮な物。何より空腹が一番のスパイスだと誰かが言っていた。
ぺろりと昼食を平らげて少し体力の回復した零は、その代償にやってきた眠気を払うため、ぱんぱんと頬を叩いて気合いを入れる。
「よーし。魔術も頑張ろう」
「あら?もう大丈夫なの?レイ」
「うん。お義母さんこそ、もう片付けは終わったの?」
「ええ。それじゃ、ついてらっしゃい」
案内された部屋は魔術実習室、とでも言えば良いか。魔術耐性が高いらしい素材で作られた壁紙や絨毯が敷かれて、またそこに幾つかの制御用魔方陣が描かれている。あとは端に棚と小さな椅子と机が一脚ずつあるだけのがらんとした部屋だった。
「こっちがよく魔術を実験する部屋。森の中でも簡単なものなら人がいないからやろうと思えばできるのだけど、火属性や強力なものはちょっと困るでしょう」
「火事になったら大変だもんね……」
「そう。魔術は扱い方によっては危険なものになるわ。あの人の錬金術だってそうよ。……だから、レイ。私達は、あなたを信頼しているからね」
魔術をそんな風に使わないと。錬金術をそんな風に使わないと。零は手を握られたまま、こくりと頷いた。
「さて……。魔術。簡単なものや小規模なものは魔法と呼ぶから、今のあなたなら魔法ね。それを学ぶ前に基本的な確認をしたいの」
そう言うとメニフィスは何処からともなく水晶玉を取り出して、零に差し出した。
「これを両手で掴んで、どんな感情でもどんな思いでも良いわ。とにかく思い切り念じてみて」
「念じる……」
水晶玉を受け取った零は少し戸惑いつつも、取り合えず言われた通りに両手で握る。
(えっと……えっと……強く思える事……。そうだ。帰る方法を探したい。魔法が使えるようになればもっとこの世界にも適応できるし、きっと色んな事がわかるはずだよね)
ぱき……ぱき……。水溜まりが少しずつ氷結していくような音。
その反応が正しいのか、反応している事自体が正しいのか。メニフィスはその様子をじっと見つめている。
(そもそも誰が私をここに連れてきたんだろう?或いは何が……。こんな女子高生一人連れてきたって何にもならないのに。ただ私が困るだけなのに)
ぱき……ぱき……!音は次第に広がっていく。強くなっていく。透明だったそこからは、縦の亀裂が幾つも走っていた。
それが明らかに異様な勢いと量になった時。ようやくメニフィスがはっと目を開いた。
(そうだ。皆に会えないのも。家に帰れないのも。ご飯の味が違うのも。携帯なんか繋がらないどころかもう電源も入らない。全部。全部、その所為なんだよね。……その原因が見つかったら?それがもし人間だったら、私)
「っ!レイ、手を離して!」
『……だから、レイ。私達は、あなたを信頼しているからね』
ばきばきばき……!全方位から水晶玉の中心へ、一斉に生まれゆく亀裂。もはやそれは模様で、水晶ではないもう一つの宝石のようだ。
しかしただ美しいと見ている事はできない。
端から端にまで達した無数の亀裂から冷たい霧が勢いよく噴出される。細かな白は迷うこと無く零をぶわりと包み込む。
それはメニフィスが叫んだ直後で、はっとした零がそうすることも、メニフィスが魔術を使って止める事さえも叶わなかった。
「……そんな……」
どういう事が起こったのか。頭の中で吐き出される結果にメニフィスは落胆、否、それ以上のものを抱いて茫然とするしかない。
その視界の先には今のメニフィス同様、全てを塗り潰すような白が留まっていた。
この白い霧は魔力が具現化されたものだ。
それが、全てを。
零をも、塗り潰すように。
その最悪な結果を理解したくないと巡らせた次の瞬間、ぽんっとクラッカーでも鳴らすような破裂音がして、白の霧は一気に取り払われる。
元通りになったメニフィスの視界に映ったのは、ごとん。と水晶玉を転がり落とし、驚いた表情で座り込む零の姿だった。
「レイ……!」
「び、吃驚しちゃった……。わっ!お、お義母さん?!」
「良かった!私、まさかレイが魔力に呑まれてしまったかと……!」
メニフィスは零を勢いよく駆けて、ぎゅっと抱き締めた。
とは言え水晶玉を渡したメニフィスは起こった事を理解している。勢いで噴出した霧の事も、助かった理由も。
心配させてしまった申し訳なさと息苦しさにぱたぱたと慌てる零が解放されるのに、それほど長い時間は掛からなかった。
「……あの水晶玉はそれぞれが持っている系統と魔力量を計測するのに使うものだったのよ」
「そ、そんな大切そうなものを……私、壊しちゃったんだ……」
「これを渡したのは私だし、そんなに高価なものではないから気にしないで」
そうは言うが、傍らに転がるあの玉はヒビだらけで、間違いなくもう使い物にはならないだろう。
「それよりも今の計測で大切だったのは系統と魔力量よ。人には乾・湿・冷・熱の四種の内、どれか一つの得意な系統を持っているわ。それによって使える魔法の属性が変わってくるの」
冷気を生み出した零は冷の系統らしい。冷系統の属する魔法は水と土。逆の火や風は使えないわけだ。
ではメニフィスの系統はと聞くと、彼女は乾と熱らしい。……本来一つしか持てない系統を二つ持っていると言うところが、国からも一目置かれている魔術師たる由縁だろう。
「……そしてもう一つ大切なこと。あなたが無事だったことよ」
「っ!」
「レイ。あなたは凄い魔力の持ち主だったみたい。計り方は色々あったのだけど……系統と魔力量を別々にしていれば暴走はしなかったでしょうね。ごめんなさい」
「そんな……私がやった事だもの!私の所為だよ。それに私……」
あの時、何を思っただろうか。
零は何と無く気付いていた。暴走は恐らく、あんな憎悪の念を浮かべてしまった所為だ。いくら何でも良いと言われたって、危険なものだと事前に注意されたではないか。
「レイはやっぱり良い子だったわ。私の目に狂いはなかったのよ」
「……え?」
「あのままだったらきっと、暴走する魔力に呑まれて今のレイはいないわ。でも最後にはあんな軽い音で、ぽんっと消えてしまったじゃない?……あなたが、きちんと誤った使い方をしてはいけないと思ったからよ」
「……お義母さん」
「さあ。何でもなかった事だし、教える事はまだあるわよ?次は座ってお勉強だから、私の部屋にいらっしゃい!」