ミッドナイトをめざして
「さむー!いよいよ冬やなあ!」
「ほんと、急に冷え込んできたよね」
12月も中旬に差し掛かった冬本番のポチャッコ王国で、チャコとアルペックは一ヶ月振りの休日デートを楽しむべく顔を合わせていた。
主の付き添いという形でお互いの住む国を訪問し顔を合わせる機会は何度かあったが、師走に相応しく最近は二人とも騎士の仕事に追われる日が多かったため、主を相手の王国へ送り届けた後の付き添いは同行の護衛に任せ、挨拶を交わしてすぐ自分は仕事のため国に戻るということが多かったのだ。そのため、デート以前に二人がまともに顔を合わせること自体とても久しぶりだった。
「こうしてアルと顔を合わせて話すのも久々だね、元気してた?」
「もちろん!でもお互い忙しかったとはいえ、チャコとなかなか話せなかったのは寂しかったなー」
「話せなかったって言っても、ほぼ毎晩電話で話してたでしょ?まったく、アルは寂しがりやだね?よしよし」
「ん〜、それはそうだけど。電話と直接話すのじゃちが……ってチャコ!オレは子供じゃねえけん!」
久しぶりに対面したアルペックは相変わらずよく動きよく笑い、くるくる変わる表情やテンションが忙しくてやっぱり目が離せない。
つい先ほどポチャッコ王国の入り口に到着したアルペックをチャコが迎えに来た時もそうだ。チャコの姿を確認した途端パッと表情を明るくし勢いよく抱きついてきたかと思えば、挨拶もなしにごめん!と慌てて離れ、おろおろしながら申し訳なさそうな表情で謝られた。
出会い頭の1分ほどでよくここまで表情を変えられるなと感心したと同時に、別に離れなくても良かったのに……と、ちょっとだけ不服に思ったのはここだけの話だ。
また子供扱いする……と不貞腐れながら大人しくチャコに頭を撫でられていたアルペックだが、早くデートに行こ?とチャコが小首を傾げてみせると、うん!と途端にむくれ顔が満面の笑みに変わった。ちょろすぎて少し心配になるが、アルペックにはずっとこのままでいてほしい。
斯くして、二人の休日デートが幕を開けた。
✦
「アルは今日服が見たいんだっけ?そしたらあっちの大通りの方がいいかな」
「んー、服というよりマフラーとか防寒具?いい加減冬支度せんと凍えそうなのに、去年買って使ってたマフラーに虫喰いできててな〜」
「去年買ったのにもう虫喰いって……ちゃんと保管してなかったんじゃないの?それ」
「わからん!けど、穴あきで風通し良いマフラー使うのは勘弁やー!」
デートといっても普段からお互いの国を行き来する機会が多く、お互いのおすすめスポットや所謂デートスポットと言われる場所は行き尽くしてしまっているため、今日の予定も街中をのんびりと散策しながらショッピングを楽しむというものだった。デートというほど特別感がないと言われたらそうかもしれないが、念願叶って恋人同士になることができたアルペックとのデートという時点でとても嬉しくて、どこで何をするかなんてチャコにとっては二の次だ。
ふらふらとショッピングを楽しみながら最近オープンしたかぼすジュースが飲めるドリンクスタンドに立ち寄ったり、新作のバナナアイスがメニューに加わったというカフェに入ったりとなんだかんだ寄り道しながら歩き回っているうちに、チャコが気が付いた時にはあっという間に辺りは寒夜の冷たい空気に包まれていた。
「いやー!あっという間に夜になっちゃったな、めっちゃ楽しかった!」
「俺も楽しかったよ。でも、アル……結局マフラーは買わずに終わっちゃったね」
「そうなんよ〜なんかこうな、もうちょっと!惜しい!みたいなやつはあったんだけどな?また次のデートの時に探す楽しみにとっとくわ」
「あはは!それじゃ次に俺と会うまでは風通しの良いマフラーで我慢だね?」
さり気なく次のデートの約束を交わしつつ、一緒に過ごした時間を楽しげに振り返りながらも、それを名残惜しむように二人の歩くスピードは次第にゆっくりなものになっていく。
今日のデートの終わりを感じる雰囲気に寂しさを感じてしまったチャコの口から、つい「まだ帰ってほしくないな」という言葉が溢れてしまいそうになったが、それを誤魔化すように慌てて口を噤んだ。チャコのわがままでアルペックの帰宅を遅らせてしまっては申し訳ないし、何より明日からまた騎士としての日常がやってくる。ここでアルペックを引き留めて万が一風邪でも引かせてしまったら、自分の主と良好な関係を築いているペックル様にも顔向けできなくなってしまう。
急に黙り込んでしまったチャコを心配するように顔を覗き込んできたアルペックに、そろそろ帰らないとだよね?と何食わぬ顔で投げかけようとしたその時、ふとポチャッコ様のお城の前に飾られた大きなクリスマスツリーが目に入った。
「うおー!キラキラのでっかい木だ!夜だと電気が付いてさらにキラキラで綺麗やな〜!」
「キラキラのでっかい木って……でも、本当に綺麗だね」
ポチャッコ様が自ら飾りつけに奮闘されていたそのクリスマスツリーは、赤や緑のリボンや星のモチーフなど、たくさんの飾りとあたたかなイルミネーションで彩られたとても大きく賑やかなものだ。先週の昼間にポチャッコ様が飾りつけをされる姿をチャコはすぐ側で見守っていたし、今日アルペックと街中を歩いていた時も何度か近くを通りかかってはいたものの、イルミネーションが点灯された夜のツリーを見るのはチャコも初めてだった。
大きなクリスマスツリーの周りにはポチャッコ王国に住む人々はもちろん、他国から遊びに来ていると思われる観光客の姿もちらほら窺える。刺すような冬の冷たい空気とは裏腹に、やわらかな淡い光に包まれたツリーを見上げる人々の表情も、優しくあたたかなものに見えた。
ちょっと眩しいな!なんて笑いながら、冷えた両手を擦り合わせて暖を取ろうとしているアルペックの横顔にちらりと視線を向ける。そのまま自身のがら空きの両手へと視線を落とした。
……手、繋ぎたいな。
隣で子供のようにはしゃぎながらクリスマスツリーに見惚れているアルペックに伝えたら、どんな反応をするだろうか。普段なら照れが勝ってしまうため、手を繋ぎたいだなんて言えた試しがないチャコだったが、今ならきっと言える気がする。意を決したチャコがアルペックに声をかけようと顔をあげると、いつの間にかツリーからチャコの方へ顔を向けていたアルペックと視線がぶつかった。
「どうしたの?アル」
「チャコさ、もしかして手とか寒かったりする?」
「えっ……と、それは、うん。今日すごく冷えてるし。それがどう、し……!?」
チャコの返事を遮るように、アルペックが自身の右手を握ってきたかと思えばそのまま指を絡め取られ、しっかりと恋人繋ぎにされた。アルペックに先手を打たれたことに対する驚きと、自分と同じように手を繋ぎたいと思ってくれていたのかな?という嬉しさで上手く言葉が出てこない。何も言えないままアルペックの顔を見つめていると、繋いだ手を確かめるようにぎゅっと強く握られ、繋いだ手ごとそのままアルペックのアウターのポケットへ突っ込まれた。
な、なにこれ……?何をされているのか理解できないまま、繋いだ手ごと急に引き寄せられたチャコは、勢い余ってよろけるようにアルペックの身体へぶつかった。
「わぶっ、あ、え?あ、ある……?」
「チャコ〜これなら寒くないな!」
アルペックのポケットの中で繋がれたままの手を何度も握られ、じわじわと気恥ずかしさと嬉しさが入り混じった感情がチャコを襲う。
きっと今、チャコは変な表情をしているだろう。アルペックに悟られないよう空いている左手でパーカーのフードを引っ張り、さりげなく顔を隠した。
「確かにあったかいけど!でもこれ、ちょっと動きにくいよ?」
「今はクリスマスツリー見てるだけだし、ちょっとくらい動きにくくても大丈夫!」
「う、動きにくいのは100歩譲ったとしても、この体勢……普通に手繋いでいる時よりもアルが近くて、その」
「あれ?チャコん顔赤くなってる、もしかしてドキドキしてくれた?……かーわいい」
「これは!寒くて冷えたから赤くなってるだけで、照れてるとかじゃ……!」
「オレはこうしてチャコと手繋ぎながら一緒に過ごせて嬉しいし、ドキドキしてちょっと照れてる!チャコは?ドキドキせん?」
「……俺も嬉しい。本当はアルと同じでちょっと照れてるし、心臓うるさいくらいになってる。その……恥ずかしいから、これ以上は言わせないで」
繋がれた手をそっと握り返しながら、自分の今の気持ちを素直に口にしてみる。
本当にアルには敵わないよ。頑なになった俺の心を、太陽みたいな笑顔とまっすぐな言葉であたたかく包んでくれる……そんなアルが俺にはちょっぴり眩しくて、何だかもったいない気さえする。
それでもアルペックの隣を他の誰かに譲る気なんて更々ないから、あれこれ巡らせていたネガティブな思考は投げ捨てて、数分前に口を噤んで隠してしまったアルペックへのわがままを口にしてみた。
「あのさ、アル。もう少しだけ帰らないで一緒に居てほしい……ダメ?」
「……!もちろん!!!!」
「ふふっ、ありがと。あと、抱きしめてほしいな?」
「!?今日のチャコなんだか積極的やな!そげなチャコもしんけん好きやし、もちろん抱きしめる!!」
「あはは!いい返事。俺もアルのこと大好きだよ。……ほんっと、アルを見てると眩しいよ。イルミネーションも顔負け」
「ん?オレは別に電球とかキラキラするもの何も身に付けてきてないけどな〜?」
「そういう意味じゃなくって!……アル、アルはずーっとそのままで俺のそばにいてね。約束だよ?」
「当たり前やん!来年も再来年も、ずーっと一緒にいような!チャコ!」
その言葉と共にアルペックのアウターのポケットの中で繋がれていた手が離され、一瞬寂しさを感じたのも束の間。まるで大切な宝物でも守るように優しく、しっかりとアルペックに抱きしめられた。大好きな恋人から貰った言葉とぬくもりを大事に守るように、チャコもアルペックの背中へゆっくりと腕を回す。
幸せすぎて怖いくらいの、アルペックとの愛おしい時間がずっと続きますように。
柄にもなくそんなことを願いながらアルペックの顔を覗き込んだチャコは、今度は自分が驚かせる番だというように、一瞬にこりと笑みを浮かべてみせる。不思議そうな表情で見つめ返してくる愛しい恋人の首に両腕を回したチャコは、冬の空気で少しだけカサついたやわらかなアルペックの唇へそっと口付けた。
「……!!!!ちゃ、ちゃ……!」
「あははっ、アルったら顔真っ赤になってる!」
同じくらい赤くなっているであろう自身の顔と、僅かに涙で濡れた眦を隠すように再びアルペックの背中に両腕を回し、その肩口に顔を埋める。恋人の温度と匂いを確かめるようにしっかりと抱きつき、深く息を吸った。
びっくりした!と顔を赤くして嬉しそうな笑顔を浮かべているアルペックに名前を呼ばれ顔を向けると、ほんのりあたたかい両手がそっとチャコの頬を包み込んだ。
今度はオレの番だとでもいうように、イタズラっぽい笑みを浮かべたアルペックの顔が少しずつ近づいてくる。最愛の人からの口付けを受け入れるべく、チャコはゆっくりと瞼を閉じた。
「ほんと、急に冷え込んできたよね」
12月も中旬に差し掛かった冬本番のポチャッコ王国で、チャコとアルペックは一ヶ月振りの休日デートを楽しむべく顔を合わせていた。
主の付き添いという形でお互いの住む国を訪問し顔を合わせる機会は何度かあったが、師走に相応しく最近は二人とも騎士の仕事に追われる日が多かったため、主を相手の王国へ送り届けた後の付き添いは同行の護衛に任せ、挨拶を交わしてすぐ自分は仕事のため国に戻るということが多かったのだ。そのため、デート以前に二人がまともに顔を合わせること自体とても久しぶりだった。
「こうしてアルと顔を合わせて話すのも久々だね、元気してた?」
「もちろん!でもお互い忙しかったとはいえ、チャコとなかなか話せなかったのは寂しかったなー」
「話せなかったって言っても、ほぼ毎晩電話で話してたでしょ?まったく、アルは寂しがりやだね?よしよし」
「ん〜、それはそうだけど。電話と直接話すのじゃちが……ってチャコ!オレは子供じゃねえけん!」
久しぶりに対面したアルペックは相変わらずよく動きよく笑い、くるくる変わる表情やテンションが忙しくてやっぱり目が離せない。
つい先ほどポチャッコ王国の入り口に到着したアルペックをチャコが迎えに来た時もそうだ。チャコの姿を確認した途端パッと表情を明るくし勢いよく抱きついてきたかと思えば、挨拶もなしにごめん!と慌てて離れ、おろおろしながら申し訳なさそうな表情で謝られた。
出会い頭の1分ほどでよくここまで表情を変えられるなと感心したと同時に、別に離れなくても良かったのに……と、ちょっとだけ不服に思ったのはここだけの話だ。
また子供扱いする……と不貞腐れながら大人しくチャコに頭を撫でられていたアルペックだが、早くデートに行こ?とチャコが小首を傾げてみせると、うん!と途端にむくれ顔が満面の笑みに変わった。ちょろすぎて少し心配になるが、アルペックにはずっとこのままでいてほしい。
斯くして、二人の休日デートが幕を開けた。
✦
「アルは今日服が見たいんだっけ?そしたらあっちの大通りの方がいいかな」
「んー、服というよりマフラーとか防寒具?いい加減冬支度せんと凍えそうなのに、去年買って使ってたマフラーに虫喰いできててな〜」
「去年買ったのにもう虫喰いって……ちゃんと保管してなかったんじゃないの?それ」
「わからん!けど、穴あきで風通し良いマフラー使うのは勘弁やー!」
デートといっても普段からお互いの国を行き来する機会が多く、お互いのおすすめスポットや所謂デートスポットと言われる場所は行き尽くしてしまっているため、今日の予定も街中をのんびりと散策しながらショッピングを楽しむというものだった。デートというほど特別感がないと言われたらそうかもしれないが、念願叶って恋人同士になることができたアルペックとのデートという時点でとても嬉しくて、どこで何をするかなんてチャコにとっては二の次だ。
ふらふらとショッピングを楽しみながら最近オープンしたかぼすジュースが飲めるドリンクスタンドに立ち寄ったり、新作のバナナアイスがメニューに加わったというカフェに入ったりとなんだかんだ寄り道しながら歩き回っているうちに、チャコが気が付いた時にはあっという間に辺りは寒夜の冷たい空気に包まれていた。
「いやー!あっという間に夜になっちゃったな、めっちゃ楽しかった!」
「俺も楽しかったよ。でも、アル……結局マフラーは買わずに終わっちゃったね」
「そうなんよ〜なんかこうな、もうちょっと!惜しい!みたいなやつはあったんだけどな?また次のデートの時に探す楽しみにとっとくわ」
「あはは!それじゃ次に俺と会うまでは風通しの良いマフラーで我慢だね?」
さり気なく次のデートの約束を交わしつつ、一緒に過ごした時間を楽しげに振り返りながらも、それを名残惜しむように二人の歩くスピードは次第にゆっくりなものになっていく。
今日のデートの終わりを感じる雰囲気に寂しさを感じてしまったチャコの口から、つい「まだ帰ってほしくないな」という言葉が溢れてしまいそうになったが、それを誤魔化すように慌てて口を噤んだ。チャコのわがままでアルペックの帰宅を遅らせてしまっては申し訳ないし、何より明日からまた騎士としての日常がやってくる。ここでアルペックを引き留めて万が一風邪でも引かせてしまったら、自分の主と良好な関係を築いているペックル様にも顔向けできなくなってしまう。
急に黙り込んでしまったチャコを心配するように顔を覗き込んできたアルペックに、そろそろ帰らないとだよね?と何食わぬ顔で投げかけようとしたその時、ふとポチャッコ様のお城の前に飾られた大きなクリスマスツリーが目に入った。
「うおー!キラキラのでっかい木だ!夜だと電気が付いてさらにキラキラで綺麗やな〜!」
「キラキラのでっかい木って……でも、本当に綺麗だね」
ポチャッコ様が自ら飾りつけに奮闘されていたそのクリスマスツリーは、赤や緑のリボンや星のモチーフなど、たくさんの飾りとあたたかなイルミネーションで彩られたとても大きく賑やかなものだ。先週の昼間にポチャッコ様が飾りつけをされる姿をチャコはすぐ側で見守っていたし、今日アルペックと街中を歩いていた時も何度か近くを通りかかってはいたものの、イルミネーションが点灯された夜のツリーを見るのはチャコも初めてだった。
大きなクリスマスツリーの周りにはポチャッコ王国に住む人々はもちろん、他国から遊びに来ていると思われる観光客の姿もちらほら窺える。刺すような冬の冷たい空気とは裏腹に、やわらかな淡い光に包まれたツリーを見上げる人々の表情も、優しくあたたかなものに見えた。
ちょっと眩しいな!なんて笑いながら、冷えた両手を擦り合わせて暖を取ろうとしているアルペックの横顔にちらりと視線を向ける。そのまま自身のがら空きの両手へと視線を落とした。
……手、繋ぎたいな。
隣で子供のようにはしゃぎながらクリスマスツリーに見惚れているアルペックに伝えたら、どんな反応をするだろうか。普段なら照れが勝ってしまうため、手を繋ぎたいだなんて言えた試しがないチャコだったが、今ならきっと言える気がする。意を決したチャコがアルペックに声をかけようと顔をあげると、いつの間にかツリーからチャコの方へ顔を向けていたアルペックと視線がぶつかった。
「どうしたの?アル」
「チャコさ、もしかして手とか寒かったりする?」
「えっ……と、それは、うん。今日すごく冷えてるし。それがどう、し……!?」
チャコの返事を遮るように、アルペックが自身の右手を握ってきたかと思えばそのまま指を絡め取られ、しっかりと恋人繋ぎにされた。アルペックに先手を打たれたことに対する驚きと、自分と同じように手を繋ぎたいと思ってくれていたのかな?という嬉しさで上手く言葉が出てこない。何も言えないままアルペックの顔を見つめていると、繋いだ手を確かめるようにぎゅっと強く握られ、繋いだ手ごとそのままアルペックのアウターのポケットへ突っ込まれた。
な、なにこれ……?何をされているのか理解できないまま、繋いだ手ごと急に引き寄せられたチャコは、勢い余ってよろけるようにアルペックの身体へぶつかった。
「わぶっ、あ、え?あ、ある……?」
「チャコ〜これなら寒くないな!」
アルペックのポケットの中で繋がれたままの手を何度も握られ、じわじわと気恥ずかしさと嬉しさが入り混じった感情がチャコを襲う。
きっと今、チャコは変な表情をしているだろう。アルペックに悟られないよう空いている左手でパーカーのフードを引っ張り、さりげなく顔を隠した。
「確かにあったかいけど!でもこれ、ちょっと動きにくいよ?」
「今はクリスマスツリー見てるだけだし、ちょっとくらい動きにくくても大丈夫!」
「う、動きにくいのは100歩譲ったとしても、この体勢……普通に手繋いでいる時よりもアルが近くて、その」
「あれ?チャコん顔赤くなってる、もしかしてドキドキしてくれた?……かーわいい」
「これは!寒くて冷えたから赤くなってるだけで、照れてるとかじゃ……!」
「オレはこうしてチャコと手繋ぎながら一緒に過ごせて嬉しいし、ドキドキしてちょっと照れてる!チャコは?ドキドキせん?」
「……俺も嬉しい。本当はアルと同じでちょっと照れてるし、心臓うるさいくらいになってる。その……恥ずかしいから、これ以上は言わせないで」
繋がれた手をそっと握り返しながら、自分の今の気持ちを素直に口にしてみる。
本当にアルには敵わないよ。頑なになった俺の心を、太陽みたいな笑顔とまっすぐな言葉であたたかく包んでくれる……そんなアルが俺にはちょっぴり眩しくて、何だかもったいない気さえする。
それでもアルペックの隣を他の誰かに譲る気なんて更々ないから、あれこれ巡らせていたネガティブな思考は投げ捨てて、数分前に口を噤んで隠してしまったアルペックへのわがままを口にしてみた。
「あのさ、アル。もう少しだけ帰らないで一緒に居てほしい……ダメ?」
「……!もちろん!!!!」
「ふふっ、ありがと。あと、抱きしめてほしいな?」
「!?今日のチャコなんだか積極的やな!そげなチャコもしんけん好きやし、もちろん抱きしめる!!」
「あはは!いい返事。俺もアルのこと大好きだよ。……ほんっと、アルを見てると眩しいよ。イルミネーションも顔負け」
「ん?オレは別に電球とかキラキラするもの何も身に付けてきてないけどな〜?」
「そういう意味じゃなくって!……アル、アルはずーっとそのままで俺のそばにいてね。約束だよ?」
「当たり前やん!来年も再来年も、ずーっと一緒にいような!チャコ!」
その言葉と共にアルペックのアウターのポケットの中で繋がれていた手が離され、一瞬寂しさを感じたのも束の間。まるで大切な宝物でも守るように優しく、しっかりとアルペックに抱きしめられた。大好きな恋人から貰った言葉とぬくもりを大事に守るように、チャコもアルペックの背中へゆっくりと腕を回す。
幸せすぎて怖いくらいの、アルペックとの愛おしい時間がずっと続きますように。
柄にもなくそんなことを願いながらアルペックの顔を覗き込んだチャコは、今度は自分が驚かせる番だというように、一瞬にこりと笑みを浮かべてみせる。不思議そうな表情で見つめ返してくる愛しい恋人の首に両腕を回したチャコは、冬の空気で少しだけカサついたやわらかなアルペックの唇へそっと口付けた。
「……!!!!ちゃ、ちゃ……!」
「あははっ、アルったら顔真っ赤になってる!」
同じくらい赤くなっているであろう自身の顔と、僅かに涙で濡れた眦を隠すように再びアルペックの背中に両腕を回し、その肩口に顔を埋める。恋人の温度と匂いを確かめるようにしっかりと抱きつき、深く息を吸った。
びっくりした!と顔を赤くして嬉しそうな笑顔を浮かべているアルペックに名前を呼ばれ顔を向けると、ほんのりあたたかい両手がそっとチャコの頬を包み込んだ。
今度はオレの番だとでもいうように、イタズラっぽい笑みを浮かべたアルペックの顔が少しずつ近づいてくる。最愛の人からの口付けを受け入れるべく、チャコはゆっくりと瞼を閉じた。
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