第1話
◆◆
「灰かぶり。」
シンデルラ/ヘンゼル
そんな言葉とともに服の裾がくんっ、と引っ張られた。振り返ると、かなり目線の下の方。作りは幼いのに大人びた表情ののった顔が見える。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてますよぉ、なんすか姐さん。」
そう答えるとかすかに、呆れたように緩む目尻。薄いが確かに感情を顔に露わにする。
「行かなくて、いいかい?」
「行くって、何処にすか。」
「下。」
すい、とそらされた視線。顔を見せないのは読み取られたくない時のクセ。それを知らないふりをして「珍しいっすね、そんな問いかけ。いつもの時期でもないでしょうに」と笑ってみせる。
「なら、いいけれど。」
掴まれていた裾から手が離れ、そのまま横を通り過ぎていく。その背は小さい、けれど誰より大きい。俺は知っている。
「今日、用事があるからしばらく遊んでおいで。」
「連れてってくれないってことは別の人んとこすか?」
「そ、だからついて来てはいけないよ。」
はぁい、と伸びた返事をすれば、「いいこ」と幼子にでも言うように返される。軽やかにその場から姿を消したのを見送り、さてどうしたものかと考える。遊んでおいでと言われても、いいと言った手前、降りる気も起きない。何も考えずふらふらと、下_現界がよく見えるところまで飛んでゆく。背の高い、ビルのうえから地上を眺める。無意識だがこれはいつもの姐さん_魔法少年ヘンゼルの習慣のようなもの。高いところからセピアの世界を眺める。意味不明な雑音に耳を傾け佇む。一体何を考えてここに在るのだろう。長い時間 を共に過ごし、何となく分かってきた姐さんのこと。でも、その横顔だけはいまだに分からない。
「先輩。」
突然かけられた声に振り返ると魔法少女まじかるぺぽか、彼がいた。どうやら後ろにも時々姐さんが声をかけられている魔法少年と魔法少女あとはメルさんもいるようだ。
「1人ですか……珍しい、ですね?」
「そんなことも無いけど、置いてかれちゃったんで。」
ちらっとだけメルさんに目線を送り、ぺぽかに向き直ると肩を竦めてそう答える。すると、ぺぽかはぱちくりと目を瞬かせた。
「いつも一緒にいるイメージでした……。そんな時もあるんですね。」
「まあ、こういう時はナイショナイショで連れてって貰えないんだ。」
「なるほど……。」
「それで、そんな悲しいぼっちの暇つぶしのために話しかけてくれたわけじゃ無いだろ?」
そう言うとぺぽかと他魔法少年少女が目を見合せ軽く頷きあった。
「あの日、ぼく達が集められた時。デアさんは何を考えていたんだろうって、これからぼく達はどうすればいいんだろうって……そう話してたんです。」
真剣な表情でしっかりこちらを捉えぺぽかは言う。後ろの2人もこくりと頷いた。
「あの時、ヘンゼルがかなり……なんていうか……デアに噛み付いてたろ?それで、何かこの事態について知ってるんじゃないかって。」
「あたしはデアさんを信じたい……けどちゃんと説明して欲しいって思って。なにか知っていることがあれば教えて欲しいなって思ったんだけど……。」
信じたい、デアさんを、か。
あの後、淡々と独り言のように呟いていた姐さんの横顔を思い出し目を閉じる。
「姐さんが噛み付くだなんて、随分可愛らしい表現だな……。嫌そうな顔をするのが目に浮かぶ。姐さんはなんか考えることがあるみたいだけど、俺は何も知らないよ。姐さんはそういうことは教えてくれないから。」
おどけたように、できるだけ軽快に。俺は難しいことはよく分からないと笑う。
「それについての話だったら姐さんは多分聞いたらあんたらになら教えてくれると思うよ。」
「僕たちに"なら"?さっきもですけどヘンゼルくん、先輩には何も……。」
聞いてもいいのかな?と伺うように。俺にもわかりやすいようにおずおず尋ねるぺぽかに。
「姐さんは、優しいから。」
俺には何も教えてくれない。
「灰かぶり。」
シンデルラ/ヘンゼル
そんな言葉とともに服の裾がくんっ、と引っ張られた。振り返ると、かなり目線の下の方。作りは幼いのに大人びた表情ののった顔が見える。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてますよぉ、なんすか姐さん。」
そう答えるとかすかに、呆れたように緩む目尻。薄いが確かに感情を顔に露わにする。
「行かなくて、いいかい?」
「行くって、何処にすか。」
「下。」
すい、とそらされた視線。顔を見せないのは読み取られたくない時のクセ。それを知らないふりをして「珍しいっすね、そんな問いかけ。いつもの時期でもないでしょうに」と笑ってみせる。
「なら、いいけれど。」
掴まれていた裾から手が離れ、そのまま横を通り過ぎていく。その背は小さい、けれど誰より大きい。俺は知っている。
「今日、用事があるからしばらく遊んでおいで。」
「連れてってくれないってことは別の人んとこすか?」
「そ、だからついて来てはいけないよ。」
はぁい、と伸びた返事をすれば、「いいこ」と幼子にでも言うように返される。軽やかにその場から姿を消したのを見送り、さてどうしたものかと考える。遊んでおいでと言われても、いいと言った手前、降りる気も起きない。何も考えずふらふらと、下_現界がよく見えるところまで飛んでゆく。背の高い、ビルのうえから地上を眺める。無意識だがこれはいつもの姐さん_魔法少年ヘンゼルの習慣のようなもの。高いところからセピアの世界を眺める。意味不明な雑音に耳を傾け佇む。一体何を考えてここに在るのだろう。長い
「先輩。」
突然かけられた声に振り返ると魔法少女まじかるぺぽか、彼がいた。どうやら後ろにも時々姐さんが声をかけられている魔法少年と魔法少女あとはメルさんもいるようだ。
「1人ですか……珍しい、ですね?」
「そんなことも無いけど、置いてかれちゃったんで。」
ちらっとだけメルさんに目線を送り、ぺぽかに向き直ると肩を竦めてそう答える。すると、ぺぽかはぱちくりと目を瞬かせた。
「いつも一緒にいるイメージでした……。そんな時もあるんですね。」
「まあ、こういう時はナイショナイショで連れてって貰えないんだ。」
「なるほど……。」
「それで、そんな悲しいぼっちの暇つぶしのために話しかけてくれたわけじゃ無いだろ?」
そう言うとぺぽかと他魔法少年少女が目を見合せ軽く頷きあった。
「あの日、ぼく達が集められた時。デアさんは何を考えていたんだろうって、これからぼく達はどうすればいいんだろうって……そう話してたんです。」
真剣な表情でしっかりこちらを捉えぺぽかは言う。後ろの2人もこくりと頷いた。
「あの時、ヘンゼルがかなり……なんていうか……デアに噛み付いてたろ?それで、何かこの事態について知ってるんじゃないかって。」
「あたしはデアさんを信じたい……けどちゃんと説明して欲しいって思って。なにか知っていることがあれば教えて欲しいなって思ったんだけど……。」
信じたい、デアさんを、か。
あの後、淡々と独り言のように呟いていた姐さんの横顔を思い出し目を閉じる。
「姐さんが噛み付くだなんて、随分可愛らしい表現だな……。嫌そうな顔をするのが目に浮かぶ。姐さんはなんか考えることがあるみたいだけど、俺は何も知らないよ。姐さんはそういうことは教えてくれないから。」
おどけたように、できるだけ軽快に。俺は難しいことはよく分からないと笑う。
「それについての話だったら姐さんは多分聞いたらあんたらになら教えてくれると思うよ。」
「僕たちに"なら"?さっきもですけどヘンゼルくん、先輩には何も……。」
聞いてもいいのかな?と伺うように。俺にもわかりやすいようにおずおず尋ねるぺぽかに。
「姐さんは、優しいから。」
俺には何も教えてくれない。