第1話
デア様は綺麗な方だ。綺麗は時々怖くて残酷。
今日はいつも通りのはずだった。いつも通りジャックくんたちとたわむれて、呼ばれたらお仕事して、時々現界に降りて。魔法少女になってから生きてた時よりずっと楽しかった。ずっとみんなとここにいたいなんて、そんなことねがったのがだめだったのかな。
デア様はいつも通りにこにこわらって、いつも通りじゃない、怖いことを言った。ヘンゼルくんといろいろ言い合いしてたことなんて半分も分からなかった。ただ、今までとはおんなじではいられないんだって。それだけは理解出来た。
みんながみんなさっきのことを受け止めて、散り散りになる中、動けずにいるぼくの顔をジャックくんが覗き込んだ。
「ぺぽか、大丈夫……じゃないよな。」
いつも元気な眉毛を下げてぼくのてをきゅっと握ってくれる。少しだけ、楽になった気がした。
「行こう」って手を引かれてその場から離れる。
ひと呼吸、ぼくは1度だけもうなんの気配もないあの場所を振り返った。
_______
「これからぼくたちどうしたらいいんだろう。」
いつもにこにこしている彼とはまるで別人の、迷子のような顔をしたぺぽかにジャックは何も言えずにいた。
「みんな、みんな消えちゃうのかな。」
ペぽかのその言葉にジャックはぱっと、いつの間にか落ちていた視線をあげた。瞳のふちに涙をため、今にも泣き出しそうなぺぽかの顔にジャックは居てもたってもいられなかった。
「殺し合いなんてするぐらいなら、みんなが死んじゃうくらいならぺぽかは、……っぺぽかは……っ!」
「俺だってこれからのみんなのことも俺がどうなるかもわからない!でも、だからって訳もわかんないのに泣いちゃダメなんてないと思う!」
ぽたぽたと涙のつぶをながし、感情がはじけてあふれだして、嘆くぺぽかの両肩を強く掴んでジャックは大きな声を出した。ぺぽかはびっくりしてぽろりぽろりと。あとからあとから溜まっていた涙が後を追った。
「俺はよく考えれられないからデアさんが何考えてるかもわからないし、あの時だってこぇーってびくびくしかしてられなかったしっ。だから、だからって言っていいのかわかんないけど、今はいっぱい泣いてまた考えればいいと思うんだ。」
言い切った!と何故か満足そうなジャックにぺぽかはきょとんとした表情をうかべた。しかし次第にくすくすと笑いをこみ上げさせて「なぁに、それ。」と涙の道を拭いながら笑った。
ひとしきり泣いて笑ってひと呼吸。相変わらず繋いだ手を少しだけ握りしめた。
「落ち着いたか?」
「うん。ありがとう、ジャックくん。
ぼくはぼくなりにいっぱい考えることにする。でも、きっとひとりじゃまた迷っちゃうと思うから、一緒に考えてくれるかな。」
「あたりまえ。」
ふたりは顔を見合せにーっと笑いあった。
ほのぼのしているとセピアの世界に影がさした。上を見上げると、それはふよふよキョロキョロと頼りなさげに浮遊している。
あっとぺぽかがあげた声にそれはこちらを振り返り、ふわりと近くに降り立った。
メル/ジャック&ぺぽか
2人の目の前の魔法少年_メルはそわそわ、少し決まりが悪そうに2人から目線を逸らしたが、こほんと1つ咳を払うと2人に向かって心配そうな顔をした。
「おふたりは……とくにぺぽかさんは先日のデアさんたちのアレで、その……大丈夫かなと思ったのですが。」
メルのその言葉にジャックとぺぽかは目を見合わせるとくすりと笑いあった。
「それなのですが、ぺぽか達はさっきいっぱい泣いて、休憩して、これからどうしようかって考えているところなのです。」
「そう、ですか。」
「メルさんは……メルさんはどう、ですか。」
「その事なのですが。」
ゆっくりとぺぽか、ジャックを順に見たメルは1つ、2人にこう提案した。
「これから、多分皆さん少し落ち着いただろうと、集まれる人で集まって話し合うみたいなのですが。一緒に来ますか?」
_________
メルに連れられやってきたのは空き地。一応公園のような体制を保っているのかベンチが1つ置いてあった。しかし、セピアの世界であるものの人の気配はなく、きっと寂しげな雰囲気なのだろう。
「おっ!きたきた、メルメル〜こっちこっち!」
スノー・ドロップ/アルルゥ
セピアに塗られより寂しげであろうこの場に鮮やかな色彩に彩られた影が2つ。片方はぺぽかたちを連れてきたメルに反応し、こちらに大きく手を振っていた。
「なになに〜ぺぽぽにジャックりんまで協力してくれんの〜?ありがと〜。」
「ぺぽかちゃんにジャックくん。君たちも来てくれてありがとう。」
2人に気づいたのかこちらへ小走りに寄ってきてぺぽか両手をとった少女_アルルゥは手をぶんぶんとふりながらにこにこと機嫌よさげだ。もう一方、ゆっくりとこちらに近づき少年_スノードロップはメルにご苦労さまと声をかけた。
「えと、ぺぽかたちはお話をするって聞いてきたんですけど……。」
「そう!デアちゃんさんの話聞いてどう思ったのか。これからあたしたちはどうすればいいのかって色々話し合おうと思って。まず集まれる人だけ集めようと思ってここに来たの。」
少し緊張した様子だったぺぽかもアルルゥの明るさに釣られ徐々に本来の元気の良さが戻ってきた所、本題へ移ろうと声をかける。
するとアルルゥは真剣な表情になり、4人をみわたした。
「デアちゃんさんはきっとまだ何か隠してる……でも、あたしはもうすぐ魔法少女になって10年になるけど。未だにわかんないことだらけだからさ。」
「こういう時こそ、よく知ってる人……古株魔法少年少女に話を聞きたいところだね。」
スノードロップの言葉にアルルゥはひとつうなずいた。ぺぽかはえっと、と声を零すと考えるように指をくるりと回した。
「古株……おそらく現魔法少年少女のなかでも古参とすると……。」
「魔法少女ドロップ。魔法少年ヘンゼル。あとは……メル、だな。」
ペぽかの言葉にジャックが1つ2つと指を立て、最後にメルの方を見やり、そうだろう、と投げかけた。
「僕はもう20年になりますけど……残念ながらめぼしい情報は持っていません。知っているのは……それこそ皆さんの言う通りデアさんが『何かを隠している』ことが事実であること。それについて何人かの魔法少年少女が探っていることのみです。詳しいことはまだはっきりしませんが……。何にせよきっとこの件については僕よりほか2人の方が詳しいでしょう。」
メルは静かに目を閉じそう語った。違和感のない違和感。疑問を持たなければ何も分からない謎の少女デア。そういえば彼女はどう言った存在なのだろう。そんなことさえ分からないままだ。
魔法少年少女歴の長い2人の魔法少年少女。彼、彼女ならば何か知っていることはあるだろうか。メルが知っている以上の『隠していること』のその内容を。
その時ふとスノードロップが宙を見やり呟いた。
「魔法少女ドロップ……そういえば最近見ませんね?」
その言葉に5人は彼女の姿を思い浮かべる。元気がいいがおっとりとしている、目の離せない姉の様なあの先輩魔法少女を。
「確かに……今回集められた中にも姿は見られなかったし……どうしたんだろう。」
あの衝撃の場でデアに反論したヘンゼル。それをいち早く収めようといつもであれば出てきたであろうあの少女の姿が記憶にない。ほか皆を見渡しても見ていないというふうに首を振るう。
「何にせよ居場所が分からないなら話を聞きに行けないよね。となると。」
「うん、ヘンゼルくん。だね。」
魔法少年ヘンゼル。デアについて色々と詰め寄った彼ならばきっと何か知っているだろう……。大きな武器を携え、小さな姿で大人びた少年。
人を拒絶する雰囲気があるがいつもであれば何だかんだ応えてくれるあの少年も荒れたあとだ。話を、聞いてくれるだろうか。そんな不安が過ぎる。
「ここで話しててもこれ以上は進まないし……よし、会いに行ってみようか。」
暗い雰囲気をふりはらうように、意識してか大きな声を出し立ち上がったアルルゥを見上げ4人も目を見合せ頷いた。
「そう、だね。会いに行くだけ行ってみよう。
えっと、ヘンゼルくんなら多分……。」
「高いところ。そういうところにいると思うよ。」
「よし、じゃあ先導はぺぽぽとメルメル!頼んだ!」
そうして、ぺぽか、メル、ジャック、アルルゥ。少し用事がといってその場を離れたスノードロップ以外の4人はさっそく空き地から宙へと飛び立った。
そういえば、とメルは高いところというあいまいな場所へと向かう皆に問いかける。
「魔法少年少女の死とはいわゆるデアさんの作った器の崩壊……のことですが。魔法少年少女は死んだら、その魂はどうなるんでしょうね。」
今日はいつも通りのはずだった。いつも通りジャックくんたちとたわむれて、呼ばれたらお仕事して、時々現界に降りて。魔法少女になってから生きてた時よりずっと楽しかった。ずっとみんなとここにいたいなんて、そんなことねがったのがだめだったのかな。
デア様はいつも通りにこにこわらって、いつも通りじゃない、怖いことを言った。ヘンゼルくんといろいろ言い合いしてたことなんて半分も分からなかった。ただ、今までとはおんなじではいられないんだって。それだけは理解出来た。
みんながみんなさっきのことを受け止めて、散り散りになる中、動けずにいるぼくの顔をジャックくんが覗き込んだ。
「ぺぽか、大丈夫……じゃないよな。」
いつも元気な眉毛を下げてぼくのてをきゅっと握ってくれる。少しだけ、楽になった気がした。
「行こう」って手を引かれてその場から離れる。
ひと呼吸、ぼくは1度だけもうなんの気配もないあの場所を振り返った。
_______
「これからぼくたちどうしたらいいんだろう。」
いつもにこにこしている彼とはまるで別人の、迷子のような顔をしたぺぽかにジャックは何も言えずにいた。
「みんな、みんな消えちゃうのかな。」
ペぽかのその言葉にジャックはぱっと、いつの間にか落ちていた視線をあげた。瞳のふちに涙をため、今にも泣き出しそうなぺぽかの顔にジャックは居てもたってもいられなかった。
「殺し合いなんてするぐらいなら、みんなが死んじゃうくらいならぺぽかは、……っぺぽかは……っ!」
「俺だってこれからのみんなのことも俺がどうなるかもわからない!でも、だからって訳もわかんないのに泣いちゃダメなんてないと思う!」
ぽたぽたと涙のつぶをながし、感情がはじけてあふれだして、嘆くぺぽかの両肩を強く掴んでジャックは大きな声を出した。ぺぽかはびっくりしてぽろりぽろりと。あとからあとから溜まっていた涙が後を追った。
「俺はよく考えれられないからデアさんが何考えてるかもわからないし、あの時だってこぇーってびくびくしかしてられなかったしっ。だから、だからって言っていいのかわかんないけど、今はいっぱい泣いてまた考えればいいと思うんだ。」
言い切った!と何故か満足そうなジャックにぺぽかはきょとんとした表情をうかべた。しかし次第にくすくすと笑いをこみ上げさせて「なぁに、それ。」と涙の道を拭いながら笑った。
ひとしきり泣いて笑ってひと呼吸。相変わらず繋いだ手を少しだけ握りしめた。
「落ち着いたか?」
「うん。ありがとう、ジャックくん。
ぼくはぼくなりにいっぱい考えることにする。でも、きっとひとりじゃまた迷っちゃうと思うから、一緒に考えてくれるかな。」
「あたりまえ。」
ふたりは顔を見合せにーっと笑いあった。
ほのぼのしているとセピアの世界に影がさした。上を見上げると、それはふよふよキョロキョロと頼りなさげに浮遊している。
あっとぺぽかがあげた声にそれはこちらを振り返り、ふわりと近くに降り立った。
メル/ジャック&ぺぽか
2人の目の前の魔法少年_メルはそわそわ、少し決まりが悪そうに2人から目線を逸らしたが、こほんと1つ咳を払うと2人に向かって心配そうな顔をした。
「おふたりは……とくにぺぽかさんは先日のデアさんたちのアレで、その……大丈夫かなと思ったのですが。」
メルのその言葉にジャックとぺぽかは目を見合わせるとくすりと笑いあった。
「それなのですが、ぺぽか達はさっきいっぱい泣いて、休憩して、これからどうしようかって考えているところなのです。」
「そう、ですか。」
「メルさんは……メルさんはどう、ですか。」
「その事なのですが。」
ゆっくりとぺぽか、ジャックを順に見たメルは1つ、2人にこう提案した。
「これから、多分皆さん少し落ち着いただろうと、集まれる人で集まって話し合うみたいなのですが。一緒に来ますか?」
_________
メルに連れられやってきたのは空き地。一応公園のような体制を保っているのかベンチが1つ置いてあった。しかし、セピアの世界であるものの人の気配はなく、きっと寂しげな雰囲気なのだろう。
「おっ!きたきた、メルメル〜こっちこっち!」
スノー・ドロップ/アルルゥ
セピアに塗られより寂しげであろうこの場に鮮やかな色彩に彩られた影が2つ。片方はぺぽかたちを連れてきたメルに反応し、こちらに大きく手を振っていた。
「なになに〜ぺぽぽにジャックりんまで協力してくれんの〜?ありがと〜。」
「ぺぽかちゃんにジャックくん。君たちも来てくれてありがとう。」
2人に気づいたのかこちらへ小走りに寄ってきてぺぽか両手をとった少女_アルルゥは手をぶんぶんとふりながらにこにこと機嫌よさげだ。もう一方、ゆっくりとこちらに近づき少年_スノードロップはメルにご苦労さまと声をかけた。
「えと、ぺぽかたちはお話をするって聞いてきたんですけど……。」
「そう!デアちゃんさんの話聞いてどう思ったのか。これからあたしたちはどうすればいいのかって色々話し合おうと思って。まず集まれる人だけ集めようと思ってここに来たの。」
少し緊張した様子だったぺぽかもアルルゥの明るさに釣られ徐々に本来の元気の良さが戻ってきた所、本題へ移ろうと声をかける。
するとアルルゥは真剣な表情になり、4人をみわたした。
「デアちゃんさんはきっとまだ何か隠してる……でも、あたしはもうすぐ魔法少女になって10年になるけど。未だにわかんないことだらけだからさ。」
「こういう時こそ、よく知ってる人……古株魔法少年少女に話を聞きたいところだね。」
スノードロップの言葉にアルルゥはひとつうなずいた。ぺぽかはえっと、と声を零すと考えるように指をくるりと回した。
「古株……おそらく現魔法少年少女のなかでも古参とすると……。」
「魔法少女ドロップ。魔法少年ヘンゼル。あとは……メル、だな。」
ペぽかの言葉にジャックが1つ2つと指を立て、最後にメルの方を見やり、そうだろう、と投げかけた。
「僕はもう20年になりますけど……残念ながらめぼしい情報は持っていません。知っているのは……それこそ皆さんの言う通りデアさんが『何かを隠している』ことが事実であること。それについて何人かの魔法少年少女が探っていることのみです。詳しいことはまだはっきりしませんが……。何にせよきっとこの件については僕よりほか2人の方が詳しいでしょう。」
メルは静かに目を閉じそう語った。違和感のない違和感。疑問を持たなければ何も分からない謎の少女デア。そういえば彼女はどう言った存在なのだろう。そんなことさえ分からないままだ。
魔法少年少女歴の長い2人の魔法少年少女。彼、彼女ならば何か知っていることはあるだろうか。メルが知っている以上の『隠していること』のその内容を。
その時ふとスノードロップが宙を見やり呟いた。
「魔法少女ドロップ……そういえば最近見ませんね?」
その言葉に5人は彼女の姿を思い浮かべる。元気がいいがおっとりとしている、目の離せない姉の様なあの先輩魔法少女を。
「確かに……今回集められた中にも姿は見られなかったし……どうしたんだろう。」
あの衝撃の場でデアに反論したヘンゼル。それをいち早く収めようといつもであれば出てきたであろうあの少女の姿が記憶にない。ほか皆を見渡しても見ていないというふうに首を振るう。
「何にせよ居場所が分からないなら話を聞きに行けないよね。となると。」
「うん、ヘンゼルくん。だね。」
魔法少年ヘンゼル。デアについて色々と詰め寄った彼ならばきっと何か知っているだろう……。大きな武器を携え、小さな姿で大人びた少年。
人を拒絶する雰囲気があるがいつもであれば何だかんだ応えてくれるあの少年も荒れたあとだ。話を、聞いてくれるだろうか。そんな不安が過ぎる。
「ここで話しててもこれ以上は進まないし……よし、会いに行ってみようか。」
暗い雰囲気をふりはらうように、意識してか大きな声を出し立ち上がったアルルゥを見上げ4人も目を見合せ頷いた。
「そう、だね。会いに行くだけ行ってみよう。
えっと、ヘンゼルくんなら多分……。」
「高いところ。そういうところにいると思うよ。」
「よし、じゃあ先導はぺぽぽとメルメル!頼んだ!」
そうして、ぺぽか、メル、ジャック、アルルゥ。少し用事がといってその場を離れたスノードロップ以外の4人はさっそく空き地から宙へと飛び立った。
そういえば、とメルは高いところというあいまいな場所へと向かう皆に問いかける。
「魔法少年少女の死とはいわゆるデアさんの作った器の崩壊……のことですが。魔法少年少女は死んだら、その魂はどうなるんでしょうね。」