突然に唐突にこの少女、デアによって理不尽にも幕を切られた殺し合い……いや、潰し合いに一同は様々な思いを抱いたであろう。
静まり返った場に対し満足そうな様子のデア。
「目処が立った、僕たちはもう不要、慈悲より1人だけに希望を。なるほど、お前は僕たちを最後まで楽しんで貪り尽くしたいらしい。｣
静寂を切り裂くように、1人の少年の声が落ちた。コツコツと宙を歩くように、ちいさな少年は前に出て、強くデアを……デアの愉快そうに歪んだ瞳を見つめた。
「だがお前の力なら今まで通り僕達をこのまま維持することも来世に願いをかけたい者を通常通りの輪廻へ戻すことだってできるはずだ。なぜ、そこまでして僕達を戦わせようとする？」
少年＿＿ヘンゼルがかすかに動く度、彼の持つ杖が小さく音を立てる。物静かな少年の激。それを感じたか否か、デアは小さく笑うとゆったり、瞬きをした。
「あぁ、ヘンゼルさん。なんだか色々妄想が混じっているようですので誤解からときましょう。私はアナタたちを弄り回して楽しもうだなんて微塵も思っていませんよ？そもそもあなたたちがここの空間に存在していることがイレギュラーなんです。しかし、私の「お願い」を叶えてくれる存在が欲しかった、だからそれをアナタ達に依頼したんです。」
そうでしょう？皆さんも、皆さん自身の意思で私の「お願い」を叶えてくれると約束してくれたんですよね？とゆっくりと瞳を開き、ヘンゼルの後ろの魔法少年少女たちを見渡した。
「これはある一種の契約書のようなものです。アナタたちは私の「お願い」を叶え、私はアナタたちをココに存在させ尚且つ頑張り次第では自由になる体を手に入れることだってできる、その環境を与えました。まだ未練があったのでしょう？私はそれを叶えました。」
「しかし今後アナタたちの仕事が無くなります、するとアナタたちが私に支払えるものは無くなり私はアナタたちをココに維持する義務が無くなるんです。本当だったら皆さんを解放しておしまいですけど私にだってそれは流石にという痛む心があります。だから1人にだったら私の力を振り絞り来世を素敵なものにできるそう言っているんです。」
至極当然のことだと言うように、残念だと悲しむように、素敵な夢物語を紡ぐように、表情をくるくるわかりやすく、演じるように変えて身振り手振り、デアは演劇をするように語った。
「僕たちは仕事とはいえお前に共同で何かをさせられたりした仲だ。それを相手に潰し合いをさせる。それがお前の優しさか。痛む心？お前にそんな心なんかないだろう。」
「……話が通じませんねぇ。私の心の有無なんて些細なこと。私は今、あくまでボーナスステージのようなものを用意したまでです。まぁ、この戦いから降りると言われてもつまらないので許可なんてしませんけれど。」
もううんざりですと言った顔をして「もういいですか？私そんなに暇じゃないんですよね」とデアが自身の髪の毛にふわふわ触れると彼女の体はキラキラと淡い光、そこから段々と強く輝き出した。
＿＿逃げるつもりかっ！ヘンゼルはぐっと歯を強く噛み締めるとデアに向かい手を伸ばす。しかしその手はデアに届く前に弾かれ、ヘンゼルの前に白うさぎを思わせる少女が立ち塞がった。
スターリィ・ナツ/ヘンゼル
「あはぁ。いいこ、ですね。それでは、皆さん。さようなら。」
あっ＿……と目を見開いたその隙に、デアは星屑の瞬きを微かに残して消え去ってしまった。
「……何のつもりだい"お姫様"？」
小さな舌打ち。わざとらしく、うやうやしい呼び名で呼ばれた少女＿＿スターリィ・ナツはその顔になんの表情も浮かべない。ただ淡々と唇を動かす。
「デア様、もう帰るから、引き止めちゃだめ。」
「……だから僕の邪魔を？所詮君だってあいつのお人形遊びのコマのひとつだ。君の行動にあいつは興味を示さない。無駄だ。」
「関係ないそれでも構わない。デア様はさっきもいいこって言ってくれた。私だけに。それだけでいい。」
「……またお得意の番犬（わんちゃん）気取りか。いいように飼い慣らされて、ご機嫌だねぇ？」
ヘンゼルは手に持つ杖の切っ先をナツの目の前に突き出したがナツは微動打にせず、平然とした顔でヘンゼルの瞳を見つめ返す。
一触即発、静かなる睨み合いは想像よりもわずか、ヘンゼルが杖を下ろしたことにより終わりを告げる。いつの間にか武器形態にしていた杖を元に戻すヘンゼルは鉄の擦れる音と共にため息を漏らし首をくるりと回した。
「興ざめだ。君と"お話"をしたところで何になる訳でもない。いくよ、灰かぶり。」
ヘンゼルは振り返ることなくふわふわとどこかへ飛んでゆく。その後を「灰かぶり」と呼ばれた背の高い少年はちらりとこちらを伺いながらも後を追った。
その場に残された他魔法少年少女たちはナツの「では」という短い言葉とふわりと浮上していく身体を見ると同時にちりじりに動きはじめた。